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しょうがない。
腹をくくってきなこちゃんと向き合う。
「きなこちゃん、落ち着いて聞いてほしいの」
「うん」
「そっちも座って。あとお願いだから、ちょっとの間口を挟まないでくれる?」
「君の頼みならしょうがない」
屋上に、私ときなこちゃんと三つ目星人が円くなって座っている。なんだか物凄く変な絵面だ。
大丈夫、三つ目星人には「口を挟まないで」って言ったし。
・・・きなこちゃん、私が三つ目星人と喋ってるのを目を丸くして見ていたな。なんだか私、今日だけで色々経験したな。
友達との距離が遠くなった気がするよ。
「この三つ目の生命体、実は冥王星から来た宇宙人なの」
「・・・わかった。あんこ、熱はないね?あっ、天井が崩れた時に頭打った?」
わかるよ、きなこちゃん?私だって友達がそう言ったら、同じような対応すると思うよ。
でも自分のおでこと私のおでこに手を当てて熱を測るのやめて・・・。やっぱり友達としての距離が遠くなったかなぁ。
「うん、熱はないみたいだね。頭は?」
「もう、打ってないよ!本当のこと言ってるの!!」
「いや、それはちょっと。だって、」
「この宇宙人と私は前世で恋人みたいだったの!」
きなこちゃんの言葉を喰って喋る。
私だって自分で何言ってるかまだちょっとわかんないよ。でもこれ以外に言い様が無いんだもん。
「・・・え?」
「ホントだよ。嘘ついてないもん」
「てことは、この変なのが宇宙人で?その上、前世での恋人?」
「うん」
きなこちゃんが、私に同意を求めるようにこちらを向く。それに頷く。するときなこちゃんは大きなため息をつき、勢いよく三つ目星人の方へ振り向いた。
「あんた、あんこに変な洗脳かけたんじゃないでしょうね!?」
「失敬な!僕は事実のみを話したまでだ!!」
「ちょっと!!両方とも落ち着いて!」
「落ち着けるわけないでしょ。あんこのことで争ってんのに、よくそんなに落ち着いていられるね?」
「きなこちゃん、お願いだから話を聞いて!」
そこまで言って、やっときなこちゃんはしっかり話を聞いてくれるようになった。
なんだか、今のやり取りだけで疲れてしまう。
「いい、きなこちゃん?宇宙人で、前世の恋人なの。この・・・ええっと」
「ニフタ・アストリァ・プスィテ・フォティゾ・ウーヌム・ディアトンアステリャス・ブルートゥ・四世だ!」
「長いよ、ディアにしな」
「名前を勝手に省略するな!!」
「もういいよ、長いの事実だし。その、ディアが」
「本当に?」
そこまで言って、きなこちゃんは最後の駄目押しと言わんばかりに目を向ける。私はそれに頷く。
するときなこちゃんは大きく息を吐いて、「わかったよ」とあきらめた様子で言った。
途中で粘ったもののここまであっさり信じてくれると拍子抜けだ。
「信じてくれたの?」
「もういいよ、信じるしかないでしょ。そうじゃないとあのオブジェも説明つかないし」
「宇宙船だって、あれ」
「もう何でもいいや・・・。それにあんこが嘘じゃないって言うし。そうしたら信じるしかないでしょ。でも前世がどうのってのは、後々聞くからね」
「うん」
最終的にはあっさりしてたけれど、何はともあれ信じてくれてたなら大丈夫かな。きなこちゃんが物わかり良くて、本当に良かった。
「で、その冥王星出身の宇宙人とやらは、何で地球に来たわけ?」
「その、約束っていうのを・・・」
「約束?」
「うん。前世でディアと私がまた会おう、って誓った約束を守りに来たの」
「ふーん。でもそれ、あんこは約束覚えてないし。『会う』って約束は果たせたわけだし・・・」
あれ?そう言われればそうだ。
私はディアのことを忘れてしまったけれど、『会う』って約束はもう果たした。
「じゃあ、こいつもういいんじゃない?帰っても」
スパッと、きなこちゃんは言った。
酷いけど、紛れもない事実を。
「いや、僕は帰る気なんて無い」
しかし、それにディアすかさず反論した。
私が「どういう事?」と質問すると、ディアは迷いなく言ってのけた。
「失った約束を取り戻すため、僕は君ともう一度愛し合う!!」
「・・・はぁ!?!?」
宇宙人からの、二度目のプロポーズだった。