穢れし奇魂⑦
「えっと…とりあえず改めて自己紹介していいかな? 私はアリス。君の名前は?」
「私はフェイト…。でもなんで…」
計らずとも死者蘇生したということなのだろうか…?
でもそんなことができるならあの詠唱はかなりやばいものになると思うんだけど…。
「んー…それは私も…ってミラ? 何してるの?」
「いえ…ちょっと匂いが…」
「匂い…?」
鼻がいいミラは何かに気づいたのだろうか?
「ちょっと…血飲ませてくれますか?」
「え…? まぁいいけど…」
フェイトはすっと腕をミラの方へと伸ばす。
ミラは伸ばされた腕を優しく掴んで指先を少し噛む。
一瞬フェイトが痛がったが、ミラはすぐ口を離して口に含んだ血を確かめるように味わう。
「これは…」
「何かわかったの?」
「少なくとも彼女は人間ではありません。ですが、アンデッドというわけでもありません…。これは一体…」
人間でもゾンビでもないけど肉体がある…?
他に肉体があって人間っぽいのってなると…精霊…?
でもそうなるとエルフの里の門番のシルフみたいは見えなかったけど…。
ということは受肉している精霊みたいなもの…?
ダメだよくわからない…。
そんな頭を抱えている私の裾をネウラがクイクイっと引っ張る。
「お母さん、あの子からこの土地の生命力と土地神の力だったものを感じるけど、それと何か関係あるかな?」
「でもあの子がいた場所には白骨死体ぐらいしかなかったけど…」
「キュゥ!」
「レヴィお兄ちゃん何か気づいたの?」
「キュゥ! キュゥゥ! キュゥキュゥ!」
「うんうん。えっと…レヴィお兄ちゃんが言うには、あの子の死体の上にガラス玉みたいなのお母さん置いたでしょ? もしかしたらそれに反応したのかもだって」
えっ?
あのガラス玉に?
でもあれには特に何も変わったところはなかったような…。
仮にそれに反応したところであのガラス玉だけに力が宿ったところで素体がないんじゃ形にはならな…。
ん…?
素体…?
そういえば黒花も人形を作る時は核が必要とか言ってたような…。
「白骨死体…ガラス玉…力が宿る…素体…土地の生命力…土地神の力…ってまさか…!?」
そう、機械人形やゴーレムなどを作るのに必要な素材は大きく分けて二つ。
コアとなる核と身体だ。
つまりフェイトの場合、アリスの歌の効果によって核となるガラス玉に力が宿り、それを置いていた白骨死体が身体となった。
だが身体は骨ではなく、土地の生命力と土地神の力の影響により一種のアストラル体と変化した。
なおフェイトがアストラル体―精霊となったのはこの場でアリスが土地神を倒してすぐに行ったためである。
余談だが、元々ガラス玉にはフェイトの意識は残っていた。
本来ならばそのガラス玉を核にして機械人形などといった形にすることで、フェイトを疑似的に蘇生することは可能であった。
「えっと…とりあえず君は…精霊ってことでいいのかな…?」
「そう…なの…?」
「たぶん…」
「でももしそうだとしたら…私が…精霊様…」
フェイトは少し顔を赤らめて嬉しそうにする。
神様を信じてたってことはそういった精霊にも信仰しているということだろう。
その信仰対象である精霊に自分がなれたのだ、喜びもするだろう。
まぁ経緯はかなり悲劇だったけど…。
「じゃあこの土地は君に任せれば大丈夫かな?」
「あっ…」
「どうしたの?」
「その…私…。っ…貴女についていきたいんだけど…ダメ…?」
最後の方が消え入りそうなぐらい小さくなったが、突然の提案に少しフリーズする。
「えっと…この土地に残らなくていいの…?」
「だって私色々悪い事しちゃったし…。だから罪滅ぼしを…。それに私みたいな事に合う子を助けたいって思ったんだけど…」
「気持ちはわかったけど、君がいなくなったらこの土地荒れちゃうんじゃないかな?」
「それについてなんだけど、神様の力の一部がこの土地に宿ったらしいから私がいなくても大丈夫…だと思う…。なんだったらたまにこの村に寄ってほしいなーなんて…」
「寄るのは簡単だからいいけど…本当にいいの…?」
「しつこい女は嫌われるわよ! 私がいいって言ったからいいの!」
この子こんなに強気な女の子だったんだ…。
いや、一度死んで浄化されたとかあって吹っ切れたとかなのかな…?
