姫様の頼み事①
姫様付きの侍女が前を歩き、私たちの後ろをアシュリーさんが挟むようについてくる。
私としてはアシュリーさんと色々と話したい事があるのだが、この重い雰囲気では話すも何もないだろう。
てか侍女さん、チラチラと私を「何者だこいつ」という感じで見るのやめてくださいめっちゃ緊張します。
その原因のアシュリーさんは無言だし…どうしろと…。
しばらく侍女さんについて進むと、お城の中のある一部屋の前で止まった。
恐らくここが姫様のいるお部屋なんだろう。
うぅ…緊張する…。
侍女さんが扉を三回ノックすると、中から「入りなさい」と声が聞こえてきた。
それを聞いて侍女さんがゆっくりと扉を開けて中に入るよう私たちに指示をする。
「しっ失礼します…」
「おう、姫さん入るぞ」
「また貴方は…失礼いたします」
部屋は執務室や謁見の間ような場所ではなくただの私室のようで、広いベッドに身の回りの家具などが置かれていた。
その部屋のベッドに腰を掛けて足を組んでいる綺麗な金色のセミロングの長さの髪の女性がこちらを見つめて口を開く。
「あらアシュリー。貴女が顔を見せて歩いているなんて珍しいわね」
「はい、その男性の同行者として私の知り合いの方がいらしたので、私が証明書代わりとして出ました」
「貴女の知り合いで異邦人の女の子という事は…そう、貴女が噂の聖女なのね?」
「アシュリーさん!?」
私は慌ててアシュリーさんの方を向くが、アシュリーさんは依然とニコニコとしたままだった。
「お嬢様? また何をやらかしたのですか?」
「何もやらかしてないよ!?」
「私もまさか噂の聖女と会えるとは思わなかったわね」
「ですから違いますよ!?」
「嬢ちゃんの行い考えると聖女って言うより粛正者とか暗部って感じじゃねえのか?」
「それどういう意味!?」
「ふふっ」
私たちのやり取りが面白かったのか、姫様は声を出して笑う。
「今日は良い日ね。全く面白くもないアワリティアの顔を見るだけより断然有意義だわ」
「へいへい、面白くなくて悪かったな」
「えぇ、貴方が異邦人じゃなかったらどんな手を使ってでも抹殺してるところよ? 私の侍女に手を出して無事でいられる幸運を喜びなさい。…まぁ同意だったから多少は情状酌量の余地はあるけどね」
その言葉を聞いて案内をしてくれた侍女さんは顔を赤らめる。
「んで結局あの目瞑った美人は誰なんだ? 今日まで見た事ねえぞ?」
「当たり前じゃない。貴女が変な行動したら即座に殺すように潜んでもらっていたんだから」
「うへぇ…」
って、あれ?
てことはアシュリーさんって今でもそういう仕事してるって事なの?
「アリスさん。一つ誤解を解くと、あくまでこういうのは姫様に依頼された時だけですので、基本的には教会にいますよ」
「じゃあエルザさんたちは?」
「エルザは…その…静かにできませんから…」
「あぁ…」
隠密活動とか無理そうだからなぁ…。
囮捜査とかならできそうだけど…。
「とまぁ普段は孤児院でシスターをしているアシュリーと言います。アワリティアさんもあまりおいたはしないようにしてくださいね?」
「おっおぅ…」
「ついでに言うと元暗部の隊長よ。今は引退してるから私の命以外ではそういう活動はしていないわ」
「いやまぁそういうのは何となくわかったけどな」
「それにしてもアシュリー、そこの聖女のおかげでようやく支援金の予算を組めそうよ。ちゃんと感謝しておきなさいね」
「本当ですか!? アリスさん! ありがとうございます!」
「えーっと…もしかして首狩り教の寄付で補強工事ができたから…ですか…?」
「はいっ!」
そういえば100万G寄付したとか言ってたもんなぁ…。
「…なんだよ俺の紹介なくてもコネあんじゃねえか」
「お嬢様の人脈チートを甘く見てはいけません。予想外のところとの繋がりがありますから」
「例えば?」
「少なくとも迷宮イベの様子から十二星座のタウロスとはあるようですし、つい最近の防衛イベでは茨木童子と繋がりを持ったようですしね」
「全部ボス級じゃねえか!」
「次はどこ関連と繋がりができそうですかね?」
えーっと…ボス繋がりで言えばレヴィのお父さんもいるんだけど…。
まぁあれは言えないからいっか。
てか絶対に言えない!
「あら、そんなに繋がりがあるの? どう? 私に仕えない?」
「えーっと…それはちょっと…」
「あら残念ね」
「姫様、アリスさんがいくら可愛くて聖女ですからって独り占めはいけませんよ」
「あら? 可愛い子を愛でてはいけないかしら?」
「いけなくはないですが、そこの侍女がアワリティアさんに取られた時、憤慨して私どころかエルザたちまで呼び出そうとしたのは誰ですか? いい加減その性格を治してください」
「…私の侍女を奪ったからよ」
「だからと言って元暗部まで呼ぶ人がいますか? ようやくあの子たちも多少は落ちついたというのに…」
…これ単に姫様がアワリティアに嫉妬しただけって事?
「何というか…あほくさ、って言いたいですね。まぁアワリティアが全面的に悪いんですけど」
「俺は女の喜びを教えてあげただけだぞ? 悪くねえだろ」
「それで暗部に狙われる羽目になってるんですから反省してください」
…なんだかなー…。
私が呆れていると、姫様が咳ばらいをしてこちらを向く。
「とっとにかく、今回アワリティアを呼んだのはいつも通り働いてもらうためよ」
「んだ? また何かの素材取ってこいだのモンスター倒してこいだのってやつか?」
「いいえ、違うわ。今回は調査をお願いしたいの」
「調査? 何を調査すりゃいいんだ?」
「調査対象は…天使よ」
「…は?」
えーっと…今天使って言った?
「いや、それなら何で俺が行くんだ? 俺とか天使と無縁だろ」
「悪で欲の塊である貴方が行けば攻撃されるでしょ? むしろ積極的に狙ってくるかもしれないし、ちょうどいい餌と思ってね」
「おい」
「普通の人じゃ善の塊である天使は反応しないでしょうし、それに今回善の塊である聖女もいる事だからド悪党の貴方と一緒にいれば何かしらのアクションは起きるでしょ? ってことでよろしく頼むわね。勿論貴方には報酬は出さないから♪ 聖女には出すけど♪」
「ふっざけんな! 誰がそんな「侍女の件見逃してやったんですからうだうだ言わないで行きなさいよ」…っち…」
軽く本気トーンの姫様の声は聞かなかったことにしよう。
それにしても天使かぁ…。
…レヴィ大丈夫かな…。
アワリティア編スタート!(唐突




