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今日は文化祭で約束されたきなこちゃんとのデート…お出かけということで少し遠くにある大型ショッピングモールへ。雑貨を買ったり、服を試着したり、いろんなお店を冷かして。
「ねえあんこ、次はあの店見てもいい?」
「うん」
きなこちゃんが楽しそうでよかった、もちろん私も楽しい。けれど…
「見ろ!この服なんかいいんじゃないのか!?」
「お前センス最悪だな。あ、おい移動したぞ」
やたら人目を惹く蛍光色の服を手に何故か興味を示しているディアと、それを呆れた目で一瞥しつつ私たちの行方を追う黒蜜。
「何なのあの二人、あれで私たちの後をつけてるつもり?」
「あはは…」
「あれじゃ気付いてほしいって言っているようなもんよ?特にディアなんかどーいうつもりであんなギラついた服持ってんのか」
「だ、だよね~…」
当然のようにきなこちゃんも気付いているし、ディアの興味は完璧にドギツイ服に奪われているし何が何だか。呆れたように彼らを眺め大きくため息を吐くと、ズカズカとそちらの方向へ歩いて行った。
「ちょっとあんたら何やってんのよ」
「む、きなこ、どうしてここにいる?先ほどまであんことあそこで…」
「二人のことが気になって買い物どころじゃないっての。後その服はとっとと返してきなさい、クソダサいから」
ああ、そんなにバッサリ。そうしてディアが持っていた服をぶつくさ言いながら戻しに言っている間に、きなこちゃんは別の服を選んでいく。
「はい、これはこれと組み合わせて着なさい。確かにあんたは瞳や髪が明るいから発色の強い服でも悪くない、けどあんなチャカポコしたものじゃなくても十分よ」
「チャカポコって、きなこちゃん…」
「少しアクセントになる程度でいいの。さっきの服なんか着てみなさいよ、視界がうるさくてしょうがないことこの上なしなんだから」
「確かに。ただでさえ色々うるさいのに、これで視界までうるさくなったら敵わんな」
「まあまあ二人とも、そんなに言わなくたって」
「あんこだけだ、僕の味方をしてくれるのは。そうだぞ、そんなに全部否定しなくたっていいじゃないか」
「うんうん」
そうだよね、二人ともどうしてディアにだけ当たりが強いんだろう?
「選んだ服だって悪くはなかっただろう!?」
それは……どうだろう。きなこちゃんと黒蜜が眉をひそめて私に哀れなまなざしを送ってくるが、二人はいったいどんな気持ちで私を見守ってくれているのだろう。何がどう、と詳しく弁明は出来ないけれど、おそらく誤解だ。でも隣で自信満々かつ期待のこもった視線を向けるディアを見ると「うん」とも「ううん」とも言えない。
「あーもう分かったから、これとこれは試着してきなさい」
そう言って何着かをディアに押し付けると、そのまま試着室に放り込んだ。
「あんたたち今日は私たちのことつけるためだけにここまで来たの?」
「あーいや、俺は来るつもりなかったんだがな…ディアのやつが無理矢理」
成程、それは何というか黒蜜も災難だったんだな…。
「の割にはディアよりもノリノリだったんじゃないの?」
「言えてるかも、服に気を取られる辺り、よっぽどディアの方が不真面目で黒蜜の方が真面目に私たちのこと尾行してたんじゃないの?」
「そんなことないし、な、何でもいいだろ」
そんな風に話をしていると、そのうち話題の中心人物ディアが試着室から顔を出した。
「どうだ!?」
「わ、すっごく似合ってるね…!」
「まあまあね」
「まあまあだな」
クルーネックのTシャツだったり、少し派手めがかったボトムスだったり、やたら派手過ぎずかと言っても地味過ぎず、とてもうまくまとまっている。のに、どうしてそんなに辛口評価なの…?しかもコーディネートしたきなこちゃん本人までまあまあって…。
「結局顔なのよね」
「本当、なまじ顔がいいからどれ着たってよく見えるもんだよなぁ。きなこがアドバイスしなくても、あの派手なのでもそれなりにいけたんじゃないのか?」
「そうね、やめとけばよかったわ」
そ、そういうことね…。
「ま、まあとにかく凄く似合ってるよ」
「そうか!?あんこがそう言うならこれにしようかな」
「あ、ついでにこれとこれも買っときなさい。これから暑くなるんだし、Tシャツはいくら持ってても損はないはずだから」
「そうか、じゃあ買ってくる!!」
きなこちゃんに追加で手渡されたものを抱えてルンルンにレジへ向かっていく。
「なんだかんだ言って面倒見いいんだから」
「そんなんじゃないわよ、ただあの変な格好で近くを歩かれると嫌でも目を引くでしょ?それを避けたかったの」
「そんなこと言ってまたまた、お前もあいつのコーディネートするの楽しそうだったぞ」
「そんなわけないでしょ。はぁ、ディアたちとしゃべってると疲れる…」
そう言うと面倒半分呆れ半分で肩を落とした。
でもそれはきなこちゃんが律義に全部のボケや天然を拾ってツッコんでくれるから、とは言えない。まあああだこうだ言いつつ楽しそうだし、良いかな。
と、そこで私のお腹が小さく「クゥ」と鳴った。二人に聞かれたかどうかが分からず、もし聞こえていたらリアクションされるのが恥ずかしくて咄嗟に話しをそらしてしまう。
「疲れるのはともかく、私お腹空いちゃったな。ね、みんなでお昼にしない?」
「もう昼になるもんな。フードコートは席空いているかわかんないし、少し待つけどファミレスにするか」
「賛成!コスパ良いとお財布にやさしくて嬉しいし」
「お財布にやさしいって、お前…」
あっという間に昼食がファミレスに決定、流されてくれて良かった。やいのやいのと喋りつつ歩きだす、が。
「ふぁみれす………」
「あ、お帰り。あーと、今からファミリーレストランって言って…………………、えーと、ご飯食べられるお店に行くの。結構安くて美味しいもの出てくるんだよ」
会計を済ませて合流したものの、唯一ファミレスが何なのかよくわかっておらず流されるまま歩き出すディア。今のは完璧に英語に触れてこなかったお爺ちゃん口調。ざっくりと、本当にざっくりと説明をするが伝わっているだろうか。
「………ファミレス…!」
ご飯という単語に反応しただけなのかどうなのか、とにかく目を輝かせて歩調を速めたのでひとまずは良しとしよう。