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朝。起きて顔を洗い、朝食を食べて着替える。歯を磨き、学校へ行く。
そうして一日が始まり、普通に過ごす。
私はきっとこれからもそうやって過ごすのだと思っていたし、それでいいと思っていた。
「あんこ、私購買言ってくるねー」
「はーい、行ってらっしゃい」
『あんこ』こと『安田ともこ』。
あだ名は少し変わってるかもしれないけど、名前もそれ以外も至って普通。それが私。
私は普通の高校一年生。学歴も運動能力もそこそこで、趣味は読書、特技は料理の女子高生。
結構どこにでもいそうな人間だって、自分でも思ってる。
今は学校の昼休みで、自分のクラス。二年B組で弁当を広げている。
大好きな卵焼きと、小さめのサンドイッチ。二つをにらめっこしてどっちを先に食べようか迷っているところ。
「ただいまーっと。お、今日はサンドイッチなんだ」
と、そこで購買から戻ってきたきなこちゃんがサンドイッチを見て呟いた。
「おかえり。そっちはおにぎりだね」
「うん、たまにはいいかなって思ったから」
「そっか、じゃあ・・・」
「「いただきます」」
二人で手を合わせて、食事開始。
あ、卵焼きちょっと甘い。そっちのおにぎりも美味しそうだなぁ。
私の向かいに座っておにぎり頬張っているのは、私の数少ない友達の一人。『きなこ』ちゃんこと『木山奈々子』ちゃん。
あんこときなこ、面白くて私はとっても気に入ってる。
人見知りをして友達を作るのが苦手な友達な私にとって、きなこちゃんのようにフレンドリーに接してくれる子にはとっても助かっているのだ。
「そう言えばきなこちゃん、また勝ったって?」
「んおー。ひーはいたいはいらけろね」
「お行儀悪いよ。食べながら喋るから、何て言ったか全然分からなかった・・・」
するときなこちゃんは数回もぐもぐ口を動かして、すぐに残りを飲み込んだ。
「ん、まぁ小さい大会だけどね。優勝したよ」
「おー、おめでとう!」
きなこちゃんの報告に小さく拍手。やっぱり凄いな、きなこちゃんは。
きなこちゃんは剣道部所属。元の身体能力も高く、中学の頃に剣道を始めるとメキメキと力を伸ばしていった。高校に入っても剣道を続け、入部してすぐにあった部内戦では良い結果を残したからすぐにレギュラー入りを認められたみたい。
二年生になってからは、後輩が入ってきて指導をしてるって。きっと更にかっこよくなったんじゃないかな。
前なんか「もっともっと強くなって、私があんこを守ってあげるよ」なんて言われちゃった。
何か一つでも、取り柄があるっていいな・・・。なんて時々、羨ましくなっちゃくこともあるくらい。
「ふぅ、ごちそう様でした。ってあんこ、食べるの遅くない?私もう食べ終わっちゃよ」
「え?あっ、ごめん。ちょとボーっとしちゃって」
いつの間にかきなこちゃんはお昼ご飯を食べ終わっちゃってたみたいで、私のことを見ていた。
残りのおかずをポイポイっと口に放り込む。
「ごちそう様でした」
「じゃあ、私はトイレに行ってくるね」
「うん。私はお茶買ってくるね」
きなこちゃんはトイレへ、私は自販機へとそれぞれ向かう。
自販機は購買のすぐ近くだから、きなこちゃんに頼んで買ってきてもらってもよかったかな。
なんて考えながら、購買への道のりを歩いている時だった。
突然、本当に突然だった。いきなりズドドーン!!という大きな音と共に、何かが空から降ってきて天井を突き破った。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?」
もうもうと砂煙が立ち込めて視界がぼやける。爆風が巻き起こって、堪らずその場に尻餅をついてしまう。
周りにいた他の生徒たちも驚いているのだろう、「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」や「ななな、何!?」と言うような叫び声が聞こえてくる。
天井のコンクリートが崩れ落ちて、目の前にガラガラと音を立てて積まれていくのがわかる。
どっ、どうしよう!!腰を抜かして立つことが出来ない!
そうして、どれくらいが経っただろうか。
校内では放送が入り、ほとんどの生徒が避難をしていた。少しずつ砂煙が落ち着き、体に力が入るようになって立ち上がりその場から逃げようとすると、何かが視界に映り込んだ。
目を凝らして見つめる、砂煙のその先には・・・
大きな大きな、三角柱の形をしたオブジェのようなものがそびえたっていた。
「なっ、何これ・・・!?」
三角のオブジェはピーン、ピーンというような高い電子音を響かせている。
早く逃げなきゃ、と震える足を必死に動かし後ずさりをしているとそのオブジェはプシュー!と白い煙を出してその一部が開いた。
中からはゼリーのような緑色のプルプルした塊が出てきた。
「いたたた・・・。何なんだ、いきなり落下するなんて」
「ひっ!喋った・・・!?」
「ん、誰かいるのか?」
その塊は喋るや否や、私の声を聴くなりこちらへ向かって動き出した。
うわわわわわわ、すぐ目の前になんか来た!ってあれ?よく見ると顔がある・・・。
「顔が・・・三つ目!?」
確かにその塊には顔があって、しかも目が三つあった。
何、新種の生命体!?それともまさか、宇宙人!?うっ、目が合った・・・。
その生命体をまじまじ見ていると、そいつは私に向ってこう言った。
聞き間違いでもなんでもなく、確かにそう言われたのだ。
「僕と結婚してくれ!」
普通に生き続けて十六年。
私、安田ともこは謎の生命体に求婚されました・・・。