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Nostalgia world online  作者: naginagi
第四章
175/370

吸血鬼イベント⑫

 かれこれもう一時間は経ったのではないだろうか。

【水術】スキルのおかげで十分ちょいは潜れるようになっているし、息継ぎの回数は減ってはいるがこちらは常に移動しっぱなしだ。

 いざという時のために隙あらば息継ぎをする必要は出てくる。


 吸血鬼も水中から逃れようと暴れたりもするので拘束から逃げられたりもされる。

 その都度別の方法を使って水中に引きずり込むのだが、さすがに一時間も続けていたらこちらの手札もなくなってくる。

 一度やった方法をしようとすると感づかれて避けられるんだもん。

【重力魔法】で動き鈍らせて捕まえたり、【霧魔法】で視界奪って捕まえたりと色々工夫しているのだよ、こちらも。


 とはいえこちらは一撃離脱の攻撃で一度のダメージは微々たるものだけど、何度もやっているおかげで吸血鬼のHPも半分以上減っている。

 てっきりレイドボス扱いと思って冷や汗かいたけど、HPの減少具合から最初の時に銀翼と討伐した狼のボスみたいな扱いっぽいね。

 まぁ強さは全然違うけど…。

 本来なら真っ向勝負で勝つ、というコンセプトなんだろうけど、私の場合は奇策で足元を掬いながら戦うって方法しか取れないから…。

 ショーゴとか団長さんとかなら平地だったら関係ないんだろうけど、私の場合は森がメインだからね。

 まぁないものねだりしても仕方ないんだけどね。


 って、そんなこと考えてる間に吸血鬼が拘束を解いて水中から逃げてしまった。

 もう水中での他の手が浮かばないし…。

 仕方ない、上で戦うしかないか。

 私は水中から出て置石の上に上る。


「小娘が! うっとおしい事ばかりしおって!」

「こっちとしてはあれだけやってまだ死なないっていう方が驚きなんだけどね」

「純血種たる私はあのような事では死なん! だが陸に出てきたということはもう手札は尽きたようだな」

「さぁどうだろうね?」


 私は打刀を構えて前に出る。

 吸血鬼も置石はそこまで広くないため、私の攻撃を正面から防ぐ。

 人一人が歩けるぐらいの広さなため、一つの置石に二人は乗ることができない。

 だからこういう場では小柄な私の方が戦いやすい!


 吸血鬼も下手に動いて水中に落ちるとまた捕まりかねないので正面から受け止めるしかない。

 引きずり込まれる、逃げ場がない、この二つのプレッシャーを与える事で相手の動きを少しでも鈍くする。

 そうしていなかったら私は既に死に戻りしていただろう。

 おかげで城の中にいた時よりも攻撃が掠ったり当たるようになってHPを削れるようになった。

 まぁこちらも避けきれないことをもあるから、たまに掠ってHPも減ってきてるんだけどね。

 とはいえもう残りは二割近くになった。

 でもここで集中力を切らしたら殺られる。

 だからこそ集中しないといけない。


「ふんっ!」


 吸血鬼も焦りからか攻撃が少し不用心になってきた。

 まぁ血で魔法を使おうとしたらその隙に水中に引きずり込まれるから肉弾戦しかできないようにしたのもあるんだけどね。

 私は無防備に伸ばしてきた手を掴んで全体重を掛けて巴投げをする。

 STRは劣っているようだけど、全体重掛ければ人一人ぐらい投げられる!


「何ぃっ!?」

「はぁぁぁぁぁ!」


 少し後方に投げ飛ばした吸血鬼を追撃するため、すぐさま起き上がって吸血鬼の上を取って打刀を突き下ろす。


「舐めるなぁぁぁ!」

「っ!」


 吸血鬼は刀を両手で刃を挟んで白羽取りの形で止めている。

 私も上からなので力は掛かるが、STRが劣っている分拮抗してしまう。


 ガチガチと音が小さく鳴り響きながらもこの均衡は続く。

 一分か、それとも十分か、どれぐらい時間が経ったかわからないが、少しずつ刃が吸血鬼の身体へと近づいていく。


「ぐっ!」

「がぁぁぁぁ!」


 あと少し! あと少しで!

 私は気を緩めることなく力を入れ続ける。

 その甲斐もあってようやく吸血鬼の身体に刃が突き刺さろうとしていた。


「こんのぉ小娘がぁぁぁぁぁ!」

「あがっ!?」


 刀が突き刺さった瞬間の一瞬の私の気の緩みか、防御する必要がなくなったためか吸血鬼が全力で攻撃できるようにためかはわからないが、私は吸血鬼に思いっきり蹴り飛ばされていた。


