プレイヤーイベントは恐怖とともに⑩
「さて、時間を気にしないでいいって言っても限りはあるし、早いところ仕留めないとねっ!」
「そう簡単に仕留められてたまるかよっ!」
アリスは自動回復のバフがあるせいか、かなり大胆に前に出てくる。
「ふっ!」
「ちっ!」
アリスの攻撃を受け損ねて動きを止められるのが一番危険なため、俺はそこを気を付けながら剣で受けたり避けたりする。
とはいえ、アリスの方がAGIが高いから避けすぎて見失う危険もある。
それと魔法を使われるのは何とか避けたい。
歌はともかくアリスの持ってる魔法は森だと厄介極まりない。
「グラビティフィっ!?」
「重力魔法なんて厄介なのは余計に撃たせねえよ!」
魔法は撃たせる前に接近戦するのが一番だな。
「ショーゴ随分警戒してるね」
「誰のせいでそこまで警戒しなきゃいけねえと思ってんだ!」
鍔迫り合いの中軽く文句を言ってやるが、事実アリスが相手じゃなかったらここまで警戒してねえしな。
こいつの場合、正攻法と見せかけて奇策で足元掬ってと見せかけて本当は正攻法、と言った事やるからな…。
「でもショーゴと剣だけで戦うってのもちょっと分が悪いかな?」
「あっ待てっ!」
そう言うとアリスは後ろに下がり、そのまま木の上に移動する。
「ふっふっふ。これでショーゴは私の魔法を防げない。防ぎたかったらショーゴも木の上まで登ってくるしかないのだ!」
何故仁王立ちして悪役風のセリフ…というか今はあいつ悪役か。
でもここであいつを上にいさせたまま好き勝手にさせるのは拙い。
むしろあいつの事だから俺が逃げに徹したら信号弾に似たような事してペット呼びそうな気もするしな…。
それはそれでマジで最悪な事にしかならねえ…。
仕方ねえ…ここはあいつの思惑通りにするしかねえなぁ…。
俺は木と木の間を壁キックのようにして上まで登る。
念には念をと一応こういうのを一通り練習しといてよかったわ…。
「意外に手こずらなくてびっくりした」
「一応練習はしてあんだよ」
でも木の上で戦う事は想定してねえけどな…。
「でもショーゴ、木の上で私と戦ってもいいの? 私はデザートが増えるからいいけど」
「そんなこと言っといて俺が逃げたらレヴィたち呼ぶつもりだろ?」
「んー…そんなことはなかったけど、ショーゴが木に上手く登れないところを狙おうというつもりはあった」
どっちにしろ最悪じゃねえか…。
「まっ、木の上に来た以上ショーゴに逃げ場はないけどねっ!」
アリスは自分の足元を蹴って俺のいる木の上に向かってくる。
地面の上じゃない以上、思った通りには動けないので剣を盾にして防ぐしかない。
アリスもそれをわかっているのか、一撃で離脱して四方八方から突っ込んでくる。
「くそっ!」
「あれっ? もう目が慣れてきちゃった? じゃあもっと速度上げるよ!」
「なっ!?」
するとアリスの動きが木の上から木の上を移動するのではなく、次第に空中で軌道を変更して俺の周囲を飛び回り始めた。
まさか空中を飛び回るとかそんなのまで使い始めたのか…?
「隙ありっ!」
「あっぶなっ!?」
こっちがびっくりして動きが止まったのを見て首取りに来やがってこん畜生がっ!
ってよく見たらアリスが軌道変更した場所が何か光って見えるな。
とするとあれがその種か。
全くどこまで考えてやがるんだか…。
「ふっ!」
「くっ!」
お互い何度か攻撃は掠ってるが、俺もそこまでダメージ喰らってないし、アリスもそこまで喰らってないだろう。
とはいえそろそろ時間が過ぎてもおかしくないんだが…。
実はアリスだけ少し時間が伸ばされてるとかあったりする…?
「そろそろ決めに掛かるっ!」
「させっかよっ!」
しかしアリスの様子からもう時間はないようだな。
ならここを防げば俺の勝ちだっ!
そう思ってアリスの攻撃を防いだ瞬間、足元が疎かになって足を滑らせてしまった。
「やべっ!?」
「くっ!」
急な事にアリスも驚いたのか、ワンテンポ遅れて落下していく俺を追いかける。
「すぅ…『現象―幻影の暗殺者』!」
「はぁっ!?」
アリスが何かを唱えた瞬間、俺の落下予測位置にアリスがもう一人現れ、地面を蹴って上に飛んだ。
「「どちらかが虚でどちらかが実! さぁどっちが本物かな!」」
「ふっざけんな!」
普通に考えりゃ今まで戦ってた上から迫ってくるアリスが本物なんだろうが…アリスの事だ。
実は今まで戦ってたのは有幻覚とかそういうオチかもしれねえ。
そういやアリスも【幻魔法】持ってるしな。
こういう幻覚攻撃があるかもとは頭の隅には置いてたが、まさかこのタイミングで来るとは思わねえじゃん!
「「これが私の必殺技! ルカでも見抜けなかったよ!」」
ってことはあのルカの驚き顔はこれを喰らったからか!
だがどっちかが虚ってことは、その虚を当てないと確実に首取られて即死ってことかよ!?
「くっそ!」
だがもう考えてる時間はねえ…。
どっちが虚だ…!
上か!?
下か!?
上と下のアリスの表情を見てる限り特に変なところは見えねえ。
ってことは完全に姿をコピーしてるってことだろ?
だがどっちも俺とやり合った時に付いた服の汚れが付いてるのはおかしい。
普通幻覚ってのは理想状態の自分を映し出すもんだ。
しかしその幻覚もオリジナルと同じ損傷をしているってことは…まさかっ!?
いや、だがそうなるとやっぱり上が本体って事に…。
もう一度考えろ…!
幻覚…有幻覚…ダメージの共有…有幻覚の使い方…っ!
「そういう事かっ!」
俺はあえて今手に持っているメイン武器の剣を下から飛んできたアリスの方に向かってぶん投げた。
「なっ!?」
「嘘っ!?」
どちらかの攻撃を防ぐものと思っていた二人のアリスはショーゴのまさかの行動に驚愕し、下側のアリスは投げられた剣を咄嗟に武器を持っていない左腕を盾にする。
「うあっ!?」
「っ!」
下側のアリスが剣が左腕に突き刺さった事によって怯んだおかげで俺は下からの攻撃を気にする事なくすれ違う事ができた。
そのすぐ後ろに迫っていた上側のアリスは下側のアリスを左手でキャッチするが、下から迫ってきた勢いを抑えたせいで落ちる速度が少し下がった。
その僅かなズレを利用し、俺は斬感剣を出して地面に突き刺して勢いを殺して前に前転するように着地する。
「くっ!」
「残念だったな、アリス」
「…何で…あんな動きをしたの…」
上側のアリスと落ちてきた下側のアリスが、左腕に突き刺さった剣を抜いて殺気交じりに質問してきた。
チラッと上側のアリスを見てみるが、負傷していないはずの左腕部分が汚れていた。
となると俺の予想は当たったようだな。
「別に本物が上か下かなんてどっちでもよかった。だって、どっちも本物だったんだろ?」
「「っ!?」」
「虚実とか言いつつ本当はどちらも本物とかホント詐欺だろ…。そうは思わないか? アリカ」
俺はバフの効果で既に治っているはずの左腕を今も抑えている下側のアリス―アリカに対してそう言い放った。
新技のヒントは出していた…(反らし目




