第6話 お約束
展開ゆっくり更新ゆっくりで申し訳ないです。
それでも、最後までお付き合い頂けると幸いです。
黒雪は鈍感じゃない・・・はず。
「クロユキさん!おはようございます。先日は本当にありがとうございました。今、あの薬草がかなり必要なんですよ。クエストですか?」
「了解です!ゴブリン10匹の討伐ですね。気を抜かない限り、死ぬことはないので頑張って下さい!」
「行ってらっしゃいませ!」
お昼少し前あたり。何とも眠い時間なのに、元気いっぱいなこの人はリンセさん。異世界お馴染みのギルド嬢であり、俺がいろいろお世話になった人だ。
俺がギルドカードをもらった時に名前を確認していたらしく、ギルドに入るなり声をかけてきた。最初よりかなりハイテンションだが、
そんな気分なのか。
冒険者にギルド嬢が一方的に話しかける。
何とも言えない光景だな。
向こうは俺が声を失ったと思っているらしく、大体察してくれる。
クロエに毒されたのか、リンセさんが優しくて眩しすぎる。
取り敢えずランクを上げるということで、F〜Aランクさらにその上のSランクの中でCを目指すらしい。
普通の冒険者が一生かけて辿り着くのがCランなのだが、水晶で相応のの力を確認できた者は特別クエストを六つこなすと晴れてCランとなる。
裏ルートみたいな?
そんなこんなでやってきたゴブリンのいるソイル平原なのだが、
「(クロエさん、助けてぇぇ。)」
絶賛ぼっちである。
遡ること約1時間前。早速俺は行動することになったのだが。
「私は基本人前に出たくありませんので。クエストはお一人でどうぞ。」
こんな一言で俺のソロプレイは確定した。
え、流れ的に行くだろ。だって?
「クロエは人見知りが激しいのかー」
って言ったら首の真横にナイフが飛んで来たよ。
まぁ、やってきましたゴブリン討伐。
武器はないので、魔法で脳筋プレイをすることにした。
「探索、ゴブリン」
少しすると、やや離れた場所にゴブリンが20匹
「20匹か、群れすぎ。」
リンセさんがいうには
「平原にいるタイプのゴブリンは知性がなさすぎるので群れてても2、3匹程度ですね。」
ま、いっか。
俺は特に気構えずにゴブリン集団に向かっていく。
すると、
「グァ、ガガグ!?、グググ!!」
見るからにモンスターですね。
こう言っちゃ何だが、酷い顔である。
何だが嫌なので終わらせる。
「サンダーボルト」
詠唱はいらない。かけさせない。
俺は右手をかざすと、魔法陣が現れ、巨大な雷が放たれた。
「グゥ、グァァァォ!?」
ゴブリンは逃げる間も無く消えていく。
一応、倒したモンスターがギルドカードに載っているのでいいのだが、素材は買取りがきくらしいので少し残念。
そんな考えをしていた矢先、
キィンッという剣の音と共に、少女の悲鳴。
「お約束!」
早朝に家を抜け出して、風魔法で空をギュンギュン飛んでた甲斐あってか、一瞬で声のする方に翔ける。
景色は変わり続け、森の入り口に着くと、
「リズナ、レキッ!囲まれてる!」
「これ・・・やばいかも。」
「キリア、ポーションがもう切れたッ!」
見ると、少女3人が数十匹のオークに襲われている。一匹大きい個体がいて、指揮しているようだな。
「(くっころ。欲しかった。)」
助けるのに変わんないけどさぁ。
テンプレじゃん。
テンプレじゃん。
嘘です言い過ぎましたごめんなさい。
心の中でクロエに絶対零度の目で見られた気がしたから、反射的に謝ってしまった。
なんて、能天気な、ある意味最低な考えの中で
嘆息しつつ、地面にするりと降り立つ。
両者、違う意味で必死なようで俺に気づかないので、この隙に。
(サンダーボルト)
魔法とは、強く、明確な思いに左右されやすいものらしい。
故に、手を前にかざし、心を少し黒く染めつつ威力を高めで放つ。
別に、くっころの期待の恨みとか、何か厨二っぽいから恥ずかしくなって強くしてるわけだし!
と、ツンしてない攻撃をかます。
すると、オーク頭上から眩い雷撃が放たれ、鼓膜をガンガンと叩く音が響く。
光と音が止むと無惨なオークの死体がどさりと崩れ落ちた。
「「「・・・・・・・へ?」」」
3人が呆然と立ち尽く中、俺は治癒魔法をかける。
すると、3人とも恐ろしい速さで振り向く。
「何・・・今の?誰?」
「この魔力の質・・・あり得ない」
「・・・・暖かい。」
リーダーさん、声が怖いよ。
先ほどの会話から、恐らく最初に声がした少女がリーダーだと思うが、それ以外は分からない。
そして、俺はギルドカードだけ突き出す。
「スイゲツ・クロユキ?・・・Fランク!?」
「・・・相当な実力者っこと?ありがと、助けてくれて。」
「危ない所を、本当にありがとうございました!」
3人が動揺ながらも持っていた武器を下ろし、頭を下げた後、自己紹介をしてくれた。
リーダーのキリアという少女は槍使いのようで、短い透き通る水色の髪と綺麗な藍色の瞳をしている。明るく、驚きで口を開けているが、それもどこか整っているようにすら感じられる。
すると、俺のマフラーを小さく引っ張ってきた幼げな少女が1人。リズナ、だな。
かなり小柄で口数は少なめだが、キリアの妹らしい。淡い水色の髪がさらさらと伸びていて、姉と同じ藍色の大きな瞳が印象的。
「懐かれたようですね。」
女剣士のレキがジト目を此方に向けてくる。
やめて下さい。
長い黒髪にスラリと伸びた脚とか、ドストライクなんです。
それにしても、何故か3人の頬がうっすら赤い。治癒魔法の時、くっころしか考えてなくて煩悩が移ったとか?
んな訳ないか。俺はクルリと身を翻して街に向かう。
「ちょっと、待って〜!」
「・・・話、したい」
「無視ですか。泣きますよ。」
首を指し、頭を横に振ると声が出ないと理解したようで、一様に謝られた。なんか、すみません。
そんなこんなで、そのまま4人で街に向かう。
初めはともかく、印象は悪くない、か。
この世界で、異世界人は疎まれている。特徴といえば黒髪なんだが、現地人にも黒髪は多少なりともいるらしい。
何故疎まれているかというと、なんと、この世界で異世界人は魔王に召喚されるもので、最強最悪の敵なのだとか。
確かに、チート持ちの敵は最悪だ。
理不尽の塊を無数に持っているようなものだしな。
そのため、黙って現地人のように振る舞わねばならない。
これからの事を考えていると、やけに肌寒い小さな風が、俺の頬を撫でた。
黒「フライ、アクセル、アクセル」
黒「やばい、楽しすぎる」
数時間後
ク「何処に行ってたんですか。」
黒「いや、あの、空をクルクルと飛んでた?みたいな?」
ク「目を瞑ってください」
黒「わ、分かった」
ク「死ね」
黒「ふぎゃあ!・・・目・潰しは・・・駄目だろ」
ク「潰してないです、突きました。」
黒「こんの、白兎!」
ク「起きた時の私の気持ちを考えたらどうですか」
黒「すみませんでした」
土下座って意外と疲れる事を黒雪は初めて知った。