最終話「西新宿署よありがとう」
1
公衆電話から出た香取は公園から離れ走っていた。後ろからは発砲してくるダニエルの部下達が追ってきている。
すると突然ダニエル自らが運転しているベンツが香取の前に現れた。元軍人とあってジープで腕を鳴らしていたのか良いハンドル捌きをしている。彼と福原は既に開いていた窓からM1911を握った手を出して香取の足を目掛けて発砲した。弾は右脚の太ももを貫通した。
「うぐ…ッ!!」
痛覚を我慢して、前に停まったベンツを飛び越えて再び走りだした。
小美川は運転しているJ31ティアナのサイレンを鳴らさずに新宿のビル群を猛スピードで滑走していた。すると、小美川のスマホに好雄からの電話が掛かってきた。
「どうしたの?」
《場所が分かった!!》
「ほんと?!どこ?!」
場所を聞き、戸河内は脳内の地図で周辺を探った。
「方向は合ってる…このまま行け!!」
「はい!!」
ティアナは更に加速してドリフトをして曲がって行った。
走り続けていると、一軒の廃工場に辿り着いた。中に入ると、タイヤやボンネット、エンジンの無い埃と錆に塗れた車や修理用の器具が置かれている。廃車の窓が敵の弾丸で砕かれて埃が舞い、香取は倉庫の奥に進んで行った。敵のランクルは工場の扉を突き破って停車し、ダニエルの部下達が降車した。
「逃がすな、追え追え!!」
香取は悪ガキ達の溜まり場と思わしき場所に出た。壁や器物にスプレーで描かれた落書きがあり、床には空き缶やペットボトル、吸殻等のゴミが散らばっている。そして香取は気づいた。
行き止まりだ。
「しまった…!!」
後ろから来ていた足音が止まった。振り返るとそこには、ダニエルと福原を筆頭に殺意を露にしている部下達が通路を塞いでいた。
「終わりだ、香取君…」とダニエルは言い、福原は香取にM1911を向けた。
「あぁ…チクショウ…」
「銃声がしたのはここ?!」
「みたいだな!!…ばっ、お前何する気だ?!」
「こうして敵を引きつけます!!」
「お前思考がアイツに似てきたぞ!!」
香取達がいる倉庫の薄い壁がティアナによって突き破られた。皆唐突すぎて驚愕した。そのティアナは香取を隠すように激しく停車した。
「な、何だ?!」「う、撃て!!とにかく撃てェー!!」
敵達はティアナに向けて一斉掃射を始めた。
被弾している方とは反対、香取の居る方から小美川と戸河内が身を低くしながら降車した。
「小美川?!!何で来た?!!」
「当然でしょ、仲間なんだから…」と彼女は微笑んだ。
「っにしても似合わない髪ねー!キャハハッ!」
「お前、こんな時に…何言ってんだよ…!」
香取は半泣きしていた。小美川がわざわざ自分のために来てくれたことに驚き、喜び…だが失いたくない者達の中の一人、死んでほしくはない。そんな不安が香取を惑わす。かといって、ここまで来る度胸が彼女にあったのだから、もしかしたら、皆で生きて署に帰れるかもしれない…。
香取は後者を信じることに決め、涙を拭い、二人から銃を貸してくれるようお願いし、戸河内からM37を借りた。
「うっし…じゃあ反撃開始だ!!」
「えぇ!!」
小美川と立ち上がり、各々の拳銃を弾が切れるまで撃ちこんだ。彼らは一時後退し、一方で三人はティアナを飛び越えて前進し、被弾した敵が落とした銃を各々拾い上げた。
小美川がグロック19を障害物に隠れている彼らに向けて撃ち、その隙に香取が裏に回りこんでM4を彼らに向けて乱射し更に前進していく。
ダニエルと福原はベンツの近くに戻っていた。
「先に別荘に行きましょう。本拠地は今頃SATに囲まれているハズです。私はここで連中の始末を」
「わかっている。
福原、あの三人を片付けてこれたら、次のボスの権限をやる」
「感謝の極みです…」
ダニエルを乗せたベンツは福原よりも下っ端の部下が運転し、倉庫の敷地を出て行った。
福原はトカレフTT-03を取り出しM1911とともに構え倉庫内に戻った。
その後ろで、SUVの下には好雄が隠れていた。手にはip○d、その画面にはダニエルのベンツの位置情報が表示されている。福原の姿が遠くに行くと、SUVの下から出てスマホを取り出した。
「俊介、追跡頼む」
「了解!」
俊介はナビに表示されているベンツの位置情報を頼りにステージアを発車させベンツの方に向かった。
別のフロアに行き二手に別れて、香取と小美川は東側、戸河内は北側(出入口側)に向かって前進した。
