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帝国の矛  作者: 芥流水
十勝沖海戦
15/22

貫く遠吠え

「我が方がどう動くかも重要ですが、赤軍がどの様に動いてくるかも重要です」

「併し、航空参謀、赤色海軍は壊滅した。最早真面な動きは出来ないとおもうが」

「それでは参謀長。欧州-特に英国-でどの様な戦争が起こっているかは知っていますか?」

「航空戦が起こっていると聞いている。現時点では英国が劣勢らしいが」

「では、その劣勢の要因をご存知ですか?」

「何が言いたい?」

「英国は独ソ軍の潜水艦による通商破壊作戦によって、物資の補給もままならない状況になっております。そのおかげで兵の士気も上がらないと聞きます」

「つまり航空参謀、君はソ連が我が国に対して同様の行為をすると言いたい訳だな?」


 樋端少佐と宇垣少将との議論に山本大将が入ってきた。樋端少佐は山本大将の言葉に頷いた。

「その通りです。山本長官」


「では何故ソ連は最初からそうしない?この様な艦隊決戦を仕掛けてきた?」

「参謀長、それは恐らく時間稼ぎと思われます」

「時間稼ぎ?そんなことの為に四六糎砲戦艦を二隻も使ったというのか?」

 宇垣少将は信じられない風に叫んだ。


「恐らく向こう一年はGFを行動不能にしたかったのでしょう」

「その間に潜水艦を大量に建造し、通商破壊を万全のものとするつもりか」

 山本大将は得心がいったように述べた。


「恐らくは」

「すると、駆逐艦や駆潜艇の建造を急がなければいかんな。艦政本部と戦さをせねばならんか」

 山本大将の脳裏には、今後己の行動予定が次々に浮かんできた。


「となれば矢張りペトロパヴロフスクを攻撃して潜水艦基地そのものを破壊すればよいのではないのか?」


「いえ、宇垣参謀長。ソ連の裏には米国がいることが、この度の海戦で分かりました。とすればソ連はフィリピンを使うことができます。それに樺太を取ってからでも攻撃は加えられます」


