雨の行き先は何処へ
ヒストリアに戻った私は、一先ず施設の情報を聞きまわった。
聞くところによると、古都なのだがお城は無く、城塞都市のような形らしい。
一説には当時の王様がそんなお城を建てるぐらいならば、城壁や設備を充実せよとのことで、砦止まりだったそうだ。
それはそれでどうなのかと思うんだけどね…。威厳とか他国への印象とかそういう意味で…。
とまぁ、そういうことで各生産施設がヒストリアには揃っているらしい。
また、この街が王都から古都となったため、新しくできた王都の方へ移動した人も多かったらしく、空き地や空き家なども数多くあるらしい。
さすがに空いている畑はないらしいが。
そのため、この古都では生産職よりもギルドがギルドホームを建てようとするらしい。
まぁ施設も結構揃っているし、王都と比べても地価が安いらしい。
でも、やはりエアストに比べると高いとのことだ。
まぁエアストは小規模ギルドやソロプレイヤー用なのかもね。
それと、目的の図書館はちゃんと古都にもあるとのことだ。
とはいえ、王都に比べると数は少ないようだ。
しかし、営業時間が夕方までなのでまた明日来ることにしよう。
さてと、ギルドホールで依頼書でも見ようかな。
私は街の人に聞いてギルドホールに辿り着いた。
ヒストリアのギルドホールは、エアストに比べると大きく、職員の数も多く見られた。
流石古都なだけあるね。
さてと依頼依頼っと…。
私は良さそうな依頼を探していると、ギルドの職員から声を掛けられた。
「すいませんが、異邦人の方ですか?」
「はっはい…そうですけど…」
急に声を掛けられたので、ついびくっと反応してしまった。
一体何の用事だろう?
「実は…ここから王都へ向かう道が二通りあるのですが、その内の一つに大型のモンスターが定期的に出現するのです…」
「王都やこちらの衛兵の人たちでは対処できないレベルなんですか?」
「恥ずかしながら…通常のモンスターならともかく、大型になってしまいますと軍を挙げての討伐となります。そして、軍を挙げるとなると各国にも少なからず警戒させてしまうなどの影響が出てしまうのです…」
現在この大陸は、大昔のような戦乱ではないため、軍を挙げての行動は他国への不信感を与えてしまうため、あまりできないらしい。
そして、その街道を塞いでしまう大型モンスターは倒して三ヶ月後に、別の大型モンスターがやってきて街道を封鎖してしまうとのことだ。
話を聞くと、討伐された後に軍を使わない範囲でその周辺のモンスターの掃討は行っているらしい。
しかし、モンスターがいなくなることでその場所での栄養となるような物が増えるため、それを狙った大型モンスターが現れてしまうらしい。
ならばモンスターを放置すればいいという問題ではない。
モンスターが増えることで、王都や古都へモンスターが襲撃してくる可能性も出てくる。
それは防がねばならぬ事なので、どちらの対応にしても国も頭を悩ませているようだ。
今のところ、大型モンスターは街道を封鎖しているだけだが、あまり長く放っておくと、今度は国自体が襲われることになるかもしれない。
そのため、何度か軍を挙げて討伐はしたのだが、これ以上の頻度となるとまずいと国は考えているらしい。
そこで異邦人が来たため、定期的な討伐を依頼するように国からお達しが来たようだ。
まぁ私たちプレイヤーからしたら、ヒャッハー! レイド戦だぜ! みたいなノリになるだろうし、たぶん依頼を受けるでしょう。
この国の王様もそれを見越して私たちに依頼をしたんだろうね。
「では、この事を他のプレイヤーに伝える形でいいですか?」
「ありがとうございます!」
「とは言っても、まだこの街に辿り着いてるプレイヤーが少ないから、討伐はもう少し先になると思うけど…そこら辺は大丈夫ですか?」
「はい、まだ当分は大丈夫なはずですので、お願いします!」
さてと、ということでこの事をリンに伝えよっと。
えーっとメッセージメッセージ…。
しばらくすると、リンからメッセージが返ってきた。
とりあえず先になんで既に四つ目の街にいるのかを説明しなきゃならないようだ…。
なんでって言われてもなぁ…。森を突っ切ったとしか言いようが…。
一先ず正直に森を突っ切ったと答えた。
そして再度メッセージが帰ってきて、リンたち銀翼は今街道を進んでいる最中とのことだ。
距離的にあと半日位で着くとのことだ。
それと、私が伝えた依頼の事も掲示板に書いておいてくれるらしい。
まぁ私じゃどう書けばいいかわからないし…。
ついでに、私もレイド戦に参加しないかと誘われたけど、私はレイド戦に向くようなスキル構成じゃないので遠慮しといた。
童歌とか重力はどう使っても対複数人用だし、かといって他のスキルもそこまで大型モンスタ―用に使えるようなスキルじゃないしなぁ…。
てか絶対味方妨害するようなものばっかりだし…。
今後の事を考えてレイド用に使えるようなスキル構成を考えたほうがいいのかな?
