【敗北者】⑦
「うがぁぁぁぁぁ!」
元々そこまでPSがないのに加えて理性を無くしているせいか、攻撃は単調だし、回避も容易い。
ただ…。
「くっ!」
こちらが攻撃しようとするとその攻撃が全て弾かれてしまうのだ。
手っ取り早く【切断】を決めて終わらせようとしたが、それも弾かれてしまったのだ。
恐らく首狩り教が狙われた理由はこれだろう。
全くもって厄介だ。
「はっ!」
トアさんの投げたナイフも全て弾かれてしまい、割とトアさんは手札が封じられている現状だった。
「一応【遅延】を使っているのですが、無系統だと効果はないようですね」
「となると、無系統は無系統で一括りにされているって事かな?」
「もしくは【遅延】を使っても、それはあくまで補助に過ぎないと認識されているのかもしれません。あくまで攻撃するのはナイフといった飛び道具ですからね」
うーん中々厄介な能力だなぁ…【敗北者】スキルは…。
未だサタンとマステマの警戒でレヴィとリエルは動けない。
となればネウラやミラ、そしてフェイトと協力して抑え込むという事になるのだが…。
「くっ! 触れられない相手を抑えつけるというのもなかなか難しいですね!」
「うー…ネウラの触手も引きちぎられちゃうよー…!」
「ネウラお姉ちゃんに加護与えすぎると今度はダメージが増えすぎちゃうし…あーもうどうすればいいのよー!」
三人にも協力してもらっているのだが、いまいちうまくいっていない。
そもそも接触不能というのが一番痛い。
全くどこの誰が体術なんかで倒してしまったのだろうか…おかげで対抗策がどんどん潰されていく。
「なんだかじれったくなってきました…」
「ねえお母さん、倒しちゃっていい?」
「もうイライラするわねぇ!」
「倒しちゃダメだからね!? その状態が復帰して治る保証がないからね!?」
あまりのじれったさにミラたちもイライラしてきたようで、一旦石に戻すことにした。
「とはいえ、お三方の気持ちもわかります。そんなに強いわけでもないのに攻撃が効かない相手と戦うのはなかなか来るものがありますからね。…ホント弱い癖にこっちのメタ装備にメタ編成で来る奴にどれだけイライラしたことか…」
「トアさんも落ち着いて…」
昔何かあったのだろう…触れないでおこう…。
とはいえ、私の持ってるスキルで有効なのといえば…。
【溶魔法】…ダメ倒しちゃう…。
【植物魔法】…一時的な拘束はできるけど強化された彼に引きちぎられる…。
【霧魔法】…目くらましぐらいにしか使えない…。
【重力魔法】…【植物魔法】による拘束を引きちぎるぐらいだからSTRが高いとして通用しない可能性がある…。
「とはいえ試してみない事にはわからないよね! 『グラビティエリア』!」
トアさんの近くへ移動し、私は【重力魔法】を使う。
範囲的にレヴィとリエルも巻き込んじゃったけど…ごめんね…。
「うがっ!」
突然の重力に彼はその場に倒れ込むが、それは少しの間の事で、ゆっくりとだが重力に逆らって立ち上がった。
「うーん…やっぱり【重力魔法】もダメかぁ…」
あまり重力を増やしすぎると倒してしまうため、そこの調整が難しいのもあるが、動けてダメージを喰らう可能性もあるためこれ以上増やすのを躊躇ってしまう。
「お嬢様の【切断】スキルが効けば一番早いのですがね…」
「そうなんだよねぇ…。刀も【切断】スキルもそれが主となった攻撃だから、それを補助とするようなのだったら…。…あっ!」
「どっどうしましたか?」
「もしかしたらうまくいくかもしれない」
「え?」
「…『現象―虚構の暗殺者』」
そう唱えて私はアリカを召喚する。
「じゃあアリカ、お願い」
「全く、仕方ないわね」
トアさんがポカンとしているが、アリカは前へ出て彼へと刀を振るう。
「ふっ!」
「がぁっ!?」
「えっ!?」
アリカの振った刀は弾かれることなく、彼を斬ることができた。
「アリスの思った通りね! ならっ!」
突然斬られた事に動揺したのか、動きの止まった彼の四肢をアリカは一瞬で切断する。
「うがぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「あ…あれは一体…」
「トアさんの【遅延】を付加した飛び道具で思ったんだけど、要はメインとなる攻撃の耐性があると弾かれるっぽいんだよね。だから【幻魔法】で作られたアリカなら、刀で攻撃しようが、【切断】スキルを使おうが、元のメインとなる攻撃は【幻魔法】のアリカだと思ったんだよね」
