9話「変装タクシーと香取の決意」
葛城信彦が逮捕されてから様々な事件が解決していった。
ストーカー被害に遭っていた会社員の女性の護衛中に香取を襲った者は彼の差し金で、香取を殺すのが目的だった。関東に彼が来たことで葛城達が動きにくくなることを防ぐためだったそうだ。
偽のクレジットカードの取引現場に蓝達が現れたのは彼が彼女に密告したことが原因だった。
そして、ある男の存在も浮かび上がったそうだ。
1
「乾杯~!!」
好雄の昇進試験が合格し、刑事課の強行犯係だけの小さな祝勝会が開かれていた。
「いや~警部補か~」
「正孝さんと立川課長も近い内に昇進するんですよね?」
そう。実は現所署長が引退し、副署長が署長にある。それに伴って立川が副署長、正孝が刑事課課長になる。好雄と違って上から選抜されたのだ。
「そうなんだよ~、いや~めでたいねぇ~」
小美川以外が笑い合いながら酒を飲み交わしている中、香取はデスクに座って腕を載せ何かを深々と考えていた。
「どうしたの?」と小美川が烏龍茶の入ったグラスを持ちながら話しかけた。
「…いや、何でもない。
酒、飲まなくていいのか?」
「まだ退院したばかりだからお医者さんに止められてるの」
「そうか」
香取のデスクの上には、前に戸河内に見せられた古い型のベンツの写真と、“ダニエル・アレン・ケリー”という男の資料が置かれていた。
2
それから数ヵ月後。年が明けた。例の三人は昇進して村瀬署長が引退した。好雄は係長になり、警ら課から巡査部長になった俊介がやって来た。
ある日。俊介が通報の電話を取った。
「皆さん!!強盗の通報です!!場所は大成銀行新大久保店です!!」
「わかった!!皆行こう!!」
皆オフィスを出て駐車場に行き、香取と小美川はマークⅡ、俊介と好雄はアクセラに乗って出動した。
大成銀行新大久保店前に着くと、一台の車高短でインチの大きいギラギラのホイールを履いている緑のクラウンセダンのタクシーが停車していた。ナンバーは『練馬330 う6838』。
「いかにも怪しいな…」
降りようとした香取達だったが、店内からベルが鳴り同時に顔をマスクやお面で隠した強盗達が出てきてタクシーに乗り込み、タクシーは白煙を撒き散らして発進した。
「こっちも行くぞ!!」
二台は発進しサイレンを鳴らしてタクシーの後を追い始めた。
すぐに気づいた強盗の一人が窓を開けてコルトローマンを二台に向けて発砲してきた。弾は全て二台には当たらなかった。
他のパトカーがタクシーの前の方に着き、二台はタクシーに体当たりをしようとしていた、が、タクシーは急ブレーキをかけ、二台はタクシーに当たらずに衝突した。タクシーは手前にあった道を曲がり、二台や他のパトカーはターンをしてその道に向かった。
タクシーの方はまた別のパトカーがやって来ており後を追っていた。するとタクシーはターンしバック走行をし始め、運転席側の窓が開かれ、シグザウエルP226を握った手が出されて引き金が引かれ、前から追ってきているパトカーに的確に弾を当てた。クラウンの運転手に着弾してクラウンはスリップし、更に後ろを走っていたセドリックがぶつかって横転した。クルーが体当たりをしようとしたがタクシーは曲がって避け、クルーはスピンしてガードレールにリアバンパーがぶつかって潰れ、スカイラインと正面衝突した。
タクシーはドリフトをして曲がり、ホテルの地下駐車場に入っていった。香取のマークⅡ達が追いつき同じく地下駐車場に入っていった。すると一台のコンパクトカーがバックして枠から出ようとしており、タクシーとマークⅡは無傷で避けアクセラは掠り、クラウンのパトカーはコンパクトカーに思いっきりぶつかって二台とも大破しクラウンの後ろから次々とパトカーがぶつかっていった。三台は一般車両を避けて駐車場の出口から飛び出た。三台ともジャンプしフロントバンパーから火花を散らせた。軽くドリフトをしてホテルの敷地を出て道路に戻った。
だが、アクセラが道路に出たとたん一台のSUVが追突し、アクセラはガードレールや街灯にぶつかったりするなどで俊介と好雄を車内で鞭打ちにさせた後停車した。
