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「・・・気のせいかな?今私の前に謎のスライムもどきがあるんだけど。しかも喋ったみたい。あんこ、見える?」
「うん・・・」
きなこちゃんは、目をこすりながら私に聞いてきた。
まあ仕方ないよね、そうなるよ。でもパニックにならないところは、私よりも冷静というか、落ち着いているのかな。
あ、でもきなこちゃんも凄く戸惑っているなぁ。すっごい眉間にしわが寄ってる。
どう説明しようかと思い悩んでいると、三つ目星人の方が先に口を開いた。
「おい、聞いているのか。彼女からその手を放せと言ったんだ」
「うわぁ、また喋った。しかもあんこから手を離せって、何なのこいつ」
三つ目星人も三つ目星人で、なんでそんなトゲトゲした言い方するの。私と話をするときと、態度違い過ぎじゃない?
うわ、凄いきなこちゃんのこと睨んでる。何でかなぁ。
・・・って、きなこちゃんも負けないくらい形容し難い、複雑な顔してるよ。
「おい。だから彼女から手を離せと、」
「うっわ、こっちに来るな!!ゴメンあんこ、ちょっと我慢して」
きなこちゃんは近づいてきた三つ目星人を気味悪がって、後ろへ下がった。と思いきや私を持ち上げた。
・・・持ち上げた!?
「ちょっ、きなこちゃん!?!?」
足をバタつかせて抵抗するものの、きなこちゃんは離してくれない。そうこうしていると、きなこちゃんは私をお姫様抱っこして、姿勢を少し低くした。
これ、走るときのスタートの姿勢だよね?きなこちゃん、何を!?
「ごめんね、あんこ。少し揺れる、かもっ!」
私がストップをかけるよりも早く、きなこちゃんは私を抱っこして走り始めた。
伊達に剣道で足を鍛えてないと思わせる、軽快な、豪快な走りだ。みるみる三つ目星人が遠ざかっていく。
瓦礫をどんどん踏み越えていく。きなこちゃん、足腰鍛え過ぎじゃない?もの凄いスピードだよ。
正直怖い!すごい揺れるんだけど!っていうかどこに向かってるの!?
廊下を通り抜ける。階段を駆け上がって、また廊下を駆け抜ける。
あれ、この方向って・・・。
私は何となくどこに向かってるのか、察しがついた。
最上階までの階段をのぼり切ると、きなこちゃんは屋上の扉を勢いよく蹴って開けた。
屋上に出て、ようやくお姫様抱っこから下ろしてくれる。
「息がとっても上がってるけど、大丈夫?」
「うんっ。いや・・・・・それより」
ハーハーと、きなこちゃんの呼吸が荒い。全力で一階から屋上まで私を抱えて走ったんだし、そうなるだろうな。膝に手を当てて俯いている。
でも、きなこちゃんは自分の息が整うのを待たずに質問を投げかけてきた。
「あの変なスライムもどきっ、なに!?」
「ええっと・・・・」
「明らかに人間じゃないよね?おもちゃとか立体映像じゃあないし・・・・」
いきなりの質問攻めに驚きが半分、そりゃそうだろと納得が半分。
きなこちゃん、かなり落ち着いてるほうだと思ってたけど、本当は動揺してたんだ。
こんなに息を切らしてまで私を抱えて走るんだもの。ビックリしちゃったよ。
「たぶんあれって、本物の生物だよね?何となくだけど、そんな気がする。あんこ、あそこに居て何かあった?」
「えっと、その、あの」
「あの三角柱のでっかい建物みたいなのも、スライムもどきとの関係が?」
ちょっと、いっぺんに答えられないって。
でも鋭いな。おもちゃとか立体映像じゃなくて、本当に生きてるってわかってるし。天井破壊の宇宙船も。
でも、ホントどうやって説明しよう?前世のこととか、話しても信じてくれるかな・・・?いや、まだ私でさえあんまり信じれないのに。それはちょっと難しいか。
「その子は僕の婚約者だよ」
「だから信じられない・・・って、ええ!?」
え、ウソ!何で三つ目星人がここにいるの!?っていうか何言ってるの!?
うわぁ、きなこちゃんの顔が真っ青になってる・・・。
「は!?あんこ、こんなんの婚約者って嘘だよね!?!?てゆーか、結局こいつは何なの?」
「僕は冥王星からやってきた、ニフタ・アストリァ・プスィテ・フォティゾ・ウーヌム・ディアトンアステリャス・ブルートゥ・四世だ」
ああ、きなこちゃんが「名前長すぎでしょ!いや待って、冥王星?は?」と呟いて頭を抱えている。
もうだめだ。収集つかないし、きなこちゃんに説明しなきゃいけなくなっちゃった・・・。