「だから! …その…よろしく…」
「…うん。よろしくね、フェイト」
フェイトがすっと手を伸ばしてきて握手を求めてきたので、その手をぎゅっと握る。
するとフェイトの身体が突然眩しく光った。
あれ…?
これってまさか…。
「やっぱり…」
案の定私の手の上には綺麗なガラス玉のような物が収まっていた。
恐る恐るそのガラス玉を【鑑定】してみると…。
フェイトの召喚石【非売品】
契約者:アリス
このアイテムは売ることが出来ず、また奪われる事も壊れる事もない。
……どうしよう…。
気が付いたらペットが四人になっていた。
何を言っているかわからないと思うけど私も何が起こってるのかまったくわからない。
何をどうしたらペットが四人になるのかな?
ととととりあえずフェイトを出さないと!
「えっと…フェイト出てきて!」
「んっ…」
フェイトは先ほどまでと同様に茶色の革の衣服を纏って現れた。
「フェイト、気分はどう?」
「何ともないわ」
「そう…よかった…」
「ふんっ…全く…」
「どうかした?」
「なっなんでもないっ!」
フェイトはふんっとそっぽを向く。
なんかツンツンしているような…。
最初に会った時は無邪気な感じだったけどあれは作ってたのかな?
となると、今のこれが素ってこと?
んー…気難しい…。
そう思ってると、フェイトがそっぽを向きながら照れくさそうに話しかけてきた。
「貴女…私のために悲しんでくれたんだよね…。敵だった私に対して悲しむなんてお人よしにも程があるわよ…」
「あはは…よく言われるなー…」
「でも…そんな貴女だからついていきたいと思ったの…。だから…」
彼女はくるりと振り返って飛び切りの笑顔を振りまく。
「ありがと、お姉ちゃん」
気が付けば私はフェイトを抱き締めていた。
何なのこの子。
リアやサイとは違うこの可愛さ。
しかもお姉ちゃんって呼ばれるなんて新鮮すぎるんだけど。
「ちょっちょっとぉ! 離してよっ!」
おっと、つい興奮してしまった。
私はフェイトを離すと、フェイトはまたツンツンした態度に戻ってしまった。
これがツンデレ…!
海花とはまた違う感じのツンデレだ。
「じゃあ古都に戻るけど、フェイトやり残した事はない?」
「うん。簡単にだけど後の事は任せたし大丈夫」
「ならこれで依頼は達成かな。ペカドさんにも報告しないと」
「ペカド…? 何でその名前が…」
私がペカドさんの名前を出すと、フェイトは驚いたような表情をする。
「そっか…フェイトはペカドさんが生きていた事知らなかったんだね…」
「だって…ペカドは…あの夜に死んだはずじゃ…」
「ペカドさんたち一家はその事件当日逃げ延びたんだよ。たまたま荷造りをしてたのが幸いしてね」
「…そっか…ペカド…生きてたんだ…。よかった…」
ペカドが生きている事を聞いて嬉しそうに胸を抑えるフェイト。
それはまるで愛しい恋人を想うようだった。
「でも…ペカド…私を見たら怖がるんじゃないかな…」
「…本当に怖がってるなら、この村の捜査なんて依頼しなかったと思うよ」
「でもあんな事があったら忘れたいはずなのに…」
「私も何で依頼を出したのかがずっとわからなかった。最初はフェイトの事と村に起こった事を隠しているのが怖くなって何とかしてほしいから依頼を頼んだのかなって思ってた。でも今のフェイトの事見てたら何となく依頼した理由が分かった気がする」
「えっ…? それは何…?」
「ふふっ、なんだろうね」
「おっ教えなさいよー!」
「じゃあペカドさんに直接聞いてみる?」
「うっ…。それは卑怯よ…。でもペカド鈍感だから私があれをあげた意味なんてわかんないだろうし…。そもそもペカド自身が私の事を…なんてあるわけないし…一体なんなのよ、もう…」
フェイトは頬を膨らませてぷんぷんしているが、自分が気づかないだけで本当は気づいているのだろう。
でもそれを私が言うつもりはない。
古都に着く直前、フェイトは召喚石の中に戻ってしまった。
恐らく恥ずかしいのとどんな顔をして会えばいいのかわからないんだろう。
ともかく依頼の報告として、まずはペカドさんのところに向かうことにした。
「あれ? ペカドさん?」
「あぁ…貴女ですか…」
「その花は…」
「あぁこれですか…」
ペカドさんの家に向かう途中、たまたまペカドさんを見かけた。
そしてその手には黄色いバラが丁寧に七本程包まれていた。
「これからどこへ? 家の方向とは違うようですが…」
「えぇ…ちょっと少し…」
「…もしよろしければついていってもいいですか…?」
「…そうですね、構いませんよ…。依頼を受けた貴女も無関係ではないですからね…」
依頼を受けた私にも関係あること?