「ちょっと?!大丈夫?!」小美川はトランシーバーで聞いた。
《こっちは大丈夫…早く追って…!》
「わかった」
香取はアクセルを目一杯踏みタクシーの後を追う。
タクシーは左に曲がり、通りすがりの車が避けようとしてスリップし、対向車線を走っていた車に衝突し、マークⅡはそれを避けて左の道に曲がった。
次々と車を避けてタクシーに追いつき、リアフェンダーを突こうとタクシーの横に着いた。そのとたんタクシーは急ブレーキをかけてサイドターンをし、細い路地に入っていった。香取はすぐさまマークⅡをターンさせその細い路地に入った。タクシーは障害物を避け、マークⅡは何度かその障害物を弾き飛ばしていった。路地を出た先は住宅街で、出て右に曲がったタクシーはすぐさま左右に割れている道に着き、右の道を走り始めた。マークⅡが路地を出て道の分岐点に着くと、右の道からタクシーの運転に動揺していた一般車が突っ込んできて道を塞がれ、さらにはその車と激しい正面衝突をしてしまった。マークⅡは大破して、動かなくなった。
「…あちゃー…」
好雄達と合流して署に行き、検問の結果を待ち始めた。
「タクシーは同じ車種のが何百台も走ってるから見つけられるかなぁ…」
「ま、乗換えとかしてない限り車体に書かれてる番号とかで分かるだろ」
「あぁ、他の署にも検問を協力してもらってるから、犯人は東京から出られないよ…」
とある検問所では、黒いクラウンセダンのタクシーが待っていた。ホイールは地味なホイールキャップで、ナンバーは『練馬330 い4157』。その車の番が来た。車内には運転手含む三人が乗っていて、タクシー営業許可証等も持っていて、トランクの中には観光のための機材や衣類が鞄に納まっているくらいで大したものは無かった。そのタクシーは検問を終えて八王子方面に向かって行った。
3
「見つからない?!放置されたりはしてないの?!Nシステムにも引っ掛かってないって…?!」「どこかに隠してあったりはしてないのか?!!」「ちゃんと探したの?」
と署内は大慌てだ。どこを探しても例のタクシーが見つからない。
「どうなってるんだ…?他の署と協力して高速道路以外のすべての出口に検問を設置したのに…!」
「…ハメられたか…」
「でもどうやって?」
「知らねぇよ…」
「スクラップ場に置かれたとか?」
「一応都内のスクラップ工場すべて見たそうだけど見つからなかった…」
「それか着いてすぐに潰されたか…」
「だったらホイールとか目だってたからすぐに気づくと思うけど…」
「…もう分からん。俺は先に帰る」と香取は帰る支度をしてオフィスを出て行った。
帰宅し、シャワーを浴び、憂さ晴らしに何か観ようとDVDやBDのパッケージが並べられている棚からとある映画を取り出した。タクシーが主体のフランスの映画で、敵は強盗…。
「あの仕事の後にこれか…まぁいいや…」
その映画のディスクをレコーダーに入れ、ウイスキーを片手に視聴し始めた。
そして、その映画を観て、まさかこれではないかというモノを見つけた。
「っ…!確か、同じ題材のオマージュ映画があったハズ!」
今度は同じ内容だが結構な違いがあるアメリカ版の映画を観た。それを観て、思った。
「…これじゃないか!?」
翌日の朝、強行犯係の皆が集まったとたん香取はそのことを話し始めた。
「恐らく昨日のタクシーは、塗装の下にまた別の塗装をしており、上の塗装を剥がしてどこかに捨て、ホイールを交換し服を着替え、盗んだ金は銀行内やゴミ箱に隠されている!」
「ちょいちょいちょい…待ってくれ…」と好雄は香取を止めた。
「そんな映画みたいなことありえると思ってるのか?」
「ありえると思ってるから言ってるんだ。俺の勘は良く当たる」
小美川はその言動が少し理解できると思ったのか、
「…で、どうするの?」
「銀行内を徹底的に調べ上げ、街の監視カメラをチェックして見失った後のタクシーの逃走ルートを探る。途中で現れなくなったら最後に映っていた場所の辺りで何らかの作業をしたんだろう。そこでの近辺調査を徹底する。そしてゴミの集積場に塗装を剥がした物を探すんだ」
