言えないような事もある
「終わったぁ…」
各講義のテストも全て終わり、私は机にぐでーっともたれかかる。
あとは長い長い夏休みだ。
大学にもよるけど、大体一ヶ月から二ヶ月ぐらいの休みがある。
私の通っている大学は大体一ヶ月半の休みだ。
これに集中講義が数日ある程度だし、そこまで大変ではないのだが、研究室に入るとあんまり関係ないというので、今年が学生最後の夏休みと思っといた方がいいだろう。
「アリサ、お疲れ様~」
「鈴もお疲れ様ー」
って、あれ? 正悟がいない。
「正悟ならあそこで真っ白になってるわ~」
鈴の指差した方を見ると、椅子にもたれ掛かって天井を見上げたまま呆然としている姿の正悟がいた。
「一夜漬けって言ってたし、ギリギリじゃないかしらねぇ~」
「追試は嫌だもんねぇ…」
まぁ単位落とす方が嫌だけどね。
「正悟」
「んおぅ…アリサか…」
「試験も終わったし少し寝る? ちょうど昼だしご飯食べてから帰ろ」
「あぁそうする…」
もう完全に気力を使い果たしたのか、返事も淡泊なもので私と鈴の二人で引っ張る形でテラスに移動する。
「ぐぅ…」
「完全に寝落ちたわね~」
「だから空いた時間に復習しとけって言ってたのに」
「さて、じゃあ私がご飯買ってくるわね~。アリサはいつものパンでいいかしら~?」
「うんー、お願いね鈴ー」
鈴は軽く手を振ってお昼ご飯を買いに行った。
にしても…。
「……」
ツンツンほっぺを押しても全く反応しない。
んー…これ何時に起きるかなぁ…。
最悪二人で引っ張って連れて帰るかぁ…。
しばらくするとお昼ご飯を両手に持って戻ってきた。
「結構早かったねー」
「試験終わりだし、一目散に帰ってる人もいるせいか結構空いてたわ~」
そう言うと鈴は私に買ってきたパンを渡して席に座る。
「いつもは学食だけどたまにはこういうのもいいわね~」
「でひょー」
食堂のおばちゃんの焼いたパンは美味しいのだ。
「それで正悟の頬っぺた突いて何してるの~?」
「どんぐらいの熟睡度か調べてた。判定は爆睡」
「あらあら~…」
「だからどう連れて帰ろうかなって思ってた」
「そうなると二人で引っ張って帰る事になりそうねぇ~」
別にそれは構わないのだが、寝ぼけてでも歩いてくれるのと完全に引っ張って歩くのでは必要な力も変わってくる。
いくら二人掛かりとはいえ、大の男を女二人で引っ張るのはなんとも骨が折れる。
NWOだったらSTR上げてるから正悟一人ぐらい軽々持てるけど、ここは現実なので流石にそれは無理である。
最悪一旦起こして引っ張って帰ったほうがいいかもね。
「そういえばアリサはプレイヤーイベントの出品アイテムって集まってるの?」
突然鈴がNWOの事を聞いてきたので少し驚いたが、鈴も正悟のこの様子からしばらくは暇なので何か話すことでも考えていたのだろう。
「うん、この前調味料の調達はできるようになったからそれ出すつもりだよ」
「調味料ね~…。私たち戦闘職にはあんまり関わりない物だけど、生産職からしたら必需品だものねぇ」
「鈴たちは何か出すの?」
「私たちは基本的には倒したモンスターやボスモンスターの素材とかね。依頼を受けて強いモンスターがいるところの採取採掘とかで一緒に行ったりするけど、私たちは採取系のスキルは取ってないからどうしてもね。SPの余裕はあるにはあるけど、今後何が必要になってくるかわからないし使える分の余裕は少ないのよ」
となるとリーネさんの言った通りで、私のように採取も戦闘もできるプレイヤーってのはあんまりいないのか。
だからリーネさんがあんな風に言っていたわけだ。
「そういえばEXダンジョンの事は知ってるかしら~?」
「あーうん…リーネさんも言ってた…」
「あれ一体誰が出したのかって話題に上がってるのよね~。EXなんて付くからには普通のダンジョンとはレベルが違うだろうし、海底神殿って言うからには海関連に強いプレイヤーの線ってあるけど、その有名どころは否定してるし嘘をついている様子も見えないのよね~」
「へー…そうなんだ…」
ごめん鈴…その出した張本人は目の前なの…。
でも言ったらレヴィの事もばれちゃうから言えないの…。
一応まだレヴィ海蛇兼水龍もどきで通ってるから、正体がリヴァイアサンなんてバレたら…ガクブル…。
あっ、ペットと言えば…。
「そういえば鈴、ニルスはどう?」
「言われてみればアリサがニルスと会ったのって古都と王都の途中のレイド戦の時だけだったわね。あの時は顔を見せるために出したけど、あの子結構人見知りっぽくてあんまり人前だと出たくないらしいのよ~。それでもギルド内では慣れさせるために出してはいるんだけど、どうしてもそれ以外の人にはね~…」
「ペットも色々な性格な子がいるからそういうのは仕方ないし、無理させる事でもないもんね」
レヴィやネウラのように社交的な子やミラのような丁寧なお嬢様っぽい子、それにフェイトのようなツンデレっぽい子といった具合に色んな性格のペットがいるんだし、ニルスのように人見知りなペットがいてもおかしくはないもんね。
「ごめんなさいね、ちゃんと顔見せられるようにさせておくから」
「ううん、気にしないでいいよ。それでもう幼獣からは成長したの?」
「えぇ、ニルス自体が戦闘タイプだったのもあって意外に早く成体になったわ。ちゃんと背中にも乗れるようになったのよ~」
「おー凄い」
私なんてミラに持ち上げてもらって飛ぶからなぁ…。
いやあれは飛んでるとは言わないか…。
「ペットと言えばアリサ」
「ん?」
「なんかペットが4匹になったっていう噂があるんだけど…ホント?」
「ぶっごほっごほっ!」
あまりに急な質問だったため、ついむせてしまった。
鈴も私のむせ具合に驚いて背中を擦ってくれている。
「そんな驚く事だったの?」
「いやぁ…まぁ…」
少なくてもミラの事はバレているとは思っていたけど、まさかフェイトの事まで知られているとは思わなくてつい…。
「それでどうなの?」
「んー…まぁ一応その噂通りかなって…」
「全く…どこでそんな二匹も追加で手に入れたのかしら…」
「あはは…」
ミラはともかくフェイトの入手方法なんて言えるわけがない…!
死者を生き返らせて土地神にしたなんて、レヴィがリヴァイアサンだったって言うぐらいにトップシークレットだ。
ルカと海花についてはもう見られてしまったし、情報が全くなかった時だったから言っちゃったけど、割とフェイトの正体が迂闊に言えないものってわかっちゃったからにはあんまり言いふらせないし…。
「じゃあ私がニルスをアリサにちゃんと会わせられるぐらいにできたら、アリサの方も紹介してよね」
「うっうん…」
ログインしたらフェイトの設定的なのを話し合って決めておかないと…。
ボロが出ないように…。
そんなこんなでNWOの話をしていると結構な時間が過ぎており、正悟も起きたので私たちはまだ少し寝ぼけている正悟を引っ張って家へと帰っていった。