よくわからないが、私は大人しくついていく。
しばらく歩くとそこには墓地が広がっていた。
その墓地に入り、一つの小さな墓に手に持っていた黄色いバラをそっと置く。
「失礼ですがお墓にバラってどうなんですか?」
普通ならば菊とかカーネーションといったのが多いのに何でバラなのだろうかと思ってつい尋ねてしまった。
「これは人柱になった彼女が最後に私に渡した花なんですよ…。なのでこの花が好きだったのかなと思って供えているんです…」
「そうなんですか…」
私とペカドさんはその墓に手を合わせてお祈りをする。
「では私は家に戻ります…」
「はい。もう少しここでお祈りしたらお伺いしてもいいですか? ご依頼の件でお話したいことがありますので」
「えっ…? あっはい…。わかりました…」
ペカドさんは驚いた表情をするが、すぐに表情を戻して墓地から去っていった。
私は周りを見て誰もいないことを確認してからフェイトを呼び出した。
「んでフェイト、この黄色いバラはフェイトの好きな花なの?」
「違うわよ…。はぁ…やっぱりわかってなかった…。まぁ期待はしてなかったけどね…」
「期待…?」
「なんでもないわ。…それよりお姉ちゃん…一つお願いしたいことがあるんだけど…」
「ん…?」
「あぁ…来ましたか…」
「失礼します」
私はペカドさんの家をノックする。
するとペカドさんが私の顔を確認するとドアを開けて中に案内してくれる。
「どうぞ…」
「ありがとうございます」
「それで…お話というのは…」
「はい。ではお話します」
私は椅子に座って廃村で起こった出来事を全て話した。
「そうですか…土地神様が…」
「はい。もう穢れ神となってしまった以上どうすることもできなくて…」
「いえ…他の街に被害が出なくてよかったです…。それに彼女ももう苦しまずに済みます…」
「そうですね…」
フェイトからしたら勝手に成仏させるなって怒ってそうだけどね…。
「それで彼女から貴方に一つ言伝があります。お聞きになりますか?」
「彼女から…?」
「では…『ペカド。貴方の事だから私が最後に渡した黄色い7本のバラを律儀にお供えしてるんでしょうね。でもそんな何度もお供えしてたら花も可哀想だわ。だからあと一回でお花をお供えするのは終わりにして。それで最後の一回は…赤いバラを五本でお供えして。いい! 絶対本数と色を間違えないでね!』 との事です」
「はっはぁ…。…でも彼女らしいです…」
「本当に仲が良かったんですね」
「まぁ彼女が私にちょっかい掛けてばっかりでしたけどね…ははは…」
しばらくペカドさんと雑談をして、私もそろそろログアウトして寝る時間が近づいているためこの辺でお暇させていただくことにした。
「ではご依頼の件、ギルドの方でもご報告させていただきます」
「はい。…本当にありがとうございました…」
ペカドさんは私に深く頭を下げてお礼を言う。
その後ギルドの方に顔を出し、依頼の件で少し詳しく職員と話し、確認の意味で翌日廃村を他の者が見て確認するということで話は終わった。
やることが終わった私はエアストの家に戻ってサイとリアにフェイトの事軽く紹介してからログアウトした。
そして寝る前にフェイトが渡した黄色いバラと赤いバラの意味を調べてみようと思って調べてみた。
その意味を知った私はくすっと少し笑ったが、すぐさま笑うのをやめてその二つの花言葉をじっと見ていた。
死ぬ間際に渡した黄色いバラ。
フェイトはペカドさんに笑っていてほしくてこれを渡したのだろうか。
そして死後渡すように指示した赤いバラ。
やはりフェイトはペカドさんの事を…いや、これは無粋だね…。
私はそっと画面を閉じて布団に入る。
画面にはこう映っていた。
七本の黄色いバラの花言葉:ひそかな愛、笑って別れましょう
五本の赤いバラの花言葉:あなたに出会えて本当に良かった、死ぬほど恋い焦がれています
と。
どわっしゃい! 書き上げたぞい!
これにて穢れし奇魂編はお終いです!