「あいつ昨日の事故で頭の打ち所が悪かったのか…?」
「さぁ…ま、とりあえず彼の言う通り色々探りを入れてみましょ」
銀行やゴミ集積場からは、何も出なかった。
が、監視カメラを追うと、世田谷区のとある店の辺りにタクシーが映ってから他のカメラには現れなくなり、その辺りで近辺調査を始めた。
ヘトヘトになって香取達はオフィスに帰ってきた。オフィスでは好雄が電話番等をしていた。
「どうだった?」
「……バッチリ。世田谷区のとある廃工場で昨日火事があって、すぐに火が消されて、そこに、あのタクシーの抜け殻と言わんばかりの剥がされた塗装の残骸が見つかった。全焼しなくてよかった…」
「じゃぁ、香取が言っていたことは本当…?」
「んで、問題はココからだ…金はどこに行ったか、タクシーはどうなったのかどこへ行ったのか…」
「…こればかりは時を待つしかないんじゃ…」
「…そうだな…好雄、その時のためのいつもの、頼むわ…」
「あれお前が思ってるよりも高いんだぞ?まったく…」
4
数日後、また強盗の通報があった。今度は三丁目にあるとある金融組合だ。
好雄は助手席に香取を乗せY34グロリアに乗って大急ぎで金融組合の建物に向かった。建物の前には、着いたばかりと思わしき白に青のラインが入ったクラウンセダンのタクシーが停車していた。そのタクシーに気づかれないように自然な動きで路肩に停め、好雄は分厚い東京の地図を開いた。その内側では、発信機を装填した小銃を隠されており、香取がその銃でタクシーのリアを狙っていた。しっかりと狙いを定めて引き金を引いた。発信機はナンバープレートの隣に着弾した。
「どうだ?」
「多分大丈夫だ」
金融組合の建物から三人の男達が降車してタクシーに乗り込んだ。タクシーは白煙を上げて発進した。好雄もグロリアを発車させてタクシーの後を追い始めた。
タクシーは猛加速してグロリアから遠ざかり、交差点でドリフトをして曲がり、通りすがりの一般車がタクシーを避け、グロリアはその車を避けた。一般車は対向車線から出てきた車と正面衝突をした。
他のパトカーが次々とやって来る。
二台のパトカーがタクシーの横につき、タクシーの両側のドアの窓が開かれM4A1がパトカーに向けて乱射された。二台のパトカーはタイヤがパンクしてサスペンションも砕かれて減速し後ろを走っていたパトカーに追突され横を向き、更に別のパトカーが盛大にぶつかってきた。
グロリアにもM4は向けられ、左前輪が撃たれてバーストした。スピンして横を向いた先には細い路地の入り口がある。
「ここに入れ!!」
「え?!わ、わかった!!」
グロリアは火花を散らしながらしぶとく発車して路地に入り、香取はM3913を取り出してスライドをした。グロリアは跳ねながら本道に出た。すると、タクシーの先に回っていたのだった。香取は箱乗りをしてタクシーのタイヤに狙いを定めてM3913で撃ちこんだ。そのとたんタクシーはサイドブレーキを引いてターンし弾を避けた。だが一発だけタイヤに当たった、がそのまま平然とバック走行をし始めた。
「ランフラットタイヤか…っ!」
そしてタクシーの運転席側の窓からあのP226が出され、引き金が引かれ、グロリアのインタークーラーやエンジンに直撃してグロリアは減速し、横から来た車を台に横転し何十メートルも滑って行って停まった。
タクシーはターンして体勢を立て直して真っ直ぐ走り出し、見えなくなった。
「見失った。後頼む」と香取はトランシーバーに向けて言った。
「了解。お疲れ様」
「もうすぐ来ます」
小美川と俊介が乗っているHR34スカイラインの前を例のタクシーが走り抜けて行った。小美川の持っているノートパソコンにはタクシーに撃ち込まれた発信機の場所が表示されておりタクシーと連動している。俊介はHR34を発進させタクシーの後を一般車両に装って追跡を始めた。
気づかれることなく、タクシーは港区の廃倉庫の中に入って停車した。HR34は倉庫の陰に停まり二人とも降車し、倉庫内から聞えてくる会話に耳を傾けながら中を覗いた。
