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駆ける刑事前線  作者: 内村
警部補 熊谷好雄
13/15

第一話「若き係長と少女の心」

今回から登場する琴音というキャラのCVは加隈亜衣さんです。

1


 一人の小柄な女子高生が、一人でトボトボと歩きながら自宅に向かっていた。

 自宅であるマンションに行くと、怪しい格好の男とすれ違った。顔はマスクと濃いレンズのサングラスで見えない。しばしその男の後姿を追い、男は赤いフォルクスワーゲンポロに乗り去って行った。

 彼女は自分の家のポストを開けた。中には封筒に入った二通の手紙があった。二つとも彼女、”暁琴音”宛ての物だ。彼女は曇った表情で階段を上がっていき、五階の505の部屋の扉を開けた。鍵は掛かっていない。扉を開けて中に入り「ただいま」と言った。

 だが返事が無い。今日仕事が休みの母がいるハズなのだが、寝ているのかと思いリビングに足を運んだ。リビングにはカーペットの上で仰向けで倒れている母”朱音”の姿があった。

「お母さん…そんなとこで寝ちゃダメでしょ…」

 母は、ピクリとも動かない。

それどころか、寝息も聞えてこない。そして少し辺りが鉄の臭いがする。

「…お母さん?」

 しゃがんで母を揺さぶり、起き上がらせようとする、


と、彼女の手に大量の母の血が付着していた。

「……え…?」

 彼女の手から母が落ち、母は彼女に顔を向けた。その顔から察するに、彼女の母は、

既に死んでいた。

「__きゃあああぁぁぁぁっ!!!」




 とある商店街の裏路地を、二人の男が駆け回っていた。一人は本能の赴くまま逃げ続ける男、もう一人はグレーのスーツに身を包み己の体力に自身があるが如く軽い身のこなしで障害物を越える”刑事”__。

 男は路肩にあったダンボールの山やポリバケツを倒し、刑事はそれを飛び越えていった。

「待て!!」

「くっそォ…!!」

 すると突然、左側から一台のブルーバードシルフィが飛び出し急停車した。男はシルフィのフェンダーにつっかえてボンネットの上を滑り地面に頭から落ちて大の字になった。立ち上がろうとしたがシルフィを飛び越えた刑事に飛び込まれ、刑事は柔道の絞め技をかけた。男はタップアウトをし、刑事は絞めを緩めた。

 ブルーバードから一人の若い男が降車し、もう一方からティーダラティオがサイレンを鳴らしながらやって来て、女が降車した。二人は『西新宿署』所属の刑事、男は”小森俊介”、女は”小美川留美子”だ。

「大丈夫?」

「大丈夫大丈夫、すぐに手錠掛けるから…!」

 片手で手錠を男の両手に掛けた。だが足りない。

「…小美川さん、手錠貸して…っ!」

 小美川は絞め技をしている刑事に手錠を渡した。

「さて、ひったくりの現行犯で逮捕!」と追っていた男の両足に借りた手錠を掛けた。

 刑事の名は”熊谷好雄”。西新宿署で二十代中旬という若さで刑事課強行犯係の係長をやっている。



2



 ティーダラティオにひったくり犯を乗せて署に行き、被害者に盗られた物を渡してから犯人を取調室に叩き込んだ。

 ”香取博之”が暴力犯係に移動して数週間後、強行犯係はたったの三人で事件解決に奮闘していた。

「いやぁー香取さんが移ってから色々寂しくなってきたねぇー」

「ですね…」

「だいたいこの重要な課の更に重要な係の人員がたった三人っていうのがおかしな話よ!もっと人員を派遣してくださいよ!」と小美川は課長の”墨田正孝”に訴えた。その話を聞いて彼は渋い顔をしながら茶を啜る。