 樋端少佐の言葉に宇垣少将は確かにそうだ、と思い直した。



 異変が起こったのはその半時間後のことであった。

 月も出ていない深夜の海の中、艦隊の右前方で対潜警戒にあたっていた『初春』『子日』が面舵を取り、艦隊右方へと増速した。

「『初春』より信号。『右二○度ニ敵潜水艦』」

 信号員の報告が『尾張』艦橋に飛び込んで来た。艦橋の空気が瞬時にはりつめられた。

「艦隊針路九○度」

 これまで西北西に針路を取っていた艦隊は、山本大将の命令により、西へと変針した。

 戦艦のような巨大な艦は舵の効きが遅いので、暫く直進した後に左に回頭した。『紀伊』『伊勢』『山城』はその上被害が甚大である為、更に回頭の速度も遅くなる。

 それでも、大した弊害も無く、全艦無事に取舵を切り終えた。

 終えると同時に、艦隊の背後から爆発音が聞こえてきた。『初春』『子日』の爆雷が爆発した音であった。


 変針後、数分が経ってから山本大将は二度目の変針を命じた。

「面舵。針路零度」

 『尾張』を先頭にして、連合艦隊は西、北、西へとジグザグに進んで行く。之の字運動と云われる潜水艦の雷撃を回避する為の運動である。


 併し、その後一時間は敵潜の発する電波を一度傍受しただけであった。

「先程のだけで終わりか……?」

 宇垣少将の言葉に山本大将は首を振った。

「いや、そうとは限らんぞ。欧州では独逸の潜水艦は集団戦法で攻撃している。敵潜の電波も傍受したばかりだし、何時又雷撃が来るか分からんぞ」


「左四五度。敵潜発見」

 山本大将の言葉を示すように、新たなる報告が艦橋に上がってきた。

「針路六○度」

 左舷側にいた『初霜』『若葉』が敵潜に向かって増速する中、『尾張』以下GF本隊は右へと変針した。


「敵潜発見。右二○度」

「何っ⁉︎」

 思わず宇垣少将は聞き返した。それも無理も無い。これでGFは敵潜に挟まれる形と成ってしまった。


「左舷より雷跡!」

「針路一三三度」

「針路一三三度。取舵一杯」

 『尾張』以下十隻の戦艦は魚雷を回避する為に魚雷と正対する向きへ変針する。

 『紀伊』『伊勢』『山城』は先程の海戦で被害を受けている為、動きが鈍い。だが、何とか変針を終え、魚雷と正対した。


「右舷雷跡!」

 何とか雷撃をやり過ごした直ぐ後に、見張り員の叫ぶような声が聞こえてきた。

「面舵一杯!針路六○度!」

 巨艦が次々と針路を変えて行く。併し、一隻だけ出遅れた艦があった。『伊勢』である。


 『伊勢』は先程の海戦で舵機室に被害を受けていた。その為、現在は舵を手動で動かしていた。そのせいで、機械で動かしている艦と比べると、些か不格好な操舵となっていた。


 『伊勢』が完全に曲がり切らぬ間に、敵潜の魚雷が『伊勢』の右舷に命中した。


「『伊勢』被雷。行き足止まりました」

「『伊勢』より入電。『我ヲ置イテ先ニ行カレヨ』」

 見張り員と信号員から報告が上がってくる。

「……『伊勢』の護衛に駆逐艦を二隻残しておく。残る艦は現海域を急ぎ離脱する」

「でしたら後方にいる『海風』『山風』がよろしいかと思われます」

 苦渋の決断を下した山本大将に、宇垣少将はそう提案した。


 『伊勢』の応急処理員は懸命に艦を救おうとしたが、右前方に大穴を開けた『伊勢』は彼らの奮闘虚しく沈み行く運命からは逃れえなかった。


 『伊勢』艦長武田大佐は総員退艦を命令。自身は『伊勢』に残ろうとしたが、参謀達の必死の説得により、退艦を了承した。


 『尾張』艦上では尚も警戒が続けられていた。

 だが、赤軍版群狼作戦とも云うべきこの潜水艦の集中雷撃は『伊勢』を沈めた已に満足せず、次の攻撃を連合艦隊に尽きたてようとしていた。


 次に被害を受けてのは『紀伊』であった。


「雷跡八!左舷六○度!」

『伊勢』の被雷から間をおかずして、雷跡の報告が上がった。

「取り舵!針路一六○度」

 山本大将の命令の下、連合艦隊が次々と回頭する中、『紀伊』だけが遅れ、左舷側に四本もの雷撃を受けた。

 『紀伊』は左舷側に大きく傾き、最早艦を救うのは絶望的であった。

 『紀伊』も『伊勢』と同様の運命を辿った。

「『紀伊』までも……」

 宇垣少将の顔は真っ青になっていた。

 自分が先程まで乗り、GFの旗艦となっていた戦艦が、沈んで行くことに衝撃を隠せないでいた。

 GFはその後他の戦艦を失わずに鎮守府に帰投したが、『紀伊』『伊勢』を失う結果となった。


 日本海軍はこと被害を重く捉え、その後駆潜艇や、護衛専用の小型艦の建造に力を入れ始めた。


 日本海軍の航空攻撃に始まり、赤軍の潜水雷撃に終わったこの海戦は、後に十勝沖海戦と呼ばれることとなった。この海戦でGFは戦艦二隻を失い、無傷の戦艦は『尾張』『駿河』『近江』『長門』だけとなった。併し、空母は全隻無事であり、赤軍の水上兵力には壊滅的な被害を与えた。


海戦完‼︎

やっと終わりました。されど戦争は終わりません。


誤字、脱字、ココがおかしいと云う所があれば教えていただけると嬉しいです。

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