中にはタクシーの他にハイエースバンとディアマンテが一台ずつ停まっており、強盗達はハイエースの中で私服に着替え、タクシーの運転手は本物のタクシー会社の制服に着替えている。
「よし、じゃぁ後はこの前と同じだ、ok?」「あぁ」「塗装剥がすの手伝ってよー」
盗品は一人の男の手によってディアマンテに載せられていたブリーフケースと交換され、タクシーは男女一人ずつの手によって塗装をシールを剥がすように剥かれ、白と青のタクシーからオレンジと薄黄色のタクシーに早変わりした。社名表示灯やホイールも交換され、サスペンションは車の型式に合わないハズのアクティブサスペンションで、低かった車高が普通の高さに調節され、どこにでも走っているような普通のタクシーになった。
「は…早ぁい…!」
「あの時代の車にあのサスペンションって…すごいな…」
すると、連中の一人が発信機に気づいてしまった。
「おい…これ…」
「発信機か…?!!」
「くっそ…ッ!!」
「……。」
無言だったタクシーの運転手はM4を手に取り周りに乱射し始めた。弾は壁を貫通しHR34に被弾し、隠れていた二人は弾を避けようとして倒れ、壁の陰から出て、連中に見つかってしまった。
「あ…あわわ…!」「どっ…どうもぉ~…」
5
小美川と俊介からの応答が無い。発信機の反応も消えた。
香取と好雄はL33ティアナに乗って区内を巡回しながら応答を待っていた。
「やっちまったなぁおい…発信機の通信が絶えた上に二人からの応答が全く無い…」
「頼むから誰か出てくれ…!」
すると、応答がきた。
もっとも、あの二人の声ではないが。
《もしもーし》
「…誰だ?」
《発信機付けたのアンタららしいじゃん。やってくれたねー何百万もかけて改造した車に大穴開けてくれちゃってさー。
つーわけで、何でそんなことを知っていて今こうやって話せてるのは何でだと思う?》
香取は真っ先に思いついた。
「…追っていた二人を捕まえて聞き出し、トランシーバーを奪った…」
《大当たりー。にしても高いとことかの工事じゃないのに今の時代トランシーバー使ってるとかチョーウケるんですけど!!》
「何か要求でもあるのか?」
《ったりめーだろバーカ。今すぐ車の修理費と慰謝料一千万、アンタ一人で持って来い。場所は港区南青山公園だ。ま、どうせ仲間をひっそり連れて来るんだろーけどよ。そこで二人と交換だ》
「…それだけか?」
《んなワケねーだろ。いいからとっとと金持って来い。んじゃ待ってるぞー》
トランシーバーが切られた。
「どっ…どうするんだよ…?!!」
「っはぁ~…めんどくっせぇ……
好雄、銀行に行ってくれ」と頭をかきむしりながら言った。
「一千万も持ってるのか?」
「一応な。ずっと溜め込んでた」
好雄は銀行に向かってティアナを走らせた。
「何を考えてる?」
「んなこと言われたってなぁ…大して計画練れないんだよなぁこういうの…一人でも複数人でも殺されそうだしなぁ…ま、とりあえず金持ってからその場の状況に任せるさ。お前はどっかで待っててくれ」
「いいのか一人で…」
「あぁ。でも銃声がしたらすぐに来てくれ」
公園前で降り、香取は一人公園の奥に進んで行った。
そこには、縛られて身動きがとれない小美川と俊介が立たされ、連中が車を背に銃を持って待ち構えていた。二人とも真っ青だ。
「すっ…すいません…!捕まっちゃいました…!」
「…金はちゃんと持ってきた。二人を返せ」
「そこを動くなよ」とトランシーバーから聞えたあの腹の立つ口調の男の声の主が前に出た。透明な縁の眼鏡を掛け耳と下にピアスをしネックレスをジャラジャラと掛け指輪もたくさんはめている小太りの男だ。男は香取が持っている鞄を取り上げて中を開けた。本物の札束が入っている。
女が取られた発信機を香取に向かって投げつけ、二人は解放された。
「いいか?追ってくるんじゃねぇぞ」
「分かってる」香取は二人の縄を解きながら返事をした。
(ま、どうせ車に乗ったとたん撃つんだろうが…)
連中はタクシーやハイエースに乗り込み公園の芝生を更に滅茶苦茶にしながら本道に向かって行った。
そして、ハイエースの窓が開かれM4が乱射された。
「やっぱり!!」「キャァっ?!!」
