百鬼夜行⑩
「凄い静か」
「そうだね」
嵐の前の静けさといったところだろうか。
既に三日目の朝を過ぎてそろそろ十二時に差し掛かる頃だ。
結局夜襲はどの方角にも敵は来なかったため、ルカの予想通りといったところだろう。
てかルカの予想当たりすぎて怖い。
戦略シミュレーションゲームはよくやってたって言うけど、ルカって実は軍師タイプなのだろうか?
そして十二時になった瞬間、街の物見から一斉に全方角に信号弾が放たれた。
「さて、ここからが本番だね」
「問題はどのボス級が来るか」
こっち鬼門だからなぁ…。
どう考えてもやばい系のボス来るでしょ…。
「お嬢様、どうやら南東には天狗、北西には鬼の他に蜘蛛のような敵が見えるようです。東西南北には今まで通り鬼の集団で、南西とこちら側についてはいまだ不明との事です」
「不明?」
トアさんの報告を聞いて首を傾げる。
不明ってどういうことだろ?
信号弾が上がったって事は敵が来てるんだよね?
「ルカ、悪いけど」
「んっわかってる。見て来る」
「気を付けてね」
ルカが偵察に行ってくれている間に、私たちは支度を済ませる。
やる事はこれまでと同じだが、ボス級の敵には【切断】スキルは効かない。
だからそういった敵を見つけたら報告するようにと念を押しておく。
周辺の音が騒がしくなってきた。
どうやら接敵したようだ。
にも関わらず、こちらにも敵が来ないでルカも偵察から戻ってこない。
ルカのステータスに異常はないから敵に捕まってるとか攻撃を受けてるとかではないはずだけど…。
「敵の狙いは何だろう…」
「普通に考えれば他の方角からの挟撃を狙ってるといったところでしょうか」
「でも他もそう簡単に戦力を分けられる数じゃないでしょうし、わざわざ分けるかしら?」
んー…敵の動きが読めないなぁ…。
それから二時間ほどが経過したが敵が一向に来ず、ルカも伝令にカルディアを来させるが、やっぱり敵の姿は見えないらしい。
にも関わらず他の戦線は激化しているようだ。
敵が来ていないのならばこちらも遊撃隊として動けるのだが、敵がいるという報告がある以上こちらも動けないでいる。
「もしや偽兵で私たちを動かせないようにするといった策なのでしょうか?」
「何ならあたしが偵察しようか? 少し遠くでも心読めばいるかどうかわかるし」
「それでもし本当に敵がいたらカルディアが危ないからやめよ?」
「仕方ないわね…。じゃあそろそろ主のところに戻るわ」
「うん、ルカにもよろしくね」
そう言ってカルディアはルカの元へと戻っていった。
確かにカルディアの提案は嬉しいが、さすがに一人で行かせるわけにはいかない。
でも他の人を偵察に出して人数減らされるのは私たちにとっては下策だし…。
そんなことを考えていると、ルカからメッセージが届いた。
どうやら敵が動き出したらしい。
しばらくするとルカが戻ってきて報告をしてくれる。
「敵の数は1000ぐらい。中には少し大型の鬼もいる。それ以外は特に変わったのはいない」
1000ならまぁ対処は可能だけど…。
でも何で今頃進軍を…?
他が劣勢になったという報告は聞いてないし…。
「敵の狙いはわからないけど、私たちがやる事は一つ。全員行動開始!」
そう言って私たちは各々散開した。
「いた…」
私は木の陰に隠れて敵の様子を見る。
前日のように小鬼というわけではなく、中級の鬼ぐらいが何匹かで行動していた。
中級の鬼なだけあってかなり大きい。
それが一体ずつならともかく、まとまって行動されてると少しやり辛いなぁ…。
まぁいっか。
一匹ずつ狩るだけだ。
「行くよ、アリカ」
私は必殺技を使い、攻撃を開始する。
「ふぅ…」
レヴィたちとも一緒に攻撃したおかげで、特に攻撃らしい攻撃を喰らわずに済んだ。
「ありがとね」
「ギュゥ!」
皆にお礼を言っていると、突然手を叩く音が聞こえてきた。
「いやぁ見事見事」
「誰っ!」
そこには白髪で黒を基調とした和服の上に鎧を着け、頭に鬼の象徴とも言える赤い角を二つ生やしたおじさんっぽい鬼がいた。
どう見てもボス級の鬼だよね…あれ…。
「ギュゥゥ…」
「少し昼寝してたら出遅れちまったよ。大将怒ってねえかなぁ?」
「昼寝…?」
もしかして攻めてくるのが遅かったのはこの鬼が昼寝してたから…?
「さてと、一応自己紹介しといた方がいいんかねぇ? 俺は茨木童子、この鬼の集団の副将ってところだな」
「茨木童子!?」
完全に大ボス級の敵じゃん!
ってことはやっぱりこのイベントのラスボスは酒呑童子…!
私は隙を見せないようにゆっくりと情報を打ち込んで本陣に送る。
「まぁそんな焦らんなって」
茨木童子は袖の中からキセルを取り出し、一服する。
明らかに隙だらけだが、ボス級で相手の能力がわからない以上下手に攻められない。
下手すると【怠惰】スキルみたいな範囲能力で一気にやられる場合もあり得る。
「にしても君らやるねぇ。もう俺の部下が半分ぐらいに減ってるよ」
「その割には冷静ですね…」
「まぁ鬼ってのも闘争してなんぼのところがあるからね。結局強い相手と戦えればそれでいいってのが多いし。まぁ俺はのんびり過ごせればいいけどな」
部下がやられたにも関わらず激昂する様子もなく、ただのらりくらりとしている茨木童子。
正直やり辛い…。
ただ暴力を振るう相手ならば躊躇ないが、こういった相手はどこかやり辛い…。
「俺にも子供いるんだけどさ、ちょっと君に似てるけど君より小さいんだわ」
「そうなんですか…」
「そんな子供に少し似た子と戦うなんて何て因果なもんだ。そうは思わないかい?」
「それなら退いてください。少なくても貴方たちが退けばこの戦いは終わります」
「……」
茨木童子は再び一服してから口を開く。
「それはできない。もう俺らは止まれないところまで来てしまった。ならばやる事はただ一つ。どちらかが滅びるまで戦うしかない」
「そんな事をしたら貴方の子供だって!」
「そうだね。でも仕方のない事だ。あの子も承知している」
「そんな大人が勝手に決めたことに子供まで巻き込まないで!」
私の発言に茨木童子は目を見開く。
そしてクスっと笑い声を上げる。
「何がおかしいんですか…」
「いやぁ、君みたいな人間が多かったらこんな事にはならなかったのかなって思っただけだよ。でも悲しいねぇ。そんな君を俺が倒さなきゃいけないっていうのは」
「そう簡単にはやられませんよ」
「少し話しただけだけど俺、君の事気に入ったよ」
「それはどうも…」
正直私もこの鬼を嫌いにはなれない。
どこか別の出会いをしていれば何か変わったのだろうか。
「それじゃぁ行くよ!」
「はぁぁぁぁ!」
そうして私と茨木童子は戦闘を開始した。
茨木さん…以前の吸血鬼よりもキャラ濃いのでは…(白目




