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お碗の生涯
それを無機質に、ただ一点の感情もなく文章で表したならば、直径十センチ、底の深さ五センチ程の、陶器で出来ていて縁に朱色の花模様が描かれた、少し黄色味を混ぜた灰色の、ご飯用のお碗である。
しかし、私はこのお碗で、既に八年近くも飯を喰らっていたのだから、もう少しばかり愛着を込めて、こう表現したい。
しゃもじで飯を三杯程盛ると、その縁からご飯粒がポトリと溢れてしまう程の、丼よりは小さく、汁物を容れるにはちとデカい、病弱だった母の肌によく似た色の、縁にほんのりと朱色の牡丹で化粧した、お碗。
そのお碗が、先日ちょっとした拍子で、割れた。割れてしまった。
私にはそれがなんだか物悲しく感じられ、トボトボと残骸を掃除すると、食器棚の上段に箱に入ったまま置かれていた、新しいお碗を取り出した。それは一度も使う事が無かったのだが、ペアで買っていたお碗であった。