弟子のためにできること
周りがやる気で燃えている中、私は男の子に対して問いかける。
「さて、皆乗り気だけど、君はどうしたい?」
「えっ?」
「このまま皆と一緒に幼馴染の女の子を取り戻す?」
「それは…」
きっとこの子は聡い子なんだろう。
普通だったら最初に「助けてください」って言っただろう。
でもこの子は「弟子にしてください」と言ってきた。
リーネさんも、私にお願いしてみたらと言った。
なら余計に助けを求めるだろう。
しかしこの子はそうしなかった。
その理由は、私の考えと同じだろう。
「君は私たちに助けを求めたらその同級生と同じだと思ったんでしょ?」
「っ!」
「当たったようだね」
「うん…」
確かに私たちが手を貸してその女の子を助けるのはたぶん容易い。
ではその後どうだろう?
その同級生は大人しくなる?
きっとそんな事ないだろう。
現実世界でいじめがエスカレートする可能性が高い。
そして、私たちは現実世界で干渉できるわけではない。
そこで助けられるのは両親や周りの人間なのだから。
だが今回はNWOの中で起こったことだ。
ならばこの世界でこの子自身が解決するべき事なのだ。
それをわかっているからこそ、この子は私に弟子入りを志願してきた。
「それで? 君はどうしたい?」
私が再度問うと、彼は袖で目元を擦って私を見直す。
「俺に戦い方を教えてください!」
「うん、いいよ」
私が了承すると、男の子は顔が先ほどまでの暗い雰囲気から明るくなった。
どうやらほっとしたようだ。
「さてと、戦い方を教えると言っても二通りあると思うんだけどわかるかな?」
「二通り…?」
「時間制限は私があの人たちを落ち着かせるまでね?」
男の子が考えている間に、私は熱くなっているショーゴたちに近づく。
「さてと…」
「イベント中にPVPを仕掛けて徹底的に…いやそれだと逃げられるかもだから…」
「えいっ」
ブツブツ独り言を呟いているショーゴの頭を軽くチョップする。
「いたっ! ってアリスか、なんだ?」
「何ってこっちの話なんだけど?」
「えっ?」
「何勝手にショーゴたちが加勢する話になってるの? あの子はショーゴたちにそんな事お願いしてた?」
「えっと…その…」
私が腕を組んで仁王立ちしながらショーゴに向かって話していると、他のメンバーはそっとその場に正座をし始めた。
ショーゴはショーゴで、たじろきながら声を詰まらせている。
「あの子は、私たち第一陣が直接手伝うと事が大きくなりすぎるって考えたから、戦い方を教えてってきたんだけど?」
「そっ…そうなのか…?」
「そうなんだけど?」
「ごっ…ごめん…なさい…」
ショーゴはそう言うと、その場に正座した。
まったく、困ったもんだ。
私は他のメンバーの方を向くと、全員びくっと反応した。
「皆も皆だよ。熱くなるのはいいけど、話をちゃんと聞かないとダメだよ。少し頭冷やそうね?」
「「「「「「「はい…」」」」」」」
ふぅ、これでいいだろう。
私は再度男の子の元に戻る。
「それでさっきの質問の答えはわかったかな?」
「たぶんだけど、モンスターとの戦い方とプレイヤーとの戦い方ってこと…?」
「そうだね」
対モンスターと対人となると戦い方が多少変わってくる。
私も闘技イベントでの経験から、少しは対人についてはわかってはいるつもりだ。
なのである程度の事は教えられると思う。
「それで今回重要なのは対人技術ってことはわかるね?」
「はっはい!」
「対人で大事なのは、自分の得意なフィールドや戦闘スタイルで戦うことってのはいい?」
「自分の得意なフィールドやスタイル…」
まぁこれは他の人から聞いたことなんだけどね。
「ということで、君の紹介をしてくれるかな? 名前や武器とかね」
「あっ俺はウィルって言います! 武器は剣を使います!」
「私はアリス。最初に名乗ったけど、他からは【首狩り姫】って呼ばれてるよ。呼ぶときはアリスの方でお願いね?」
「はいっ!」
まぁ明らかな初期装備のウィル。
一応簡易でも防具は整えたいよね。
そこはリーネさんにお願いすればいいかな?
持ち込んだ張本人だし。
「そういえば私の事知っていたっぽいけど、どこで知ったの?」
「一応前情報で色々調べてはいたから…」
そこでなんで目を反らすの。
「それで? 私はどういうプレイヤーって思ってたの?」
「その…PKじゃないけど、森で一方的に敵の首を狩るプレイヤーって…」
「……」
なんだろう…。
間違ってないとは思うけどこの気持ち…。
「まっまぁそういうことで、私は森での戦闘が得意って事になっているんだけど、ウィルは魔法とかは使うのかな?」
「魔法は今のところ特に考えてはないかな…?」
「ってことは、ショーゴと同じスタイルって事になるのかな? あそこで正座してる剣士っぽい男の人ね?」
私はショーゴのいるところを指差して誰かを教える。
「ってことだし、正直ショーゴに戦い方を習った方が良いと思うけど、それでも私の弟子がいいの?」
「はいっ! 確かに師匠は俺とはスタイルが違うと思うけど、一週間しか猶予がない今っ! 普通の習い方じゃ間に合わないと思ったんだ…です!」
確かにこれが一ヵ月とかあれば、ショーゴも結構戦闘技術を教え込めると思う。
でも今回は期間が短すぎる。
それに、初心者故にスキルも全く育っていないと言える。
そうなると、かなり無茶な鍛え方をする必要がある。
となると…。
私はショーゴたちの方の前に立つ。
「そういえば皆はウィルを手伝いたいんだよね?」
「まぁそれはな…」
「手伝えるなら手伝う」
「あたしも構いません!」
「そっか」
どうやら皆も手伝ってくれるそうだ。
なら後は場所だけだね。
まぁそこは憲兵さんとかにお願いすればいいかな?
「えっと…師匠はどんな特訓を…?」
「まぁ時間がないのは確かだし、少し厳しめで行こうかなって」
「きっ厳しめ…」
ウィルは私より小さな身体をぶるっと震わせる。
私はそんなウィルの頭に手を置いて撫でて落ち着かせる。
「そんなに怖がらなくても大丈夫だよ」
「師匠…」
「ポーション一杯持ってくから安心してね」
「えっ…?」
さーって、ウィルの特訓の準備しないとね。
ふふふっ。
「あぁ…お姉様のあの顔はきっとろくでもない事を考えてる時の顔だ…」
さぁ一体どんな特訓なのか…!




