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いきなり何っ!?
急なことに驚き、暴れるが手を掴まれて動けない。段ボール一つでできている隔たりだってわかっているのに、力が出なくて動けない。出口の分からない暗闇に、胸の奥がカッと熱くなっていく。ずっと奥底にしまっていたはずの記憶と感情が、鮮明に浮き上がってくるのを感じた。
落ち着け、今は大丈夫だ。あの時じゃないのは私が一番わかってるじゃないか。落ち着け、落ち着け・・・っ!
いくら落ち着くように自分に言い聞かせても心臓がどんどん早鐘を打つ。恐怖で声が出なくて、怖くて、涙がこぼれた。
助けて・・・、誰か!
「すまない、痛かったか?」
「は・・・?」
恐怖の中、聞いたことのある声が降ってきてつい力が抜けてしまう。それと同時に握られていた手が解放されて、崩れ落ちるように床にへたり込んでしまう。この声・・・。
「ディ、ア・・・?」
暗闇の中で壁となっていた段ボールの隙間からうっすらとした光が射し、ディアの明るい髪の毛を映した。
「すまないあんこ、力加減が出来なかったようだ。痕が残ってはいないか?」
「あ・・・」
「ってどうかしたのか?随分と手が冷たいぞ」
「うぁ・・・・・・」
「あんこ、泣いているのか?」
最悪だ。折角閉じ込めておいたはずの記憶が、出てきてしまった。もう大丈夫だって頭じゃ理解してるはずなのに、身体があの恐怖に怯えている。ディアのシルエットが揺らいで、視界が歪む。
目の前にいるのは誰・・・?震えが止まらない、涙が止まらない。私はこの闇から抜け出せない・・・?
「あんこ、どこにいる!?」
「・・・・・・くろ・・・みつ?」
闇を、恐怖を裂くような黒蜜の声で我に返った。
ああ、黒蜜の声が聞こえる。きっと心配して私のことを探してくれてる。早く来て、私はここにいるよ。
「大丈夫か!?」
薄ぼんやりとした光と共に、手が差し伸べられる。ゆっくりとその手を取ると、力強く握って体が引き寄せられた。
あぁ、あったかい体温と焦ったような荒い呼吸が伝わってくる。その感覚に、今度は違う涙が零れた。
もう大丈夫だよ、心配かけてごめんね。あとちょっとしたら落ち着くと思うから、そんなに焦らなくてもいいから。心配してくれてありがとう。
沢山言いたいこと、言うべきことはあるのにどうしても涙が止まらなくて喋ることが出来ない。そんな私の涙をハンカチで拭っては「大丈夫だからな」「ゆっくり深呼吸しろよ」と声をかけてなだめてくれる。いつの間にか抱きしめられるような体制になって、絶えず頭を大きな手が優しく撫でてくれた。
「少しは落ち着いたか?」
「・・・うん」
「立てるか?」
「うん」
「歩けそうか?」
「うん」
「そうか、じゃあここを出るか」
「うん」
「それから、おい転校生」
「何だ?一体あんこはどうしたというんだ」
「 」
「なに?」
「さ、あんこ行くぞ」
黒蜜はディアに何か言うとゆっくりと立ち上がって私の手を引いてくれた。何を言ったのかは黒蜜の声が小さかったのと自分の鼻をすする音で聞き取れなかった。握ってくれている手は力強く、でも痛くなくてどこか安心できる。
ゆっくりと出口に向かって進んでいく。その間、黒蜜はずっと私に話しかけてくれた。
「あと少しで出口だ。頑張れるか?」
「うん」
「ここ出たら少し休むか」
「うん」
投げ掛けられた言葉に私は終始「うん」しか答えることはできなかったけれど、ずっと優しく言葉をかけてくれた。
あ、先に四角い明るい外からの光が見える。出口だ。
「やっと出口だな、飲み物でも買いに行くか」
「うん」
そのまま少し離れた自販機まで歩いていく。
お化け屋敷も抜けだして涙も乾いたのに、黒蜜は私の手を離さなかった。




