第5話 力と覚悟
やる気になる黒雪。
ーーーーリーゲルト。それがこの世界の名前だと言うのは女神に教わった。
そして、その世界を救って欲しいと頼まれた。
けれども具体的にどうしたら良いかも分からない。
言葉も分からない。
そんな中で出会った同族?の白髪赤眼の少女ことクロエは言った。
曰く、この世界には7人の魔王がいる。
曰く、7人の魔王は七つの大罪を司っている。
曰く、7人の魔王は屈強な配下を有しているらしく、国の勇者でやっと倒せる。
曰く、7人の魔王によって世界はかなり衰弱し、魔族にとって生きやすいものとなりつつある。
曰く、奇妙な事に、それ程の強さを持ちながら、魔族以外の種族の国は滅んでいない。
そして、その7人の魔王は大陸の中でばらばらに存在しており、俺が転移した国はミレイヤというらしい。
なんと、ミレイヤの王都アレンは人口約五十万人とも。
今俺がいるのは王都から馬車で3ヶ月かかるルルアという街らしい。
領主が冒険者だったため、冒険稼業に力を注ぎ、ギルドが大きく、上級から下級まで様々な冒険者がいるので、初心者はここから冒険を始め、先人の知恵を身につけていくようだ。
貨幣は銅貨、大銅貨、銀貨、金貨、が存在していて10枚で一つ上の価値の貨幣になる。
例外として白金貨というものもあり、金貨百枚分の価値があるそうだ。
「あなたがすべき事はその魔王、配下の討伐です」
って、ハード過ぎません?俺もっと簡単なものかと思ってたし、かなり疲れそうだよね。
ーーーーーそう言いかけた口を閉ざす。クロエの目が本気だった。・・・はぁ、何回言えば分かるんだ、俺は。これはゲームじゃ無いし、俺の趣味で世界を救う訳でも無い。
人類の、その他魔族に虐げられている全種族の命を背負う。それがどういうことか分かっているのか。
もし目の前で大切な人を失っても、目を瞑って立ち上がれるのか。
言外に伝わってくる意思が俺の覚悟を問う。
多感なお年頃の高校生からすると、いきなり異世界に来て、世界を救って下さいなんて言われたら、分かりました。なんて言ってしまう。まだまだ未熟な心が物事の真意を理解できるわけが無い。
恐らく、これから俺は沢山傷つき、苦しみ、嘆き、悲しむだろう。死ぬ可能性も高い。
けれど、救いたい。この手に、力があるなら。
あの時俺にできなかった事を、今できるなら、助けたい。
未熟故に、幾らでも成長できる。辛いなら乗り越えて見せる。目の前に絶望があるなら打ち砕いて見せる。
そう思った。だから俺はクロエを見つめ返す。
「なあ、クロエ。なんで俺らは生きてるんだろうって考えたことある?」
「・・・・・数え切れないくらい。」
「そっか。・・・・うまく言えないけど、俺は生きるために生きている。」
「何が言いたいか分かりません。」
「えーと、笑うために、泣くために、切なくなるために、怒るために、とかいろんな感情を見たいから生きているのかな。」
「それで?」
「今、此処でこの世界を見捨てたら、その生きる意味がなくなるんだよ。それに、もし俺が死ぬとしても、多分ちょびっとだけしか後悔はない。」
「何故?」
「もし逃げたら、心が歪んで正直に生きられなくなる。あと単純に困ってるなら助けたいんだよ。俺、かなりのお人好しなんだわ。だから全力でこの世界を救いたい。」
「・・・分かりました。見た目通りおかしな考えの人ですね。」
「待って、今いい雰囲気になりかけてたよね!これから一緒に頑張るとこだよね!」
「ええ、頑張りましょう。ですが、慎重に。確かに私たちは弱っていますが、魔王達はどうやら今すぐ滅ぼすつもりが無いようですので、もし死に急いでしまっては残念がさらに残念になります。」
「・・・・はぁ、そうだな。実は旅も楽しみだったりするからな。」
「もう穢れは嫌なのですがね。」
「なんか久々。そして、その態度に落ち着きを感じる俺って…」
「変態。」
「違うわっ!!」
覚悟はある。けど、ただの高校生だった俺がいきなり世界を救うなんて難しいと思う。
ならば、
クロエと共に頑張りたい。
初めは無表情、無感情に見えたこの白髪メイド。
実は照れ屋で割と寂しがり屋らしい。
声もたまに感情が出てきて、面倒見がいい。
「ですがまぁ、私も少し・・・楽しみです。」
「おう。」
また、クロエの綺麗な髪を撫でる。顔を背ける彼女はなかなかに可愛い。
ーーーーー我が妹は元気だろうか。
そんな思いを抱えながら、部屋の窓から天を仰ぐ。
黒「イベントが、更新されている!?!?」
黒「神様マジ最高ぉぉぉぉぉ!!」
黒「からの嫁の新キャラ来たぁぁぁ!!」
黒「やばい、家出たくない。明日から本気出すから今日だけ、いや明後日まで待って!」
ク「素直に気持ち悪いのですが。煩いです。というか何をされているのですか?」
黒「スマホのソシャゲ」
ク「は?」
黒「えっと、カクカクシカジカ」
ク「そんなものがあるのですか、恐ろしいです。異世界。」
黒「まぁ、お願いします。」
ク「殺しますよ。」
スマホが壊されそうになったので、黒雪はとりあえず嫁キャラをゲットして、イベントは諦めた。(涙)