三人は伏せて弾を避けた。
「このヘタクソ!!計画がパーじゃねぇかバーカ!!」「す、すまん…!」
香取はM3913を連中の車に向けて発砲した。ハイエースのタイヤに直撃し、ハイエースのタイヤはランフラットではないのかすぐにバーストし、ハイエースは坂道でバランスを失って倒れた。
タクシーは本道に出た。
好雄の運転するティアナが猛スピードで跳ねながらやって来て三人の隣に停車した。
「大丈夫か?!!」
「あぁ!!運転代わってコイツら捕まえろ!!」
「分かった!!」
好雄は降車し小美川が助手席に乗り香取が運転席に座ってティアナのハンドルを握り始める。好雄と俊介はハイエースから連中の一部を引きずり出して手錠を掛けた。ティアナは本道に飛び出てタクシーの後を追う。
すぐに追いつき、ティアナはタクシーの横についた。二台ともドリフトして曲がり、タクシーは歩道に入って走り始め、看板や自転車を弾き飛ばし、サイドブレーキを引いて裏路地に入っていった。ティアナもサイドブレーキを引いて滑りながら路地に入っていった。自転車や看板等の障害物にぶつかってタクシーの塗装が剥げ、下に塗られた黒い塗装が見えていている。すると、路地の出口前に一台の車が通り、タクシーはその車にTボーンクラッシュをしてフロントバンパーが外れボンネットがひしゃげた。火花を盛大に散らして地面に着地し、ティアナはぶつかった車を避けて勢いを取り戻して風で煽られている剥げた塗装になったタクシーに追いつき、香取はペダルを踏みながら箱乗りをしてM3913を再び取り出した。小美川がハンドルを握っている。すぐにはどうにかならないのは承知だが対策はとってある。香取は蛇行運転をしているタクシーのタイヤにしっかりと狙いを定めて引き金を引いた。右側のボディやサイドミラーに辺り、ランフラットのタイヤにも直撃した。そしてリロードもしながら集中的にタイヤを狙っている内、内側の補強ゴムに穴が開き空気が漏れ、タクシーのスピードが減速した。そして運転手の手が見え、そこに狙いを定めて撃ちこんだ。ガラスが割れ、運転手の腕に弾が直撃し、運転手は痛みに耐えながらハンドルを握っていたが、一瞬周りを気にしなかったせいで斜めから来ていた車に気づかず衝突しその車を台に横転した。タクシーから煙が上がり、車内から運転手達が這い出ていく。彼らの近くでティアナを止め、二人とも降車した。
「さーて、盗んだ物の有りかをゲロってもらおうか…」
「くっ…!」
数日前の強盗で盗んだ金はほとんど彼らが持っていた。強盗に協力し銀行を襲っていた者達を騙して偽札を渡したそうだ。使った分はタクシーの塗装と整備費用だそうだ。今日の強盗で盗んだ物は全て彼らが持っていて、強盗の協力者達は区外の空き家で彼らを待っていて、すぐに逮捕された。
香取は小美川を助手席、好雄と俊介を後部座席に乗せてティアナで署に戻っていた。そして、考え事も、結論が出た。
(…長かったような、短かったような…)
6
署に戻り、好雄と俊介と正孝は帰宅していき、小美川は宿直で、デスクの上で仮眠をとろうとしていた。香取は何故かデスクの上を全て片付けている。
「どうしたのそんなに全部引き出しに押し込んで…」
香取は引き出しを閉めて鞄と上着を手に取り、小美川の方に向いた。
「小美川さん」
「ち、ちょっとどうしたの急に改まって…?アナタらしくないわよ…?」
「一年間お付き合いいただきありがとうございました。アナタのくれたお守りのおかげで悩みの種も解消でき、感謝してます」
「へ…?ほ、本当にどうしたの…?!」
「近い内に暴力犯係に移動します。会う機会は減りますが、いつまでもこの署の良き先輩と思っています。
さようなら…」
そう言って香取は無理して作ったような笑顔をしてオフィスを出て行った。
「え、ちょっと香取君?!」
香取の後を追おうと立ち上がった小美川もオフィスを出た。だが立ち止まり、廊下で香取が来るのを待っていた戸河内や本店の刑事と思わしき人々を見た。彼に何か話があるのかと思い香取に近づくのを止めた。小美川に向けている彼の後姿は、立派な体勢だが、どこか悲しげで__。