「げほっげほっ!」


 まさかの対岸まで飛ばされた私は0にこそならなかったが、HPをかなり減らされていた。

 草木がクッションになったおかげか、何とか生き残ったが、吸血鬼はそんな私の事情など気にも留めず目の前に現れた。


「小娘なかなかやってくれたな…!」


 吸血鬼は私の服の胸元を左手で掴み、無理矢理上半身を起こすように持ち上げる。


「まさか異邦人如きにここまで追いつめられるとは予想していなかったぞ」

「それは…どうも…」

「だがそれもここまでだ!」


 吸血鬼は私を殺そうと右手を上にあげる。

 だがこのままのこのこやられる私じゃない。


「『付加―【溶魔法】!』」


 私は【紅蓮魔法】より熱量の高い【溶魔法】を打刀に付加する。

 それを吸血鬼の近くの水面に突き刺す。

 その瞬間、衝撃波と水蒸気の煙が辺りにまき散らされた。


「なんだっこれは!?」


 そう、私は【溶魔法】を付加した事によって超高温となった金属を水の中に入れたのだ。

 つまり、水蒸気爆発を起こしたのだ。

 突然の水蒸気の霧と衝撃波で吸血鬼は私を離してしまう。


「―――」

「小娘めぇぇ!」


 吸血鬼が腕を横に振って霧を晴らそうとするが、何にも当たらず腕は空を切るだけだった。


「はぁぁぁぁぁ!」

「なっ!?」


 私は状況判断で一杯な状態の無防備な吸血鬼に刀を振り下ろす。

 だけど浅いっ!


「ぐっ! くそがっ!」

「がっ!?」


 吸血鬼の振り回した腕に当たり、私は再度地面に倒れる。

 そして水蒸気が霧散し、お互いの姿が確認できるようになり、倒れながら吸血鬼の方を見ると吸血鬼のHPは一割近くとなっていた。


「っち! 止めを刺そうとしたらこんな目に遭うとは…」


 吸血鬼は斬られた部分を片手で抑えて立っていた。


「このまま止めを刺してもいいが…また何かされても厄介だ。お前は後回しにして先に女王だ!」

「!? 待て…っ!?」


 吸血鬼は私に止めを刺さず、その場を去って古城にいる女王様の元へと向かっていった。



 ---------------------------------------------------------------



 くそっ!

 あの小娘にしてやられた!

 いくらアレ(・・)を用意するために力を使っていたとはいえ、異邦人の小娘一人にここまでやられるとは思わなかった。

 だが、あそこまで痛めつければ私を追っては来れないだろう。

 ムキになって大局を誤ってはいかん。

 ここは女王を先に殺してその後小娘を殺す。


 チラッと後ろを見るが、小娘が追ってきている様子はない。

 私の勝ちだ!

 置石を思い切り踏み、もう少しで城の中に入れる。と思った瞬間、目の前に何か大きな物体が現れた。

 その何かは段々と私へと近づいていき、触れた瞬間私は押し戻された。


「がっ!?」


 押し戻された私は、置石とその何かに挟まれて圧し潰される。

 なんだこれは。

 一体何が起こった。

 両手でその何かを押すが、力が拮抗しているのか中々押し返せない。

 そして次の瞬間には、シュルシュルと蔦が伸びてきて私の身体を再度拘束する。


「馬鹿なっ!?」


 あの小娘は追ってきていなかった。


「ギュゥゥゥゥゥッ!」

「なっ!?」


 拘束された後、私を抑えていた何かが正面から退いて目の前を見ると、そこには青い鱗をした龍が鳴き声を上げていた。


「水龍だと!? 何故ここに!?」


 そしてハッとする。

 まさか。

 まさかまさかまさかまさかまさか!

 あの小娘この切り札を最後まで取っておいたというのか!?

 切り札を使う前に力尽きる可能性もあったにも関わらず!

 このタイミングで私が気を緩めたこの時を狙って!?

 そのためのあの霧の爆発か!?

 あの隙に水龍に指示を出したというのか!

 だがこの程度の事などっ!?


 私が力を入れようとしたのを判断し、水龍は再度私をその巨体の尻尾で圧し潰す。

 しかも潰しすぎないギリギリの力で。


「蜥蜴風情がぁぁぁぁ!」


 まるで遊んでいるような事をしおってからに!

 舐めるのもいい加減にしろ!


「『(かれ)、其の神避(かむさ)りし伊邪那美の神は』」


 なんだ!?

 この声はまさか!


「『出雲の国と伯伎(ははき)の国との堺の比婆の山に(ほふ)りき』」

「ぐっ!?」


 私は暴れてこの拘束から逃げようとするが、蔓と水龍の尻尾による二重拘束のせいでうまく逃げることができない。


「『(ここ)伊邪那美命(イザナミノミコト)御佩(みはか)しませる十拳剣(とつかのつるぎ)を抜きて、其の子迦具土神(かぐつち)の神の頸を斬りたまひき!』」


 小娘が何かを唱え終わったのか、水龍が私を押さえつけていた尻尾をさっと退かした。

 そして次の瞬間には、蔦が私の身体を起こすように動いた。

 身体を起こされた私のすぐ目の前には、小娘が置石の上を走りながら刀を抜く瞬間の姿が映っていた。


「『火之迦具土神(ひのかぐつち)!』」


 その言葉を発すると同時に小娘が刀を鞘から抜くと、刀身が城の中で戦った時とは違い何かが燃えているような臭いを発する炎を纏っていた。



 ---------------------------------------------------------------



「『火之迦具土神!』」


 私のMPが一気に持ってかれる。

 それに私ももう手札がない。

 だから!