先を走っていた小美川はどんどん進んでいく。
とその時、香取の後ろから小さな足音が聞えた。すぐに振り返ると、二挺の銃を構えている福原が居た。香取は咄嗟にグロック17を向け、二人とも目の前の相手に向けて乱射した。トカレフの弾が香取の脇腹を貫き、M4の弾が福原の左肩を貫いた。二人とも床に倒れ、福原はトカレフを落としてM1911のみを香取に向け、香取は弾切れになっていたM4を取り出し福原に投げつけた。福原はM1911を持っている手でM4を弾いた。その頃には香取は立ち上がって福原の間近に来ていた。彼の顔と右腕を蹴りM199を奪い取って彼の上に仁王立ちしてM1911とグロック17を福原の頭部に向けた。
「ダニエルはどこに行った?!」
「自分で探せェ!!!」
福原は香取の足を殴ってから力を振り絞って立ち上がり腹に頭突き、思わず二挺の引き金を引きながら香取は倒れた。M1911を取り返した福原は香取に銃口を向けた。が、M1911はホールドアップ状態になっており、すぐさま銃底で殴る体勢をとった。香取は立ち上がろうとしたが、その後どうすればいいのか分からなかった。福原の落としたトカレフは遠い。
すると、
「香取君!!?」
あまりにも来るのが遅いと思って小美川が戻ってきてすぐに駆け寄ってきて香取の前に立ち、G-SHOCKの腕時計を盾にした。出っ張りによってガラスが割れ周りが凹んだ。そのぐらいで小美川には直接的ダメージは大して入っていない。
「この女…!!」
小美川の後ろで香取は立ち上がり小美川がズボンに隠していたS&WM10を取り出し福原の腹や胸、脚を撃ちぬいた。傷口から血を噴いて倒れ、彼はしばらくして息絶えた。
二人は落ち着き、小美川はG-SHOCKを手首から外した。ガラスの割れはそこまで酷くはないが文字が読めない。
「うわぁ~…修理出せるかなぁ~…」
「ま、直せなかったらまた新しいの買ってやるよ」
「あら、太っ腹…え?また?」
「にしても、どうすっかな…奴を逃しちまった…」
「心配には及ばないよ」と二人の後ろから好雄が現れた。
「好雄君!?」
「対象の車にGPS発信機を付けた。今俊介が追ってる」
「ほっ…良かった…」
「いや、まだ安心できない」
「そうだな。アイツが先走ったり先立たれたりしないよう急ごう」
「えぇ」
三人は戸河内と合流した。倉庫の外に出ると白黒パトカーと救急車が到着していた。四人は好雄が乗ってきたY33レパードに乗り込みダニエルの方に向かった。
すると、好雄が持っていたトランシーバーに通信が入った。
《俊介です!!》
「どうした?」
《大変なんです!!気づかれました!!》
「えっ…!?」
「さすが元軍人、勘がいいなぁ…」
《現在浅草寺周辺を走行中、応援願い__危なッ!!ぐあぁッ!!!》
車が激突する音とともに通信が切れた。
「俊介?!!おい!!」
「急げ急げ!!!」
レパードは全速力で浅草に向かった。
2
浅草寺周辺に行くとステージアとベンツの剥げた塗装やパーツの一部が道路に落ちていた。
しばらく荒川方面を走っていると、俊介が運転しているステージアとダニエルのベンツが見えた。
「居た!!あれだ!!」
「まだ生きてるな?!!よし!!!」
レパードは二台に追いつき、香取は箱乗りをし小美川からグロック19を取り17とともに構えてベンツに向けて発砲した。ベンツのリアウィンドウが割られ、そこからダニエルがコチラを見てSCARをレパードに向けた。
「やばッ!!」
香取は咄嗟に戻り好雄はSCARから放たれている弾幕を極力避けていく。
後ろから白黒パトカーの群れがやって来た。一台がベンツの横に着き体当たりをするが、ベンツに倍の力で当てられ歩道に飛び込んでしまい自販機に激突した。他の二台は後ろに着いたがSCARの弾幕をモロに浴びボンネットから煙を出し二台でぶつかってスピンし後ろを走っていたパトカーが二台を台に飛び越え一回転し路駐されていた車にぶつかって止まった。
すると、ベンツの割れたリアウィンドウからある物が投げ落とされた。それは、手榴弾だ。
「__!!?」
レパードは手榴弾を避けたが、手榴弾は後ろを走っていたパトカーの下で炸裂しパトカーは横転した。
「うっそだろおい…!?」
「気をつけろよ好雄…」
「言われなくても分かってる!!」
