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帝国の矛  作者: 芥流水
遊号作戦
18/22

大陸進行

 九月一日、八時。

 ウラジオストクにて一斉に勝鬨が上がった。

 帝国陸軍がウラジオストクに雪崩れ込んだ。住民が逃げ惑う直ぐその横で日本兵と赤軍兵が銃撃戦をし、装甲車や軽戦車が走り、機銃を撃つ。


 卑怯にも赤軍は民間人に帝国陸軍の盾としての役割を担わしていた。混乱する民間人はそれだけで陸軍進行の足枷となる。そこで赤軍はワザと民間人を保護したりせずに、混乱するが侭にしていた。


 併し、その作戦も不成立に終わった。

 帝国陸軍が民間人に屋内待機を呼びかけたのだ。それを赤軍からの指示と思った人達は屋内に身を潜め、混乱は瞬く間に静まった。


 結局その翌日には、帝国陸軍の手によって飛行場は占領されていた。ウラジオストクには真面な兵力は残されておらず、歩兵已で有った。その為、帝国陸軍は、然程戦力を削られずに、ウラジオストク占領を果たしたので有った。


 これから帝国陸軍は更に、西へ北へとすすんで行く。遊三号作戦通りに。



 木々が茂る支那大陸東部は、帝国陸軍の軽戦車、自走砲の独壇場で有った。帝国陸軍は、その機動力を活かし、快進撃を続けていた。


 最も実際には、ソ連の重戦車の奇妙な事に、一切が出てこなかった所に有った。


 九月二日、午前八時

 伊予少尉は、百式司偵に乗り、ハバロフスク東部を飛んでいた。眼下には、ゆったりと流れる河川がある。アムール川だ。その周囲には、森が広がり、一面緑に覆われている。


 百式司偵は、高度を低く取り、可能な限り速度を落とす。赤軍がいるとすれば、迷彩を使用している可能性があり、発見は困難である。なので、少しでも発見率を高める為に、この様な事をしているのだ。


 無論、帝国陸軍が、未だ見つけられぬということは、赤軍もいるとすれば、発見されたく無いということ。対空砲火の上がる心配は無い。


「あっ!」

 偵察員の寺西上等兵が声を上げた。


「どうした?」

「今、チラリと金属が見えた様な気がしました。ひょっとすると……」


 伊予少尉は、寺西上等兵の言葉にウン、と頷いた。

「それではもう一度今の所を飛んでみる。シッカリと見ていろよ」

「ハイ!」


 寺西上等兵が答えるが早いか、百式司偵は、右に旋回し出した。そして……


「間違い無いです。アレは戦車です。それも可也大型の」

「ウム。それでは帰投する。電波は発するなよ。敵に気が付かれたと思われたく無いからな。その場合は対空砲火によって詳しい報告が出来ぬママ撃墜されるかもしれん」


 その後も百式司偵は、低空飛行を続け、帰投していった。



「気づかれたか……?」

 赤軍司令官、ブーリァはそう言った。戦車や、迫撃砲、狙撃兵に至るまで、全てにカモフラージュは掛かっている筈で有る。

「確かにココで折り返したのは気になりますね。何時もはもっと先まで偵察してゆくのに……」


 ブーリァに答えたのは参謀のモールニヤであった。


「念の為に移動しておくか?」

「いえ、下手に動けば反逆罪をでっち上げられるかもしれません……。敵では無く味方に殺されるかも」


 モールニヤの言葉にブーリァも確かに、と頷く。命令の無い移動は即刻密告され殺されるだろう。赤軍将校の全員が何とか殺されにくい立場へ上がろうとしている。油断をすると、背後から撃たれかねない。その為、将校たちは戦々恐々としており、軍部全体に不信感が生まれ始めている。


 併し、命令に忠実に従っている限り、殺される確率は低くなる。現在、移動の命令は出ていない為、この場所に留まるのが最善であろう、とブーリァは判断した。



 爆音がして、木ごと地面が吹き飛ぶ。

 翼に日の丸を付けた双発機がブーリァの頭上を通過してゆく。と、同時にズンと腹に振動が伝えられる。


「闇雲って感じだな……」

 ブーリァは地面に伏せながらそう呟いた。それもその筈、現在此処にいるのは過半が狙撃兵である。大物である重戦車は数える程しかなく、迷彩が施して有るので、高速で動く航空機からはどうしても捉ることは出来無かった。


 航空機の爆音が過ぎて行くと、ブーリァは先ず大きく息を吐いた。


「被害はどうなっている?」


 ブーリァは第一声でそれを聞いた。


「はい。戦車が二両破壊され、狙撃兵が何人か死亡しましたが、全体から見れば微々たるモノです」

「……そうか」


「やはり移動した方が良いな。見つかっていたのだ」

 ブーリァの言葉にモールニヤも賛成し、赤軍は急いで移動の準備を始めた。


「まて。何か音が聞こえないか?」

 その途中、ブーリァが呟いた。数秒すると、ハッキリとその音が聞こえてきた。


「爆音……!航空機の発動機の音です!」

「移動を中止させろ!今直ぐにだ‼︎」

 ブーリァは叫び声を上げた。


 彼には戦車だけでも爆撃されぬ様、ゴッドに祈るしか無かった。例えそれが気休めにもならぬとしても。



 一三時

 神田少尉は、九九軽爆を操り、ハバロフスク東部を飛んでいた。

 眼下の森は至る所が燃えている。上空には日の丸機ばかりが飛んでおり、赤軍機の姿は見えない。

 それもその筈。ハバロフスク自体が開戦時から帝国陸軍の爆撃を受けているのだ。飛行場を潰されれば、満足な対空支援は出来ない。


 最早赤軍はまな板の上の鯉、メス先の蛙も同然であった。


 九九軽爆、九九双軽、九六重爆が次々と爆弾を落として行く。


 だが、上空には未だ爆弾を落としていない機体も有った。彼らは対空機銃が放たれた時、そこ目掛けて爆弾を落とす役目を持っていた。だが、対空機銃が放たれることも無く、攻撃隊は損害を零で済ませたので有った。

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