例えば、ATKとかを成長させて物理だけで戦えるようにしたりとかかな?
でもそれだけじゃなんだか味気ないよねぇ?
例えば何か刀系で派生形ないかなぁ…?
居合い…ってなると多分スキルアーツだよね。
やっぱり複数の刀を使って何刀流とかを…。うん、できるわけないよね。
そういえば刀に属性を纏うとかできるのかな?
よくゲームや漫画でよくあるあれ。
属性武器とかと違って決められたとかじゃなくて、自分が持っている属性を纏えるとか結構いいと思うんだけどなぁ。
魔法を使いながら刀を振ってれば纏えたりするのかな?
とはいえ、さすがに街中では危険なので明日外でやろうっと…。
他には何かあるかなぁ…?
集団戦で使えそうな範囲系もほしいけど、魔法四種類取っちゃった私には今のところ火魔法ぐらいしかないしなぁ…。
うーん…。純粋にステータスとか上げて普通に斬ればいいのかな?
それの方が手っ取り早そうだね。
そういえばショーゴとかも向かってるのかな?
メッセージ送ってみよっと。
んー帰ってこないなぁ。戦闘中かな?
まぁいいや。その間に街でも散策してよっと。
「それにしても、夜だけど結構灯り付いてるんだね」
エアストだとそこまで灯りは目立たなかった。
やはりこういった大きな街になると夜でも起きてる人が多いんだね。
そういえば城壁の上とか登らせてくれるのかな?
どうせ返信来るまで暇だし、聞いてみよっと。
「城壁に登りたい?」
「上から街の様子を見たいんですけど、だめですか…?」
「うっ…まぁ…登るぐらいならいいだろう…一応付き添いには私が付こう」
「ありがとうございますっ!」
私が尋ねた衛兵さんの後ろでは何やらブーイングが聞こえる。
どうやら尋ねた衛兵さんは隊長さんらしく、「隊長ずるい!」「こういう時ばっかり!」といった声が隊長さんに掛かる。
隊長さんも「お前ら! 仕事しろっ!」と叱ると他の衛兵さんは渋々持ち場に戻った。
「では行くぞ。暗いから足元には注意しろ」
「はっはい」
私は隊長さんに付いていき、石段を登る。
石段を登って、城壁に上がると街の灯りで綺麗に光る街並みが見えた。
それとは逆に、街道側ではポツンと灯りが灯っている程度で、ほとんど真っ暗だった。
「これだけ暗いんだぁ…」
今の私は【梟の目】を外している。
そのため、実際の暗さを目にしている。
「ふむ、やはり以前と比べて街道の灯りの数が増えたな」
「わかるんですか?」
「あぁ、やはり異邦人というのは凄いな」
「何がです?」
「我々が苦労して倒すようなモンスターも、君らに掛かればあっさりと倒してしまう。だが、我々も君たちに頼ってばかりはいられない。だからこそ身体を鍛え、有事の際に動けるようにしている」
確かに私たちプレイヤーは生き返る事が出来る。でも、この世界の人たちは死んでしまったらもう生き返ることはできない。
そのため、一度しかない命で彼らは出来ることを一生懸命している。
街道を塞いでいる大型モンスターにしてもそうだ。
いくら軍を派遣したと言っても、被害は絶対に出るはずだ。
運営としては、定期的なレイド戦として設定しているのかもしれない。
でも、この世界の人たちにとってはかなりの大事だ。
だから私は、ただのレイド戦と喜んでいいのかがわからない。
すると、私が落ち込んでるのかと思ったのか、隊長さんが私の頭の上に手を置く。
「そう君が悩むことではない。確かに異邦人を羨む奴らもいる。だが、羨んでいても強くなるわけではない。だからこそ憧れているだけではなく、己も鍛えなければ強くなることはできない。例えそれが異邦人に比べて塵に等しき成長だとしても、我らにとっては大きな成長だからな」
「……」
「だから君は君が行く道を行け」
「はい…」
隊長さんは私の頭を撫でて元気付けてくれた。
私も、この人たちのために何かしたい。
だから、そのための力を付けなくちゃ…!
対レイド戦用の武器をなんとかしないと…!
そんな事を思っていると、ショーゴから連絡が帰ってきていた。
どうやらリンたちと一緒に来ているそうだ。
てかリン…そうだったら一緒に言ってくれればよかったのに…。
たぶん驚かせようと思って言ってなかったんだろうな…。
まぁ、レイド行くとしてもまだ半日以上あるし、それまでに何かスキルが手に入ればいいなぁ…。
台風直撃コースは勘弁してください…。