次々と手榴弾が落とされ、パトカーが大破し炎上していく。横転したパトカーにTボーンクラッシュをしたパトカーはそのパトカーを飛び越え前で燃え上がっていたパトカーのルーフに突っ込み、手榴弾で前が見えなくなったパトカーがスリップし後ろを走っていたパトカーに次々と追突され何台かは横転し、爆発でタイヤを失ったパトカーが路駐されていた車に乗り上げて倒れ別のパトカーに急所を突かれて爆発した。
「このままだと犠牲が増える!!好雄、車を近づけろ!!」
「はぁ?!!穴ぼこだらけにされるだろ?!!」
「あれだけ撃てば弾切れになってるかもしれないだろ!!いいから寄せろ!!」
香取は再び箱乗りをした後ルーフの上に乗り、レパードはベンツの真横に着いた。ダニエルはSCARのリロードをしている。ベンツが体当たりをしたと同時に香取はベンツのルーフに飛び移った。
「相変わらずアグレッシブだな」「あぁ」
ダニエルはリロードを止め使い古されたM1911A1をルーフに向けて発砲した。弾丸がルーフを貫き香取の頬を掠る。香取はグロック17を取り出し底でサイドウィンドウを叩き亀裂を作ってから蹴破り車内に入った。入ったとたんグロックを発砲しダニエルの腕に被弾させた。彼の両腕を片手で押さえつけもう片方の手でグロックを彼に近づけようとする、が、元軍人とあって衰えているとしても豪腕な力にジリジリと押されていく。運転手はM10を香取に向けて撃とうとしたがすぐに気づいた香取に頭を撃ちぬかれた。倒れた運転手はハンドルに頭を載せて息絶え、ハンドルはそのままきられた。ダニエルは香取を押し倒しドアを背に叩きつけられM1911を肩に銃口を当てられたまま発砲された。シートが血に塗れ香取に激痛が走る。
運転手を失ったベンツはゆっくりと斜めに走りガードレールに直撃した。
ダニエルは運転席のシートに香取を思いっきり叩きつけ、シートは壊れ、香取はペダルに手が届くと気づき片手でアクセルのペダルを踏んだ。ベンツは急加速し、前を走っていたステージアに追突した。
「ちょ、一体何が?!」
《香取がベンツに移ったんだ!!》
「よく見たら運転手居ませんよ?!!しかもフラついてますし…!!このまま行ったら荒川に落ちますよ!!」
彼らが今走っている道を真っ直ぐ行くと荒川がある。それを知らないベンツの車内の二人は取っ組み合いをして暴れまわっている。ドアやハンドルにぶつかりベンツが大きく揺れ動き左右を走っているパトカーにぶつかる。
荒川までもう少しだ。
「おいおいおい…!!」「気づけよバカ!!」
ダニエルはペダルを押し続け取っ組み合いの末ボロボロになった香取の胸倉を掴んだ。すると目の前の光景を見たとたんハンドルをきろうとした、が、間に合わなかった。高速のままベンツは柵を突き破った。ベンツはそのまま川の中に落ち沈んでいった。他のパトカーは柵の前で停車した。
「香取君?!!」
「僕が行く!!」「俺も!!」好雄と戸河内は上着を脱ぎ捨てて水中に飛び込んでいった。
一方で車内の二人はまだ取っ組み合いをしていた。ペダルから手を離した香取はダニエルに全力で殴りかかるが、冠水している車内では威力が大いに減らされた上に息継ぎが出来ず、急いでベンツから抜け出した。ダニエルも抜け出し香取に殴りかかる。水中での訓練も行ったのか水圧で威力が減っているであろうパンチや蹴りが強く感じる。反撃しようとした香取だったが逆に隙を与えてしまい鳩尾を突かれた。一気に口から空気を吐き出してしまった。そして追い討ちをかけるようにすぐさま顔に膝蹴りを喰らわせられた。香取の鼻から血が噴出した。
すると、二人の人物がダニエルの両腕を掴んだ。好雄と戸河内だ。これでダニエルに大きな隙が出来た。香取は彼の胸倉を掴みながらもう片方の腕で腹を殴った。だが全く効かず、硬い筋肉に触っただけの様に感じ取られた。
ダニエルは三人を払いのけ、急いで浮上していく。そのダニエルの両腕を三人は掴みながら浮上していく。
水上にはまだ警察の船は着いていない。だが陸には大勢の警察官が待機しておりパトカーが道路を覆うように停まっていた。
四人は水上に顔を出し何ともいえない味の水を吐き出した。
「ゲホォッ!!ゲフッ!!ハァ~…もう逃げられねぇぞ…!」
「どうかな?」
「…?」
その時、一台の黒いヘリがやって来た。警察のヘリではない。ドアが開かれ、そこから一人の男が現れて縄のはしごを垂らした。もう一人男が現れM1ガーランドをダニエル以外に向けて発砲し始めた。
「ッ…!!」