例えばだが、【幻魔法】で作られた【漆黒魔法】の攻撃も、あくまでそれは【幻魔法】の一種だ。
ならば【幻魔法】で実体化したアリカならば、どのような攻撃をしようが、それはあくまで【幻魔法】による攻撃とされるのではないかと考えた。
その考えは見事当たり、彼は四肢を切断されて地面に倒れている。
これならば【植物魔法】による拘束に抵抗されることはない。
その様子を見て、サタンはしかめっ面をして舌打ちをする。
「っち…」
「キュゥ♪」
「残念ですが、あまり面白い事にはなりませんでしたね」
「ふふんっ! 私の主を舐めないでほしいわね!」
私はネウラに拘束を任せ、アリカとともにサタンを睨みつける。
「さっさと彼の暴走を解除して」
「それともここで殺り合うかしら?」
「異邦人風情が…! この俺を『怒ら』せるか!」
一触即発の空気の中、予想外のところから待ったが掛かる。
「坊ちゃま、お待ちになってください」
「止めるなマステマ!」
「いいえ止めます。あくまで私たちは様子見に来ただけです。ここで異邦人と事を構えるつもりではなかったでしょう?」
「くっ…」
マステマは目を閉じたまま落ち着いた声でサタンと諭す。
それを聞いてサタンも怒りを鎮める。
「…っち」
舌打ちをしつつサタンとマステマが指を動かすと、拘束していた彼の身体が光る。
その光はすぐに静まり、今まで呻いていたのが途端に止んで静かになった。
「くそっ帰るぞ」
「はい」
私たちに背を向けるサタンとマステマ。
そしてサタンが一度振り向き、私を指差して睨む。
「お前の顔は覚えたからな。覚悟しておけ」
それを聞いてアリカがニッコリとしながら右手の甲をサタンに向け、中指だけを立てる。
意味はよく分からないけど、アリカそれ挑発してるんだよね?
サタンは「ふんっ!」と声を出し、マステマと一緒に去って行った。
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「んっ…」
「あっ起きた?」
アリカを解除し、彼の目が覚めるまで様子を見ていた私たちは目が覚めた彼に声を掛ける。
「ここは…」
「君と会った森の中だよ。それでどこまで覚えてる?」
「えっと…あんたと話してたところでサタンを名乗った子供と女がいて…。…ダメだそこから先が思い出せない…」
となると狂化状態の前後から記憶がないって事だね。
私は事の顛末を簡単に彼に説明した。
「そうだったのか…」
「だから君の四肢切断しちゃってごめんね?」
「痛みはないから別にいいけど…よく【敗北者】スキルの耐性のあるスキルでできたな」
「色々とそのスキルも穴があるっぽいからね。それが上手く利用できたってところかな?」
「そっか…」
「それで今後どうするかってところで邪魔されちゃったんだけど、答えはどうかな?」
「……」
彼は少し考えるように目を瞑り、しばらくして目を開いてこちらを見つめる。
「本当に大丈夫なのか…?」
「うん。それに戦い方も学びたいなら私や首狩り教にお願いとかもできるしね」
「えっとお嬢様に戦い方を学ぶのはちょっと…海花様もドン引きしてましたし…」
「え?」
「ぷっ…」
私とトアさんのやり取りを見て、彼はくすっと少し笑った。
「そういえば君の名前聞いてなかったね。なんていうの?」
「…ライト…」
「ライト君かぁ。私はアリス、よろしくね。…それで相談なんだけど…」
「なんだ?」
「【切断】した両腕両足…私…治し方知らないんだよね…」
「はっ?」
「いやだって…切断するって事はつまり倒しきるって事だから…そこで止めた時の事を検証してなかったから…その…」
「…えっと…つまり…」
「…一回PK…していい? もっ勿論補填はするから大丈夫だよ!?」
だって仕方ないじゃん!
そんな事考えた事なかったんだもん!
あぁぁぁ!?
トアさんそんなドン引きしたような顔見せないでぇぇぇぇ!?
こうして、何とかこの件については落ち着く事になった。
ライト君に関しては私と首狩り教が責任をもって面倒を見る事になり、特にファナティクスさんがそういった立場になっていたライト君の事を酷く嘆き、色々とケアをしているらしい。
ただ、今回姿を現した【憤怒】の大罪の悪魔であるサタン。
彼が現れた事でまた何かが動きだしそうな気配があることは注意しなければならないだろう。




