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帝国の矛  作者: 芥流水
十勝沖海戦
14/22

終局或いは序章

解答回……かな?

「敵一番艦横転」

「目標、敵二番艦」

 観測員からの報告を受けた山本大将は、即座に射撃目標の変更を命じた。


 『紀伊』は残った六門の主砲を旋回させ、敵二番艦への砲撃を開始した。既に『紀伊』の消火作業は終わっており、艦体から靡く黒煙も収まりつつある。

 旋回が完了し、主砲発射を告げる警報が鳴った。その後、各砲塔の一番砲から四○糎砲弾が放たれた。


 『ソヴィエツカヤ・ウクライナ』艦長、イノートは、最早これまでかと観念した。既に赤軍で生き残っている戦艦は『ソヴィエツカヤ・ウクライナ』のみと成っていた。その『ソヴィエツカヤ・ウクライナ』にしても、多数の敵砲弾を受け、虫の息である。引くこともままならない状況であった。


「全艦に信号。『総員撤退セヨ』」

 イノートは口から唸る様にして、何とか声を出した。

 太平洋艦体司令長官であるネーバを失った今、指揮系統は無茶苦茶である。それなら、せめて一艦でも生きて残らせようとイノートは決意した。

 これが『ソヴィエツカヤ・ウクライナ』の遺言だ。

「待って下さい」

 副長のアシミノークから待ったがかけられた。


「此処は総突撃をかけて、少しでも日本軍に損害を与えるべきではありませんか?」

 アシミノークの言葉にイノートは首を振った。

「いや、この海戦に勝利した日本軍は、次は必ずその矛を本土に向けるつもりであろう。そうなれば、それに対抗する艦は必要になる。それをこんな所で徒らに消費すべきではない」

「これでもですか」

 アシミノークはそう言って、銃を取り出し、イノートに向けた。


「よせ。撃った所で何もっ……」

 イノートが説得しようとした時、艦を激しい揺れが襲った。直撃弾を受けたのだ。

 その衝撃は、GFの狙い外の効果を及ぼした。アシミノークが誤って銃の引き金を引いてしまったのである。

 イノートの下腹部に当たった弾丸は何らかの臓器を傷つけたようで、イノートは血を吐き倒れてしまった。


 その光景を一番信じられなかったのは、アシミノークであった。イノートを射殺したのは彼にとっても不本意なものであった。彼は銃で脅すつもりはあっても、殺すつもりは無かった。

 併し彼も赤軍士官である。起こったことは仕方ないと諦めた。寧ろ艦隊を自分の思い通りに出来る、と嬉しく思う程であった。


「全艦に信号と電文。『総員突撃セヨ』」

 併し、『ソヴィエツカヤ・ウクライナ』は電文を発しない内に新たな衝撃に襲われた。

 二一駆、二七駆の雷撃であった。


пизда(畜生)!!」

 アシミノークはその言葉を最後に意識を失った。


 『ソヴィエツカヤ・ウクライナ』が沈んだ後、敵の残党艦は蜘蛛の子を散らすようにてんでばらばらに逃げ出した。


「『伊勢』大破。舵機室が破壊されましたが、人力で舵を動かすことで何とか基地へ自力帰投は可能と思われます。『紀伊』『陸奥』『山城』中破。特に『山城』は魚雷二発を喰らっており、速度は二○ノットが限界と思われます。『扶桑』小破。主砲塔が一基潰されておりますが、戦闘行為には影響ありません。後は『日向』が至近弾によって小破以下の被害を被っています」


 山本大将は『尾張』艦橋で通信参謀和田雄四郎大佐より被害報告を聞いていた。『紀伊』の被害が甚大であった為、GF首脳部は海戦後に『尾張』へと乗り換えていた。


「小型艦の被害はどうなんだ?」

 山本大将の問いかけに和田大佐は答えた。

「沈没艦は二隻。六駆の『電』二四駆の『涼風』。中破『愛宕』。小破『鳥海』『時津風』です」


「戦果はどうなっている?」

「機動部隊による攻撃を合わせますと、敵戦艦八隻、空母二隻、重巡二隻、駆逐艦七隻撃沈確実です。遁走した巡洋艦や駆逐艦にも可也の被害を与えているものと思われます」


「勝利、か」

「大勝利です。我が方は戦艦を一隻も失っていないにも関わらず、敵艦の確認される限り全ての戦艦を撃沈しました。間違いなく大勝利です」

 山本大将の呟きに、宇垣少将は力強く断言した。


 GFが海戦を勝利に収めることが出来たのは、矢張り観測機による所が大きい。そう山本大将は認識している。

 そして現実にそうであった。砲戦では観測機からの情報によって比較的早い段階での命中弾獲得に成功している。常に先手を打てており、五隻撃沈という素晴らしい戦果を残した。

 併し、兼ねてより山本大将が提唱していた、「航空機で戦艦を沈めることは可能である」の正誤は不明であった。

 ガングード級戦艦では古過ぎて米国の戦艦とは月とスッポン程の差がある。


 作戦立案した樋端少佐も、航空機で戦艦を撃沈出来ると確信している。


 では何故、樋端少佐がこの様な作戦を立てたのかと云うと、ソ連の背後にいる国のためである。そう、米国である。


 ソ連の様な海軍力で見れば、日本に遠く及ばない-其れが、当時の日本の認識であり、現実にそうであった-国に、虎の子空母を使い、その有能性が米軍に知られ、米軍が、航空機の量産に全力を注げば、いざ米軍と戦う時に、愈々日本に勝ち目はなくなる。その様に樋端少佐は思っていた。


 この意見に、GF参謀長、宇垣纒少将、作戦参謀、三和義勇大佐も賛成し、赤軍に対しては漸減邀撃作戦を遂行することに決まった。


 併し、そこからも大揉めに揉めた。何せ赤軍が太平洋側に主力艦を集めた事自体が八月になってからなのである。

 有力な作戦を立てる時間は無かった。


 それでも実際に海戦をやってみると、日本海軍の勝利に終わった。


 山本大将とGF参謀は次にどの様に動くかを海戦後『尾張』艦橋にて会議していた。


「これで我が方は断然有利になりました」

 宇垣少将が端を発した。

「戦艦、もしくは空母でペトロパヴロフスク港を攻撃するべきです」


「いえ、樺太を攻撃すべきです」

 とは樋端少佐である。

「現在樺太の陸軍は赤軍に押されている状態。ここで恩を売っておくのも悪くないと思いますが」

「陸軍を助けるのか?」

「そうです宇参謀長。樺太北部には油田があります。これは現在ソ連に取られていますが、これを海軍のものにします」

嫌そうな顔をする宇垣少将に樋端少佐は涼しい顔で返した。


「私は航空参謀の意見に賛成します」

 作戦参謀三和義勇大佐はそう切り出した。

「ソ連は東方には樺太にしか油田を持っていません。厳冬期になれば、ソ連内部でも物資の運搬は困難」

 山本大将、先任参謀黒島亀人大佐も同様の理由で賛成し、細やかな点は帰投してから決めることとした。


 『尾張』率いる連合艦隊は室蘭鎮守府へ向け舵を切った。

参謀達の会議は次回へと続きます


誤字、脱字、ココがおかしいという所ありましたら、教えてくれるとありがたいです。


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