三人は急いでダニエルから離れ、ダニエルははしごを掴んで宙に上がった。
「あばよ__」
拳銃の銃声とともに、ロープを持っていた男が前のめりに倒れ、
「「「「__?!!」」」」
はしごを離してダニエルとともに水中に落下した。
撃ったのは小美川だった。周りに居た警官からM37を借りしっかりと握って構え集中し狙いを定めて撃ったのだ。
三人と水中に入る準備が出来た警官達が一斉に落下した二人を囲んで必死に捕まえ始めた。
「あのヘリを追え!!」
警察のヘリが到着しそう命令を受けて黒いヘリコプターを追い始めた。陸ではヘリについていくようにパトカーも後を追い始めた。
ダニエルは両手と手足に手錠を掛けられ、大勢の警官達によって陸、そして護送車の隣まで運ばれた。彼は上着を脱いで落ち着いている香取を睨みつけ、香取はニヤついて返し、ダニエルは護送車に入れられていった。
「好雄さん!!あのヘリの乗員全員、無事逮捕したそうです!!」
「わかった」
「あと、あの人の隠れ家に向かっていたSATの皆さんも地雷を処理でき無事占領できたそうです!」
「そうか、わかった。
にしても小美川、やるときはやるなぁ!」と戸河内は小美川の背をドンドンと叩いた。
「私そんなに信用ないですか…?」
「そんなことねぇよ…俺はちゃんとお前を信用してる。そしてお前らも…」
香取は皆に向き、ダニエルにとは違う本気の笑顔を見せ小美川の肩をポンポンと叩きながらそう言った。
「…へっ、らしくねぇな」「ほんとよ、寒気した」
「お前ら……」
「何はともあれ、一件落着ね」と小美川は拗ねたような顔をした香取の肩をポンポン叩いた。
「あぁ…」
3
ダニエルの逮捕と長期の取調べによってこれまで起きていた事件の真相が一気に明らかになった。
友人に違法薬物の詰まった鞄を預けたまま死んだ五人の男女の殺害事件。彼らはダニエルの下で働きたいらしかったが、ダニエルは彼らの態度が気に入らず、敵対している組織からコカインの入った赤い鞄を奪って来れたら認めてやると言った。何とか奪えたようだが、ダニエルは鞄を奪われた組織のボスに自分は関係ないと嘘をつき五人を密告し、五人は大勢の敵に追われた末に殺されたのだった。今後その敵対組織の捜査は本庁と情報を共有しながら暴力犯係が行い、逮捕に繋がる決定的な証拠が見つかり次第一斉検挙する予定だ。
更に、暴走族のリーダーが捕まったとき、制服を着て潜入し二人を脱走させた男の一人は福原だった。ダニエルも密かに工場でのレースを見物しており、福原はあの頃アリストを運転していたとのことだ。佐崎諒子と葛城は肉体関係の面で仲が良かったらしく、彼に諒子の脱走を協力してほしいと言われ福原とヘリではしごを持っていた男を渡した。また逮捕された時は彼女の気持ちを尊重して脱走を企てなかったそうだ。ちなみに、諒子と刑務所で面会をして聞いたところ、「ちょうど飽きてたから良かった。それに彼可愛げ無かったし、取調べしてくれた子が可愛かったんだもん」と述べている…。
4
「ご苦労だった」
堺捜査一課課長が警視庁本庁舎の一室で見た目が元に戻った香取と向かい合いながら話していた。
「いえ…」と香取は緑茶を飲んだ。
「大事な話があるから、今日来てもらった」
「…?」
「…福岡に帰るかい?」
「…そのつもりはありませんが、あちらの県警が来てくれと言ったんですか?」
「いや、いい機会だと思ってね。もちろん、このまま西新宿署で働くのも構わない」
「…僕は西新宿署にいます。良い相棒や仲間が出来ましたから…」
「…そうか。今後も頑張ってくれ」
「はい…」
5
L33ティアナに小美川と香取は乗り都庁周辺を走っていた。
「にしても意外だったなー」
「何が?」
「初めてあった日早々、自殺の道連れにしようとして泣かせてきた相手を、ハッキリ仲間って認めてくれちゃってさー」
「言っとくけど、私はまだあのことは許してないからね!!時計くれても、色んな事件を解決してもまだまだ!!」
「はっはっはっ…そうだよなー…」
「…ま、道連れの件はともかく、色々感謝するわ」
「…そうか」
すると、
《警視庁から入電。新宿駅周辺で暴行あり。一人はナイフやスタンガンを所持し襲った方のバッグを盗み車両で逃走した模様__》
「っし、掴まってろォォッ!!」
「もうすっかり慣れた」
ティアナをターンさせ、新宿駅の方に向かって白煙を撒き散らしサイレンを響かせながら発進させた__。
まだ続くんじゃよ




