19
「あと十分か、もう少し待つけど大丈夫か?」
「うん、待つくらい何ともないよ。それより・・・・いいの?」
「何がだ」
「黒蜜、本当は他の人と、友達と一緒に文化祭回りたかったんじゃないの?無理して私といなくていいんだよ?」
そうだよ。せっかくの文化祭なんだし、私なんかと一緒にいるよりもっと仲のいい人といろんなお店とかステージとか見て回ったほうが楽しめるんじゃないの?
もしかして黒蜜は、私の休憩がきなこちゃんと重ならなくて一人になっちゃうから気を使ってるんじゃないのかな。だって黒蜜、何だかんだで私たちのことをいつもよく見てるし・・・・。
あ、・・・・だめだ。こんなこと考えてたら凄く不安になって来ちゃった。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。不安が心の中でどんどん膨らんで、私の胸をギュって締め付ける。
「バーカ」
「んなっ・・・・!?」
急にそんなことを言われて思わず声を上げそうになる。が、ここは廊下で色んな人がいるのを思い出して咄嗟に口を覆う。
それにしても何さ!?せっかく人が真剣に考えていたのにそれを『バーカ』って!!失礼しちゃうよ!
だが、いきなりの罵倒にさっきまでのモヤモヤした気持ちはどこかへ行ってしまった。代わりに怒るように黒蜜を睨みつける。
「ぷふっ、ふははっ」
すると、今度は笑ってきたのだ。
「ちょっと、なんで笑うのさ」
「いや、変な顔だと思って。ホントに・・・・ぷっふふふふ」
「何よ変な顔って!?黒蜜がバカなんて言うから怒ってるんでしょ!」
「だってお前バカなこと言うから・・・・」
「バカバカって、一体私のどこがバカだっていうのよ!?そりゃあ確かに学力に自信はないけど・・・・」
最後の方は尻すぼみになってしまいゴニョゴニョと言葉を濁してしまったが、でも私のどこがバカだって言うのさ!?さっきの会話で変なところあったっけ?いや・・・・無いはずだよね。無いよね・・・・?
「お前はいつも変なところで見栄を張るっつーか、気をつかうっつーか」
「はぁ?」
「無理して一緒にいるわけないだろ。そんなこと気にしなくてもいいんだけどなぁ・・・・。あ、もしかしてあれか?」
「あれ・・・・ってどれ?」
「・・・・あんこ、俺のこと嫌いか?」
「はぁ!?」
黒蜜の変な質問につい大きな声が出てしまう。周りの人がちらほらと私に視線を向けるのを感じ、ハッとして再び口を塞ぐ。歩いたり話したりするのに夢中で気づかない人ばかりだけど、中には私の声に振り返る人もいて堪らず俯いてしまう。
もう、変に目立っちゃったじゃん!!・・・黒蜜こそアホなんじゃないの!?変な質問私にするし!
「そんなわけないじゃん。何言ってんの、まったく」
「ふーん、そうか。じゃあさ・・・・」
私の返答を聞いて黒蜜はそっぽを向いてしまった。と思ったらまた違うことを聞こうとしている。
今度は一体何なのさ。また変な質問したら本当に怒ってやるんだから。
恐るおそる黒蜜が口を開く。そのときの表情が、私には不思議と緊張してるように見えた。
「俺のこと、」
「お待たせいたしましたー!!それでは二名様、夜の病院へどうぞ!足元には少々物が置いてあるところもありますので、つまずいて転ばないようお気をつけて下さいね。また危険ですので走らないよう、足元に気を付けゆっくりと進んでください」
「・・・・・・・・あ、はい」
どうやら順番が回ってきたようで、入り口にいる案内の人が軽い説明をしてから扉代わりにかけてある暗幕を開いてくれた。黒蜜が言おうとしていた言葉はその人の言葉でがっつりかぶっていて、聞くことはできなかった。
何故かしぶしぶと進む黒蜜の後ろをビクビクと、若干怯えながらついて行く。
中はとっても雰囲気が出ていて、凄く怖い。教室内は色々なところに壁を隔ててあって、迷路のように入り組んだ構造になっている。そこに血糊が塗ってあったり、一部が割られてそこからボロボロの手が出ている。マネキンだとわかっていても、視界の端に映るとそれが恐怖となって私を襲う。
「中々雰囲気あって、ちょっと怖いね・・・・?」
「そうか?今のところそんなに怖くはないだろ」
黒蜜がそうそっけなく返す。
黒蜜はそうかもしれないけど、私は怖いんだって。あぁ、そんなにスタスタ行かないでよ!
「ちょっと、もっとゆっくり行こうよ。ほら、おいて行かないでって・・・・」
そう言って追いつこうと少し早歩きに気味に歩くと、急にすぐ横の壁が開き『ガタン!!』という大きな音がした。
「きゃぁぁあ!!??」
「うおっ!?」