【敗北者】⑥
私たちが現場に着くと、二人の男性プレイヤーが戦っているところだった。
「くそっ! 何で攻撃が弾かれるんだ!」
片方は必死で攻撃するが、全て見えない壁で弾かれるように防がれ訳も分からず混乱し、もう片方はその必死な様を嘲笑うようにニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「ほらどうしたんだい? 僕は攻撃してないんだよ?」
「何なんだよその能力は! くそっ! やってられるか!」
捨て台詞を吐いて必死に攻撃していた方は背を向けて逃げて行った。
その姿を見て残ったもう片方は声を高らかにして笑い声をあげる。
「はははははっ! 今まで僕をバカにしてたやつらが何もできなくて逃げていく! 凄い! 凄いよこのスキル! これがあればもう誰も僕をバカになんてできないんだ!」
彼はこちらに全く気付いておらず、隙だらけな様子なので狩ろうと思えば狩れるのだが、今回は話し合いにきたのだ。
私は少し離れた場所から彼に声を掛ける。
「ねぇ、ちょっといいかな?」
私が声を掛けると、彼はビクンと反応してこちらを向く。
だがすぐさま表情を戻し、ニヤリとしながら笑みを見せる。
「お姉さんたち、僕に何の用?」
「君が今噂になってる攻撃を無効化することができるPKなんだよね?」
「ひひっ、そうだよ。お姉さんたちも見たでしょ? 僕に手も足も出ずに逃げて行ったあいつの無様な姿! ホントに滑稽だったよあれは。これも全部【敗北者】スキルのおかげだ! 僕を散々いじめたやつらの攻撃を無効化するこのスキルがあれば誰も僕を倒す事なんてできないんだ!」
「…話になりませんね…」
トアさんがボソッと呟くが、私は制止するようにトアさんの前に腕を伸ばす。
「それで、君はこれで満足なの?」
「そんなわけあるもんか! 僕をバカにしてたやつらを全員見返してやるんだ! この力があればそれが可能なんだ! 僕にトドメを刺した事のある攻撃以外なんてよっぽど変なやつじゃなければ持っていない! つまり僕を倒せるやつなんていないんだ!」
「それで誰も君を倒せなくて皆を見返したら、その後はどうするの?」
「え…? えっと…それは…」
この反応から本当に衝動的なものなのだろう。
だったら七つの大罪とは違って話し合いは可能だ。
「今ならそんなに被害も出てないし、事情を話せば皆も君の事わかってくれるよ」
そう思って近付こうとすると、彼は警戒して私を睨みつける。
「そんな甘い事言って僕を騙すんだろ!」
「騙したりなんてしないよ?」
「嘘だっ! 学校のやつらはそんな事言って僕を騙して笑ってた! 信用できるもんか!」
その発言から彼がどんな日々を送っていたのか想像に難くはなかった。
私にはショーゴやリンがいたし、そんな日々にはならなかったが、彼にはそういった友人がいなかったのだろう。
これ以上近付くのは彼を刺激することになると考え、私はその場で止まることにした。
「なら、どうしたら私の事を信用してくれる?」
「じゃあまず装備している武器を解除しろ!」
「お嬢様、そんな話を聞く必要は…」
「うん、いいよ」
「お嬢様!?」
私は言う通りに武器を装備から外してアイテムボックスにしまう。
話からすれば彼には【切断】スキルのような一撃必殺の攻撃はないだろうし、もし攻撃されても大丈夫だろう。
私が武器を解除したのを確認すると、彼はゆっくりと私に近付いてくる。
「トアさん、絶対にそこから動かないでね。手を出す事も禁止」
「お嬢様…」
10メートル、5メートルと次第に近付く彼。
そしてその距離が2メートルと近付いた瞬間、彼はその手に持っていた剣を上段から振る。
だが私は彼の目を見続け、その剣撃を大人しく受ける。
「何で…避けなかったの…」
「君の目が恐れを感じてたからかな? 攻撃したのは自分が攻撃しても嘘じゃないか、それを確かめたかったからでしょ?」
実際、彼の攻撃程度では私のHPは一割も削れず、装備の効果の自動回復でもう回復しきってしまうぐらいのダメージだった。
それに彼の目にはもう私への敵意はないようだった。
「それで、これで信用できたかな?」
「それは…」
「今ならまだ戻れるよ。ね?」
「……」
彼は私が差し伸ばした手を取ろうとゆっくりと手を伸ばす。
「いやーこれで終わるのは少しつまらないかなぁ?」
「「「!?」」」
突然聞こえてきた声に驚き、私たちは声のする方へ振り向く。
そこにはショートヘアーの赤髪に赤眼をした派手な装飾をした服を着ている少年と、その隣に控えているセミロングでストレートな銀髪に黒のゴシック服を着て背中から黒い羽を二枚付けて目を閉じたまま優しそうな笑みを浮かべてこちらを伺っている女性がいた。
「誰っ!」
「そういえば自己紹介がまだだったね。僕はサタン、次期【憤怒】の大罪を受け継ぐ悪魔だ。君の連れている次期【嫉妬】の大罪を受け継ぐそいつの知り合いだ」
「レヴィの!?」
という事は本当に七つの大罪なのだろう。
それにしてもまさかこの森にまた大罪の一角が現れるなんて…。
「にしても、せっかく面白そうな『憤怒』が見れると思ってわざわざ来たのに、こんな面白くもない終わりはちょっと不満だなぁ。だから、面白くしてやるよ!」
サタンが薄ら笑いした瞬間、PKの彼の足場に魔法陣が現れ、私を弾くように吹き飛ばす。
「なっなんだこれ!?」
「こんな拍子抜けな結末はつまらないからね! だから僕たちが面白くしてやるよ! マステマ!」
「えぇ、全ては神の導きのままに。『敵意』」
「あぁぁぁぁぁぁぁ!?」
マステマと呼ばれた女性が指を動かした瞬間、魔法陣が強い光を放ち、その中心にいた彼がその光に飲み込まれた。
そしてその光が収まると、彼は項垂れたまま動かずじっとしていたが、その表情に理性の欠片は感じられず、ただ眼前の私たちを睨みつけていた。
「あの子に何をしたの!」
「なぁに、僕が簡易契約で力を与えた代わりに理性を無くし」
「私が『敵意』で敵意を増幅して誰彼構わず攻撃するようにしただけです」
「まぁ一種の狂戦士状態だね。いやーこれで少しは面白くなりそうだ!」
二人の話を聞き、黙っていられなくなったのかレヴィとリエルが出てきた。
「キュゥ!」
「おいおいそんな怒るなよ、怒るのは俺の専売特許だろうが」
「まさかこんなところで仮にも創造神様から悪行を公認されてる貴女に会うとはね…堕天使マステマ!」
「ふふ、今はサタン様の下で働いているけど、あくまで私は神のために働いてます。だから私の行為は何も間違っていないのです」
「この性悪女!」
どうやらリエルもあの堕天使の事を知っているようだ。
「お嬢様…」
「うん、一先ずあの二人はこっちを攻撃してくるつもりはないっぽいね」
「では彼を止めなければいけないのですが、少なくとも無効化能力を持つ彼を逃がしてはいけません」
「なら彼をどうにか動けなくしてあの暴走状態を解除させる!」
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
暴走状態となった彼は、いきなり動き出し、私たちへと襲い掛かってきた。
いつから大罪が一人で出てくると錯覚していた()




