怖くないよ?
サイとリアが寝たのを確認し、私とトアさんはイベントマップへと向かう。
とは言っても、一度ログアウトして身支度を済ませてからだ。
まだ期限は十分あるし、急いては事を仕損じるとも言うしある程度気持ちを楽にしなきゃ。
再度ログインすると、トアさんは既にログインしており私を待っていた。
「待たせちゃった?」
「いえ、先程ログインしたばかりです」
「そっか。じゃあ行こっか」
「はい」
私とトアさんはイベントマップへと入り、一先ず私がいない間の現状を確認した。
どうやら今のところ大きな作業工程はなく、資材を集めて難民の保護に仮設施設の建築が主な作業となっているようだ。
「トアさんは何かやるような事ある?」
「そうですね…。なら裁縫でもして難民たちの服でも用意していましょうかね? 見たところ大人の方はともかく、子供がいつまでも汚れた服というのも嫌でしょうし、簡単なのでしたらそれほど時間も掛からず量産できると思いますし」
あれ?
服ってそんな簡単に作れる物だっけ?
こう…糸を編んでとかああいった感じで簡単なのでも時間掛かるんじゃ?
「ご安心を。私は【高速作業】という一定の作業を簡略化するスキルがありますので。まぁその分作製時の品質などが下がるデメリットはありますが、今回の場合、多少品質は下がっても数が必要な場合ですので問題ありません」
ようは手動か自動かの違いって事かな?
機械だと一定の作業とかは早いし品質も一定だけど、手作業だと一つ一つ出来は違うっていうからそういう感じかな?
「とは言っても、さすがに素材の数が足りませんね」
「なら私も手伝うよ。二人の方が早いでしょ?」
「いいのですか?」
「私も少し前まで延々と木を植えてたからね…。少しは気分転換もしないと…」
「首狩り教に言えば誰かしら【急激成長】持っててもおかしくないとは思うのですが…」
「いやぁ…さすがに持ってないと思うけどなぁ…。まぁとにかく! 気分転換気分転換!」
「お嬢様がそれでいいのでしたらいいですが…」
私はリーネさんたちから裁縫で使えそうな素材がある場所を聞いて向かう。
向かった先には綿花や麻がたくさん生えており、既に何人ものプレイヤーが収穫していた。
「ヒャッハー! 大量大量!」
「刈り! 取らずには! いられない!」
なんかテンションがおかしい気がするけど…気のせいだよね?
「恐らくですが、装備からして第四陣の方が多めですね。きっとモンスターがいないしリポップするので今のうちに素材を集めておこうという考えでしょう」
「あー…そういう…」
確かに麻とか取るとイジャードに行かないといけないからね。
あそこもモンスターがいないって言っても、刈れる量には限りがある。
その点、このイベントマップだと今現在ではリポップするから取り放題だ。
特にスキルレベルを上げたい新人たちにとっては絶好の場だろう。
生産スキルって結局上げるには数をこなさないといけないもんね。
「さて、私たちも始めよっか」
「はい。では私は綿花を集めますので、お嬢様は麻の方をお願いします」
「りょーかい」
私たちは二手に分かれて収穫を行う事にした。
私は麻が生えている方へ向かうと、私の姿に気付いたプレイヤーが急に動きを止める。
「くっ【首狩り姫】!?」
「何で裁縫素材のところに!?」
…あれ?
何で怖がられてるの?
別に今武器とか手に持ってないよね?
「えっと…この辺のやつ刈ってもいい?」
「こっこの辺のやつを狩る!? 俺たちアンタに何にもしてないぞ!?」
「えっ? いや、別に何もされてないけど…」
「おっおいっ! 誰だ【首狩り姫】に手を出したやつは!?」
「俺じゃねえぞ!」
「俺でもねえぞ!」
なんだか凄い勘違いされているような…。
ここは誤解を解かなければ…。
「いえ、別に誰も手を出してないので大丈夫ですよ?」
「じゃあ何でこの辺のやつらを狩るなんて…?」
「えっ? この辺の麻って刈っちゃダメなんですか?」
「…えっ? 麻…?」
「はい…」
先にいたプレイヤーと一緒に無言になる私。
えーっと…?
もしかして私が麻を刈るって言ったのを別の刈るって捉えてたって事かな…?
あはは、そんな馬鹿な事なんてないよね。
「…ちなみに私が何を刈ると思ってたんですか?」
そうだきっとこの辺の取られると自分たちの分が減ると思っただけなんだよね。
うん、きっとそうだ。
私は笑顔で尋ねてみる。
「えっと…それは…」
「あはははは…」
何故か彼らは私から目を反らす。
…嫌だなー怒ってないですよ?
だから早く言ってください。
「ん? 何ですか?」
「「「ごめんなさい勘弁してください!」」」
もう一度尋ねたらその場にいた人全員から一斉に凄い勢いで土下座された。
……。
私ってそんな見境なく首狩ってるように思われてるのかな…?
いいもん…別に勘違いされてたからって悲しくないもん…。
ぐすっ…悲しくなんてないんだから…。
「お嬢様、数の方はどうですか?」
私は一人小さくなって麻を刈っていると、こちらの様子を見に来たトアさんから声を掛けられた。
「んー…まだあんまり集まってないかな…あはは…」
「そう…ですか…?」
私の様子に疑問を持ったトアさんは近くにいたプレイヤーに話を聞きに行く。
そして事情を察したトアさんは、何とか私をフォローしようと励ましてくれるが、今はその励ましが心に来て辛い…。
今ですらこんな調子なのに、イベントで森に籠ったらどうなっちゃうんだろう…。
この先が不安だよ…。
首狩り教「呼ばれた気がした」




