褒めるな危険
フェイトを慰めた後、作業をしているリアの元に行く。
先程フェイトとの事があったにも関わらず、リアは既に集中して作業を行っていた。
一応作業部屋に入る前に扉をノックしたが、まったく気づかないので一段落着くまで待つことにする。
「…ふぅ…」
「お疲れ様、リア」
「えっ!? ご主人様!? いつからここに!?」
「ついさっきだよ」
ずっと待っていたと言うとリアは気にしそうだからね。
「調子はどう?」
「えっと…まだ新薬はできてなくて…。でもあと少しで何か掴めそうです!」
「そっか。それでどんなところで躓いてる感じなの?」
「1つの素材で作れる弱めの物はナンサおばあちゃんから教わっていたので多少は大丈夫なのですが、複数の素材を合わせるとなるとどうしても…」
確かに複数の素材を使うとなると調合の割合とかも数%で効果も変わるもんね。
しかもリアが作ろうとしているのは全く新しい調合物だ。
ならば単一の物を作るより余計に時間が掛かるものだ。
「一応オレンジポーションとかいうのは作れましたが、まだまだ効果が低くて…」
…ん…?
「今なんて?」
「えっ? 効果が低くて…」
「その前!」
「おっオレンジポーションができて…」
「オレンジポーション!?」
えっと確か今あるポーションって普通のとレッドだけだったよね…?
もしかして…リア…新しいポーションを作った…?
「えっと…リア何か変な事しちゃいました…?」
「うっううん! そんなことないよ!」
内心驚いたけど、実は既に新薬作ってたなんて言ったらどんな反応をするのかが怖い…。
でもここは新薬を作った事を褒めてあげるべきだよね…?
「それでね…リア…」
「はい…?」
「その…リアが作ったオレンジポーションって、実は私が知っている中では新しいポーションなんだよね…」
「えっ?」
「だからリアは私にお願いした通り新薬を作った事になるんだよね…」
「えぇぇぇぇー!?」
本人が知らぬというのもあるが、実際に新薬ができてしまったのもあったため一旦休憩を取る事にした。
とはいえどうしたものか…。
確かに私との約束では新薬を作るに当たって注意するぐらいしか言ってなかったため、新薬の数については特に取り決めはなかった。
だからここでリアの新薬作りを止める事はできない。
そう、できないのだが…。
「……」
リアはこちらの様子を伺うようにちびちびと飲み物を飲んでいる。
恐らくだが、リアの中では新薬ができたら終わりという風に考えているのかもしれない。
そのせいもあって少しそわそわしている気がする。
別に怒っているわけではないのだからそんなに縮こまらなくていいのになぁ…。
「ねぇリア」
「はいっ!」
「ともかく新薬の開発おめでと」
「あ…ありがとう…ございます…」
「それでね、これからの事なんだけど…」
これからの事と言うと、リアは再び緊張して背筋を伸ばして少し震えてしまった。
これは早いところ誤解を解いた方がいいな…。
「これからも新薬の開発、お願いできる?」
「…え…?」
「だけどその前にオレンジポーションの作り方のレポート…製法を纏めてほしいかな。…って、リアどうかした?」
「続けて…いいんですか…?」
「うん、別に新薬の数の取り決めはしてなかったし、これからもちゃんと注意して作ってくれれば問題ないよ。だからまずは作った新薬から…ってリアっ!?」
突然リアが席を立って私に飛びついてきた。
ギリギリ椅子から落ちずにリアを受け止めれたが、危うくリアと一緒に床に倒れるところだった…。
「ありがとうございますご主人様っ!」
「こっちがありがとだよリア。新しいポーションを作ってくれたんだからね」
「リアっご主人様のお役に立てましたか?」
「うん、とってもね」
「えへへっ!」
さっきまでの落ち込み気味の表情から一変し、とても満ち足りた笑顔のリア。
「なら休んでる暇なんてありません! さっそく製法まとめてきます!」
そう言うとリアは私から離れて再び作業場に戻っていった。
残された私は、呆然としながらリアの去った跡を見ているしかできなかった。
「ま…まぁリアが喜んだのならいいのかな…?」
これでリアのモチベーションが上がったのならいいけど…。
そういえばどこかのアニメか漫画で、上官が手際を褒めたらその道のエキスパートになった軍人の話があったなぁ…。
でもあれって確か爆弾魔だったような…?
しかもやり口が相手の爆弾を使ってそのまんまにやり返すえげつないタイプの…。
リアもそっち系統だったら褒めるな危険という感じになっちゃうのかな…?
いやいや、新薬作りなだけだからそんな危険な物は作らない…はず…。
作らない…よね…?
突然『この薬はとーっても痛いお薬で、こっちの薬と合わせることでもーっと痛くなるんですよ? えへへー』とか言い出さないよね…?
そうならないようにちゃんと育てないと…。
「…ご主人様、何一人でぶつぶつ呟いてんだ?」
「サイっ!? いつからそこに!?」
「いや、リアがすげえご機嫌で作業場に行ったあとぐらいに来たけど…何かあったのか?」
あれ?
サイってリアから何も聞いてない感じなのかな?
私はサイにリアが新薬を作った事を説明してあげる。
「へぇ、すげえな。いっつも新薬作ってる時は悩んでたからどうしようか考えてたんだよな。どうやら心配しなくてよかった感じだな」
「でも別な意味で心配事ができたよ…」
「は…?」
「…ねぇサイ…。リアって褒められると更に凄い事をしたりとかってあった…?」
「急に何の話だよ。んでリアが褒められると何か…? んー…」
この考えようだと私の杞憂っぽいね。
よかった。
私は胸を撫でおろすと同時に、サイが「あっ」と何かを思い出したような声を出す。
「そういやまだ母さんたちが生きてた頃に、村の家畜の世話で褒められた事があってな。それから嬉しくなっちまって村中の家畜の世話をしたんだよ。そしたら家畜たち、リアの言う事だけはちゃんと聞くようになっちまってよ。あれにはホント驚いたぜ」
「……」
えっ?
ちょっと待って。
褒められて嬉しくなったから家畜の世話をしてたら、そのまま指示まで聞かせれるようにできた…?
いやいや、きっと偶然だ。
きっと大人たちがこっそり指示を与えていたんだ、そうだきっとそうに違いない。
まさか子供のリアが家畜全体を管理しているわけが…。
「まぁリアは褒められるとその事に対してとことんやるタイプだしな。ご主人様に褒められた日にはもうノンストップになんじゃねぇかな?」
サイはハハハと笑っているが、一方私は少し冷や汗をかいている。
もしかして私は手を出してはいけない事をしてしまったのではないだろうか、と。
願わくば、リアが危ない薬を作りませんように…。
サブタイトルに意味はない。ないったらない!




