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「「「は?」」」
つい声に出てしまったが三人でハモるってことは二人も同じこと思ったんだろうな・・・。
「おま、何言ってんだよ。つーかそれ投票箱じゃねぇか、そんなもんでどうしろって言うんだよ」
「あんこ、投票箱とはなんだ?」
「あぁ、ディアは知らないのか。えっとね、私たちのクラスの『コスプレ喫茶』ではクラス内で人気投票を行うんだよ。一日目と二日目それぞれで、接客した人の中から誰が一番カッコ良かったか、可愛かったかを競うの」
「ほう、成程」
「・・・っておい、まさかとは思うが」
「そう、そのまさか!その人気投票でより多く票が入った方があんこに相応しい、ってわけ」
「お前適当にも程があるぞ」
「適当に言ってるわけじゃないわよ。この投票、見た目はもちろん接客の仕方、言わば相手への接し方も重要なポイントになるの。つ・ま・り!その両方がいっぺんに比べられるのよ?またとない機会じゃない」
「俺はそんな勝負乗んねぇぞ、馬鹿馬鹿しい・・・」
「何だ黒蜜とやら、逃げるのか?」
「はぁ?」
「逃げるのか、と聞いたんだ。まさか戦わずして自分の方があんこに相応しい、とでも言う気か?」
まるで黒蜜のことを見下すかのような余裕で笑みを浮かべるディア。実際言ってはいないけど「はっ!」と鼻で笑って来そうな程だ。それにカチンときたのか、食い気味に黒蜜は否定する。
「そうじゃねえよ、第一お前はこんな馬鹿らしいことすんのかよ」
「勿論だ!!」
何ともまあ清々しい程の返事と自信、それを見て唖然とする黒蜜。いや唖然というよりちょっと引いてる感じがする。
「正気とは思えねー・・・」
「まだあんこは僕のことをよく知らないようだからいいチャンスだと思っている。それにこういうところで、少しでもいいところを見せたいしな!」
「いやだからって、なんでそんな張り切ってんだよ」
「それは、その・・・。とにかくいいじゃないか!!僕はそれに参加するぞ」
すんなりディアは勝負を受け入れた。
「んで、黒蜜。あんたはどうすんのよ?」
「決まってんだろそんなもん・・・」
「あーっ、やっと帰って来たぁ!」
黒蜜の言葉を遮るように教室からクラスの子が顔を覗かせた。拗ねているような疲れているような表情で「遅いよ、休憩時間守ってよね」と声をかけたのを皮切りに、他の人たちが私たちをクラスへと押し込む。
「三人を連れ戻してくれてありがとう木山さん」
「ほら、接客は着替えて料理の人たちは持ち場について!」
「次の人、休憩入っても大丈夫だよー」
あっという間に調理場に押し込まれて、ディアは着替えに行かされた。
「えっと・・・」
めまぐるしく変わる状況に脳内処理がついて行かなくなってきた。黒蜜もうんざりとした顔で一際でっかいため息を吐く。が、その後は以外にもきっぱりしたように「しょうがない、やるか」と言ってパキパキと動き始めた。
「ほら、あんこもボケッとしてないで働け」
「あ、うん」
結局黒蜜はあの勝負に参加するのかな・・・、クラスの子の声でなんて言ったか聞こえなかったもんなぁ。
その後もお客さんの入りが忙しくて黒蜜と話す機会はほとんどなく、下校している時にはメールで聞こうと思ったけれど家に着いたらヘトヘトですぐに眠ってしまい聞けずじまいとなってしまった。
まあ、そんなこんなで私たちの文化祭一日目は終わったのだ。