 これで決める!

 私は吸血鬼の直前で思い切り踏み込み、燃え盛る刀で吸血鬼を一閃して後ろに通り過ぎる。


「こっ小娘っ…がぁぁぁぁぁぁ!」


 私が刀を鞘にしまうのと同時に吸血鬼の身体が炎に包まれた。


 火之迦具土神。

 効果は不死といった特性を持つ相手に対して特攻効果を持つ。

 吸血鬼は不死、ということなので止めにこれを選んだ。


 後ろを向いて炎に包まれている吸血鬼を見る。

 残りわずかであったHPも無くなり、吸血鬼が倒れると炎も消えた。

 私のMPが切れたせいかもしれないし、敵のHPが無くなったからかもしれない。


「み…ごと…だ…」


 小さくだが、吸血鬼は言葉を発した。

 死体が残る【狩人】スキルの効果かもしれないが、吸血鬼はHPが無くなってもまだ生きていた。

 私は鞘に納めた打刀を再度抜く。


「安心…しろ…じきに…消える…」

「……」

「だが…私が…倒された…事によって…召喚した…モンスターが出て…くるぞ…」


 その宣言と同時に、通知が鳴り響いた。

 私はその通知をすぐさま確認する。



 ―INFO―

 吸血鬼が召喚した超大型モンスターが四国家の中間地点に現れました。

 プレイヤーの皆さんは協力して撃破してください。



「さぁ…どうする…?」

「貴方こそ何言ってるの?」

「なに…?」


 私は腰に手を当てて吸血鬼に対して言う。


「あまり異邦人を舐めないでね」


 チラッと掲示板を見たが、お祭り状態でどこが倒せるかとか色々と書かれていた。

 場所にもよるが、四ヶ国の中間部分だし、たぶん被害は大丈夫でしょう。


「くっ…フハハハハハ!」

「何がおかしいの?」

「いや…人間と見て…侮っていたのだなと…」

「それよりなんでこの国を狙ったの? 今の王族は事件を起こした時とは違うのに…」

「それを…話したところで…何か変わるか…?」

「それは…」

「では私なら変わりましょう」

「「女王(様)っ!?」」


 いつの間にか女王様が近づいてきていた。


「なんでここに…?」

「少し…話させていただいてもいいですか?」

「はっはい…」


 私は二人から少し離れる。

 すると小さくなったレヴィがネウラを背中に乗せて近づいてきた。


「キュゥ!」

「お母さん、大丈夫だった?」

「うん。二人ともありがとね」

「ずっと呼ばれてなかったのに急に呼ばれて何かと思ったらびっくりしたよ」

「キュゥ!」

「隙があったのあれぐらいだったからね…」


 水蒸気爆発を起こした時、二人を呼び出して指示を出しておいたのだ。

 レヴィにはお城側で足止め、ネウラは離れて【植物魔法】で足止めをね。

 私は二人の頭を撫でてあげる。

 残るは大型モンスターだけど…大型モンスターはちょっと無理かな…?

 さすがに疲れた…。

 あとは他のプレイヤーに任せよう。


「アリスさん」


 話が終わったのか、女王様は私を手招きする。


「もういいんですか?」

「えぇ。聞きたいことは全て聞けましたから…。それに…」


 それに…なんだろう?

 まぁ王族と吸血鬼との秘密なんだろう。

 下手な詮索はしない方がいいだろう。


「小娘…」


 ふと吸血鬼が私の事を呼ぶ。


「すまんがもう身体が動かん…。首に付けているアクセサリーを外してくれんか…?」

「これ…?」


 迦具土神の炎に焼かれても燃え尽きなかったアクセサリーを慎重に外して鑑定してみる。



 真祖のネックレス【装備品】

 闇属性耐性(大)

 種族:吸血鬼のみ装備可



「これを私にどうしろって?」

「ふっ…さぁな…」


 えっと、ボス報酬ってことなのかな?

 でもあの言い方的に何か違う気がするなぁ…。


「では私はもう消えるとしよう…。女王…頼んだぞ…」

「えぇ…安心しなさい。必ず約束は守りますから」

「ふっ…違えたら黄泉より戻ってくるからな…」


 吸血鬼の身体が次第に灰になっていく。

 それを私たちはじっと見つめていた。

 そして吸血鬼の全てが灰となった後には、その塊と一つだけ指輪のようなアイテムが残った。

 鑑定してみても効果も何もない、ただの一アイテムだったが、私はそれを女王様の許可を得て拾った。


「っ!?」


 終わって気が抜けたのか、私はそのまま地面に倒れこんだ。

 周りでレヴィやネウラが何か言っているようだが、何を言ってるかわからず、私は意識を失った。

あと1話だけ続きます!

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