吸血鬼イベント⑦
女王様の部屋に案内された私は、そのまま指示に従って椅子に座る。
すると私の席の前に、執事さん…と言っても結構なお年のおじいさんが入れた紅茶が置かれた。
「別に毒など盛っていないから安心して飲みなさい」
「はぁ…」
私は言われるまま、頂いた紅茶を飲む。
「っ!」
この紅茶美味しい!
やっぱり茶葉とかが違うのかな?
っと、いけないいけない。
紅茶の美味しさに騙されるところだった。
私は紅茶のカップをテーブルに置いて女王様を見つめる。
「さて、ではどこから話しましょうかね」
「えーっと…そこの執事さんは…」
「大丈夫ですよ。彼は祖母の代から我が家に仕えている者です。勿論事情は知っています。ですが気になるようなら一度出ていてもらいましょう」
女王様が紹介すると、執事さんは私に対して一礼し、部屋から出て行った。
「じゃあ、先程言ってた呪いの事について教えてください」
「いいですよ。ですが一つ訂正しておきましょう。血を喰らう鬼に魅入られたというのは、正確には呪いと言うよりはマーキングといった方がいいかもしれませんね」
「マーキング?」
「えぇ。魅入られたという事は、吸血鬼から獲物にされるということなのです。そして、その獲物の位置がわかるようになってしまうのです」
「ということはあの湖で私が襲われたのは…」
女王様はコクンと頷いた。
「貴女も吸血鬼に魅入られていた事は一目見たときからわかりました。そして一度見つけたからには、貴女の居場所を私は全て把握していたのです。ですが把握と言ってもある程度といったところですけどね」
「そういう意味で逃げられないということですか」
「えぇ。そして最も厄介なのは、血を吸われてしまうとぼんやりしていた居場所すらはっきりとわかってしまうのです。なので私はもう逃げられないのです」
ってことは、私は女王様に血を吸われたから居場所がバレバレになってしまったのか。
だから私がメアリちゃんを追いかけても迷う事なく探せたのか。
「ですが一つ気になる点があります」
「何でしょうか?」
「吸血鬼がマーキングを付けた事はわかりました。ですが、女王様の言い方だとまるで自分も吸血鬼に狙われているように感じましたが…。女王様が件の吸血鬼ではないのですか?」
「いえ、違います。私は吸血鬼からマーキングと、血を吸いたくなる欲求、そして女の子しか産めなくなる呪いを与えられたのです。また、眷族を作ることなどはできません」
与えられた?
なんか話がわからなくなってきたぞ?
「少し混乱させてしまいましたね。簡単に言えば、私たち歴代女王は吸血鬼に呪いを掛けられ、狙われているということです」
「歴代…ですか?」
「えぇ。今はメアリはまだ呪いに掛かっていません。ですが、私が襲われて殺された後、メアリに呪いが掛けられるはずです。私もそうでしたから…」
「末代まで祟るっていうのとは少し違う感じですね…」
王族を根絶やしにするつもりなら、わざわざ女の子だけにしても産ませなくすればいい。
でも吸血鬼はわざわざ子供を産ませるようにしている。
ここがよくわからない。
「少し話を戻します。吸血鬼は女王が子を産み、娘がおよそ六歳程になるまでは手を出しません。ようは見た事や聞いた事を理解できるまで待っているということです。そして理解できるようになった頃を見計らって母である女王を襲います。その女王を殺した後に、娘に牙を立てて呪いを与えます。これが吸血鬼の行動の一連の流れとなっています」
「でもそうしたら子供を産まなかったら襲われないということではないんですか?」
「いいえ。吸血鬼はタイムリミットを突き出すんです。そのタイムリミットは、女王が三十を過ぎるまでに子を産むこと、です。もしそのタイムリミットまでに達成できなかった場合は…」
女王様は一呼吸置き、その内容を話した。
「我が国の国民全てを皆殺しにする…と…」
「なっ…!?」
つまり自分を犠牲にするか、国ごと亡びるかを選べって事なのか…。
確かにそれは私たちにも助けを求めたくもなるはずだ。
「そこで、今回異邦人である貴女方が大勢来てくれました。これは最初で最後のチャンスと私は考えました。ですが、下手に多くの異邦人を護衛に付けるのも吸血鬼を刺激するだけではないかと考えてしまいました。そこで、貴女のように限られた人数を護衛に付けようと思ったのです」
「それで私が選ばれたということですか?」
「貴女は腕も立つ。そして、呪いを受けている事を理由に保護していたという言い訳もできます。あちらからしたら呪いを受けている事は一目見ればわかりますからね」
なるほど。
だからさっき女王様は私は都合がいいって言っていたのか。
「そこで改めてお願いします。どうか、力を貸していただけないでしょうか? 勝手に誘拐してこんな事を言えたものではありませんが、せめて娘のメアリだけでも守っていただけないでしょうか…」
女王様が私に頭を下げる。
それを見たメアリちゃんも私に頭を下げる。
「えっと! 頭を上げてください! 女王様たちが大変な事に巻き込まれているというのはわかりました。それにこの国が滅ぼされてしまうとあっては私たち異邦人にとっても由々しき問題です。ですから、どこまでお力になれるかわかりませんが、私でよければお手伝いさせてください」
いくら切羽詰まってるといっても、いつまでも国のトップに頭を下げさせてはまずいもんね。
それにしても王族を滅ぼすわけでもなく、国を滅ぼすわけでもなく、ただ当代の女王様だけを狙うってのは少し引っかかるなぁ…。
一族の復讐…だったら王族滅ぼすもんなぁ…。
実は当時の王族の末路は知ってるが、納得できない部分があるからあのような条件を出している…ってのも変だし…。
んーやっぱり情報が少なすぎるんだよね…。
「せめて女王様のお母さんとかおばあさんの遺体が綺麗なままで残ってたら、少しは手がかりがあるとは思うんだけどなぁ…」
「母と祖母のですか? 氷漬け状態でありますよ?」
「あるんですか!?」
まさかの情報に逆にこっちが驚いてしまった。
ふと思いついた事でも言ってみるもんなんだね…。
「でもなんで氷漬けに?」
「仮にも吸血鬼に殺されましたからね。アンデッドとして蘇ったりでもしたら大変ですからね」
そういう理由で氷漬けにしていたのか。
ってことは今回もし失敗したら、女王様も氷漬けに…?
そんな事になったらメアリちゃんも悲しむだろうし、絶対に阻止しないと。
「では案内します。ついてきてください。メアリはどうしますか?」
「私はお部屋の方にいます、お母様」
「わかったわ。ではこちらよ」
そう言って私は女王様についていき、先代の女王様たちが眠っている場所に案内された。