「仕方ないでしょ!今どれくらい全国の警察官が減ってるか分かってるでしょ?それにこの課で一番重要なのは出動率が高い盗犯係だよ!」

「ぐぬぬ…」

「はぁ…香取さんが戻ってくるのを待とうか…」

 すると、入電が入った。

《警視庁から入電中。新宿区戸山公園周辺のマンションで、女性が殺害されているとの通報。付近の警察官は現場に急行せよ。警視庁から__》

「えー、帰ってきたばかりで取り調べしてないのに…」

「行きましょう!」

「分かってるわよ…」

 三人はオフィスを出て駐車場に向かった。

 好雄が運転しているV37スカイラインに俊介は乗り、後ろから小美川が運転しているシルフィがついていった。



3



 例のマンションには既に三台の白黒のパトカーが停まっていた。V37とシルフィはマンションの入り口前で停車した。

皆五階に登り、制服警官に現場を案内された。そこには、四十代のご婦人の刺殺死体があった。腹部と胸部を何度も刺されたようだ。

「被害者はこの部屋に住んでいる“暁朱音”さん四十七歳です。近所のスーパーのパートで、今日は休みでした」

「第一発見者は?」

「娘の“暁琴音”さん、十八歳の高校生です。今近くの病院で精神的治療を」

「そうか、ありがとう」

 制服警官は自分の持ち場に戻って行った。

 好雄達は部屋を一室ずつ回った。トイレの窓が外側から割られている。寝室のドレッサーの引き出しは開かれており、物が盗まれたと分かる。

「目的はやっぱり強盗ですかね?」

「半分合ってるかも。多分犯人は空き巣だ。留守だと思った犯人がトイレの窓を割って入り金品を盗もうとしていたんだと思う。けどこの人に見つかり、目撃者を消そうと刺し殺してから物を盗んだってところかな…ん?」

 好雄はトイレの窓を凝視している俊介を背にして琴音の部屋に入った。特に荒らされた痕跡は無い。

だが気になる物を見つけた。使い古された学習机の上に、幾枚もの小さめの封筒の束があった。全て宛名が暁琴音で、十枚ずつ束ねて輪ゴムでくくられている。一枚一枚日付と曜日が書かれており、毎日の様に送られているのが分かる。しかし差出人は書かれていない。

(何だこれ…?)

 その封筒を手に取ろうとしたが、やめて二人のもとに戻った。

(事件と関係ないプライベートなことだったら警察としてマズいか…)

「これからどうします?」

「遺体を鑑識に回し近隣住民に聞き込みをする。多分娘さんの容態はまだ良くないだろうし…」

皆マンションを出て、遺体を運んでいる車を囲んで署に戻って行った。

(香取が居たらもっと進展していたのかもな…)



 夜。好雄は帰宅した。ティーダを父のデュアリスの隣に停めてから家に入る。

「ただいまー」

「おかえりー」

 リビングに行くと、ソファに小学生の妹の“葵”が寝転がってスマホを弄り、父“隆雄”が電子タバコを咥えながら新聞を読んでいる。台所では母“広恵”と中学生の弟の“雅雄”が夕食の後片付けをし好雄の夕食を盛っている。姉の“茜”は彼氏のもとに行き家には居ない。葵の服装は前の学校占領事件での出来事がトラウマになったのかそのことも含めて反省しているのか、身体のラインを強調せず肌の露出の少ないような服を着ている。

「最近帰りが早いな」

「香取が移転したから無茶することが減ったんだよ。居なかったら居なかったで事件の進展は起きないし…」好雄はソファにどかっと座ってネクタイを緩めた。

「まるで俺が刑事現役だった頃みたいだ」父は新聞から目を離し眼鏡を外した。

 隆雄は現在方面本部長だが、昔は西新宿署で刑事をしていた。その頃、小美川留美子の父“芳次”も西新宿署の刑事だった。

「芳次さんが昔出張で函館に行っていたことがあって、その時の強行犯係は私を含め四人になった。芳次さんは娘さんと違って荒っぽい人だったから印象が強かったし、あの人はいつも事件解決の支えになっていたから、皆事件解決に苦労したよ…でも娘さんは奥さんに似て良かったな」

「小美川さんのお父さんがそんな…」

「ところで、そっちは今何を追ってるんだ?」

「殺人。多分空き巣」好雄は現場で俊介にも言った事件の考察を話した。

「犯人の目撃情報は?職場の人からも何か聞いたか?」

「小美川さんが近隣住民へ聞き込みをして、今整理してる。俊介君は職場に聞き込み。明日二人からの結果を聞く。それまでこれ以上のことは分からない」

「そうか…」

「…父さん」

「何だ?」

「高校生の女の子に今時手紙で送るような相手って何だろ?」

「手紙?若い子は皆パソコンでメールとかじゃないのか?」と葵を見ながら言った。

「今の時代スマホだよ…」

「送るとしたら手紙じゃなくて専門学校とかの資料くらいじゃないか?」

「資料とかそういうのじゃないんだ…」

「中は見たか?」

「人のプライベートなことに易々と首を突っ込んだりなんかしないよ…でも、なんか怪しいんだ。毎日の様に送られていて、差出人の名前が書かれてないからさ…」

「何だそりゃ…」

「ま、進展があったらまた今度話すよ…」



 翌朝。出勤早々好雄は俊介に呼び止められた。

「好雄さん、殺された朱音さんのことで妙な話が…」

 その後小美川も聞き込みの結果を伝えに来た。

 この半年間、職場や町内会の集まりで、いつも朱音の表情は曇っていたらしい。ワケを聞いても「私にも分かりません」とだけ返していたそうだ。

「僕分かった気がします!もしかしたら朱音さんは、前から誰かに命を狙われていたのかもしれません!自分の身に危険を感じながら出勤したり集まりに出席していた!事件の犯人が物を盗んだ痕跡を残したりわざわざトイレから入ったのは強盗殺人や空き巣と見せかけるためのフェイクかも!」と俊介は自信を持って言った。

「それはどうだろ…何か命を狙われるようなことをしたとかは無い?」

「ありません。町内の人とは仲が良く問題も起こしていません」

「そっちは?」

「えっと…仕事でのミスはかなり少なく、お客さんとの揉め事も全くありませんでした…」

自信に満ちていた俊介の表情が消えた。

「…俊介君、僕と娘さん居る病院に行こう。小美川さんは鑑識行って」

「「はい」」



4



 V37で琴音の居る病院に向かい、先に先生に面会の許可を貰いに行った。先生は険しい顔になった。

「彼女の精神状態はまだ安定しきっていません。それでも良いんですか?」

「はい。とりあえず今回は軽い話で…」

 病室に案内され、彼女は個室のベッドで横になっていた。木漏れ日の差す窓の外をただ黙って濁った目で見つめている。二人が入ると彼女は上半身を起こして二人に顔を向けた。

「初めまして。僕は西新宿署の熊谷好雄。この人は小森俊介。よろしく」「よろしくね」

 琴音は小さく頷いた。

「…お母さんのことで、聞きたいことがあるんだ」

 琴音の身体が震えだした。血に濡れた母と自分の手を思い出してしまったのだろう。

「はっ、話したくなかったらそれで良いんだ!落ち着いて…」

「い、いえ…御気になさらず…」

 どうやら彼女は二人のために必死に思い出そうとしているようだ。

「無理して思い出さなくていいから__」


 すると、病室に誰かが入ってきた。その人物に好雄は見覚えがあった。整った7:3の髪、紺のスーツに黒いコートを着、縁の細い眼鏡を掛けている。後ろにはその者の部下と思わしき数名が居る。

「おやおや、好雄じゃないか」

「“誠一”…何でここに居る?」

「この事件は都内で起こっている事件と関連性が高い。それにこれは殺人だ。我々本店が来て文句があるのか?」

「いや…」

「大体、お前ら解決する気があるのかってくらい進みが遅いんだよ。人手不足だからなんて言わせないぞ?」

「……。」

「言い返せないか…

代われ」

「わかった…俊介君、出よう」

「は、はい…」

 二人は廊下に出て、警視庁捜査一課の“横田誠一”率いる団体に聞き込みを代わった。

(香取だったら無視して続けてたかもな…)

 好雄は扉を少し開けて中を覗いた。

「事件発生当時、アナタは何をしていましたか?」

「私は…あの日、学校で、寄り道をしないで帰っていました…」

「怪しい人を見かけませんでしたか?」

「えと…あ…」

 何か知っている。だが全てを思い出すのが怖いのか震えが増し、自分を押さえ込み、涙が溢れている。

だが誠一は容赦しなかった。

「答えろ!!」

「ひっ…!!」溢れていた涙が零れ落ちた。

「何か知っているんでしょう?全部話してください。事件の鍵はアナタが握っています。犯人を早く逮捕してほしいなら警察に協力し__」

 好雄が病室に入ってきて、誠一の胸倉を掴んで思いっきり引っ張って睨みつけた。

「怖がってるだろ…大声出すな…」

「…わかったよ」

 好雄は胸倉から手を離し、誠一は部下を引き連れて廊下に出て行った。部下の一人が好雄の方をポンと叩いた。同じことを思っていてスッキリした者だろう。

「…ごめんなさい。皆落ち着きがなくて」

「いえ…私のせいです…!私が、すぐに思い出せないから…」

「そんなことはありません。

いつでも良いので話してください。ではこれで失礼します」

 好雄は廊下に出て、誠一達を睨みながら見送っていた俊介とともに病院から出た。

 駐車場に行くとマークXの覆面パトカーを囲む様に誠一達が立っていた。

「何か聞けたか?」

「いや、何も。とりあえず落ち着かせてる」

「はぁ…おっそいねーどうも…こんなんじゃぁいつまで経っても捜査が進まないよー」

「だからってお前みたいなやり方は誰も褒めないぞ」

「ふーん…ま、頑張れ」

 誠一達はマークXに乗り込み病院を出て行った。

「何なんですかアイツ…!」

「前からああいう奴なんだ。被害者の心なんか知ったこっちゃ無いってね…」



 V37に乗って署に戻り、鑑識から帰ってきた小美川に話を聞き、三人で捜査会議に向かった。

「死亡推定時刻は娘さんが帰宅する十分前の四時四十分と思われます」「近隣住民からの犯人の目撃情報はありません」と小美川よ俊介が言った。

「防犯カメラはありませんでしたか?」

「はい」と誠一が立ち上がった。

「古い建物で防犯カメラは設置されていませんでした」

「そうか…娘さんから事件に関する話は聞けましたか?」

「まだです」

「早期に聞き込むように。

被害者の遺体から何か分かりましたか?」

 小美川は立ち上がった。

「被害者は腹部から胸部に五度包丁で刺され、左手の薬指に指輪の痕が残っており犯人は被害者から指輪を奪ったと思われます」

「他に何か分かったことはありますか?」

 皆立ち上がらなかった。

「では、引き続き犯人の捜索と盗品の調査を続け被害者の娘から話を聞いてください。解散」

 皆立ち上がり各々の仕事に戻った。

「娘さんからの話どうするの?」

「もう少し様子をみてからにする。あの様子じゃ当分話せないよ」

「とはいえ何か知ってるみたいだから、何かあったら話してほしいですね…」

「そうだな…」

 オフィスに戻り各々のデスクに座ろうとした。

 すると、盗犯係の数名が駆け出して行った。好雄は“稲穂隼人”を呼び止めた。

「何があったの?」

「七丁目のアパートで空き巣の通報!」

 隼人は他の盗犯係の者の後を追った。

「そういえば小美川さん。今回の事件、都内で起こってる事件と関連性が高いって聞いたけど?」

「えぇ。窓を割って入って金品を盗む、目撃者によると赤い車に乗って逃げたそうよ。遠めだったから車種とナンバーは分からなかったらしいわ。足跡も見つけて、同じものだと分かったから調べてる最中」

「そうか…」

 すると、盗犯係に電話が鳴り残っていた盗犯係の刑事が受話器を取った。

「はい盗犯係……はい、了解しました」

 受話器を置くと好雄達に向いた。

「千代田区のリサイクルショップに盗まれた宝石が買い取りに出されたそうだ」

「本当ですか?!」


 好雄達はそのリサイクルショップに向かった。既に制服警官や本店の刑事達が居た。

「これが買い取りカウンターに出された物です」

 店員は箱に入った指輪やネックレスを見せた。本店の刑事は被害者からの証言をメモした紙を見ながら物を見比べた。

「どれも特徴と一致しています。間違いありません」

 一致した盗品は指紋を採取するため鑑識に送られた。

 パトカーに戻ると無線から通信が入っていた。

「こちら西新520、どーぞ」

《西落合で赤いコンパクトカーが炎上しています。至急現場に向かってください》


 炎上していた車は赤いポロ。事件の目撃者に見せるとこれだとハッキリ言った。

 盗品からは犯人の指紋は採取できなかった。店に持ってきていた時犯人はマスクをしており、盗品は別の箱に入れられており物には一切触れていないようだった。身分証明書である免許証は写真を変えた盗品だった。店の防犯カメラには犯人は顔を下に向けていて目が見えなかった。

 靴も商品が特定されたが大量生産されている人気商品だった。

 好雄達はデスクの上で手で顔を押さえていた。

「お先真っ暗だ~…」

「どうします?証拠ありませんよ?」

「有力な手がかり燃えて指紋取れなくて靴はバカ売れの物……うぁぁ香取ぃ~!!戻って来ぉ~い!!」と好雄らしくないことを言い出した。

「無理でしょうねぇ~…」小美川は戸河内を見ながらそう言った。戸河内もこっちを見た。

「はぁ…近い内に娘さんに本格的に話を聞いてこよう…」

「ですね…」

 すると、入電が入った。

《警視庁から入電中。新宿区中井一丁目で暴行事件が発生。犯人はバットを所持している模様__》

「…行こうか」

「「はい…」」



 その一方で、病院では。

「大変です!!暁さんが居ません!!」

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