『想う』という字は
三度あることは四度……すいませんまた残酷表現が入ります…。
そして少しシリアス? が入ります。
私は、二人と合流するまでに薬草集めと素材集めをすることにした。狩場は西の森であるため、【忍び足】はあまり効果的ではないと感じ【採取】と入れ替え、出発前にマールさんのところでパンを購入し準備を整えた。まぁ移動中に迷子の子供の親探しや荷物運び手伝ったんだけどね…。ポーションについてはナンサおばあちゃんに作って貰った分があるので、一先ずは大丈夫だろうと考えて補充はしていない。
結果的には狩りは成功したが、【切断】スキルの難しさを身を持って体験することとなった。動きを止めればいけるはず、と思ってた森に入る前の私を殴りたい。森には兎と違い狼が多く生息しており、たまたま一匹だった狼をうまく首の切断ポイントを切り切断できたまではよかった。
その後に仲間をやられた怒りなのか、三匹ぐらい狼が襲い掛かってきて死に戻りするかと思った。三匹も襲い掛かってきたため、うまく切断ポイントを切れないので一撃離脱を繰り返してなんとか三匹を倒した。
そして一番驚いたのは、倒した狼の血抜きして処理した後薬草を探して奥に進んだ結果、まさかの熊に遭遇したことだった。咄嗟に後ろ向いて走り出してしまったため、熊も追いかけてきたんだよね。熊と会ったら背中を向けるなっていうことすっかり忘れてました。熊って意外に速いんだね…。
【AGI上昇】がLv10越えてたから追いつかれなくて済んだけど…。まぁ熊もちゃんと倒せたんだけど、私自身も結構満身創痍だった。ポーションもほとんど使ってしまい、塗り薬も尽きた。
しかし、薬草は奥へ入ったおかげで七十枚ぐらい確保できた。それに戦闘もある程度慣れてきたから二人と合流してもいけそうだ。
解体場で場所を借りて解体をしたけど、流石に熊の解体はよくわからなかったのでおじさんに任せました。
毛皮は防具に使えそうなので、今回はわざと毛をそらずに皮を剥ぎました。お肉も結構手に入ったので【料理】のスキルレベルを上げたいんだけど、調味料がないことに気付いて断念することに…。っと、のんびりしてちゃいけない。
GT18:00を回った頃だし、あんまり遅くなるとナンサおばあちゃんも寝ちゃうかもしれないので、ぱぱっと銭湯で身体を綺麗にして向かわないと。ちなみに食事はパンを食べて少し回復させて、ポーション作って貰ってから酒場でがっつり食べる予定です。
「ナンサおばあちゃーん、まだ起きてる~?」
私はポーションを入れる瓶を買った後、おばあちゃんの家へ向かいドアを叩いて起きているかどうかを確認した。
「なんじゃい!騒がしい! …ってお前さんかい」
「おばあちゃん、ポーション作りお願いしたいんだけど平気?」
「数にもよるがな。…何個欲しいんだい?」
「とりあえず薬草七十枚取ってきたから、その内の六十枚を…」
「瓶はいくつあるんだい?」
「さっき買ってきた分も合わせて五十個あるよ。…ダメ…かな…?」
夜にいきなり訪ねてきてポーション作ってくれなんて図々しかったかな…? 私が申し訳なさそうな顔をしているとおばあちゃんはふぅっと息をついた。
「アリス。お前さん一人ならそんなにポーションは必要ないだろう。何か理由があるのかい?」
「えっと……明後日友達と合流するってのもあるんだけど…」
「だけど何だい?」
「銭湯に入ってる時に聞いちゃったの。ポーションの供給が追い付かないかもっていう話を」
「まぁ、確かに異邦人どもが大勢来たからポーション類が足りなくなってるのは確かだね。それにあいつらは薬草も取って来ないくせに作れ作ればっか言っとると、知り合いの薬師が言っとたの」
「それで…友達もきっとポーション足りないかなと思って多めに取ってきたんだけど…」
「お前さんがそこまでする必要があるのかい? そんなのは自分たちで取らせてきて作らせればいいんだよ。お前さんの分についてはあたしが世話になったしそのお礼も兼ねてる。だが、他の異邦人たちの分を作るのはちょいと違うんじゃないのかい?」
「……」
確かにおばあちゃんの言う通りである。私の分についてはおばあちゃんがお礼で作ってくれている物だ。それを他の人の分まで作って貰うのは話が違う。私が反論できずに黙ったままでいるとおばあちゃんが口を開いた。
「一先ずお前さんの分のポーション十個は作っといてやる。それに残りの十枚は塗り薬を作ろうと思ってるんだろ? そいつも作っておくよ」
「おばあちゃん…」
「ただし! 残りのポーションはその友達を明後日連れてきな! 話はそれからだ! それまで残りの四十枚の薬草と瓶は預かっておくよ! ほら! さっさと薬草と瓶を渡しな!」
「うっうん!」
私は手持ちの薬草と瓶を全ておばあちゃんに渡した。
「その友達とは明後日の何時頃会う予定なんだい?」
「お昼の十二時頃だけど…」
「ならその時間辺りは空けておくからちゃんと来るんだよ」
「うん…わかった…」
「話は終わりだ。今日のところは帰りな」
「うん…。……ごめんなさい…」
私はすっかり酒場に行く気も失せ、マールさんのところで買ったパンを路地に座って黙々と食べログアウトした。ログアウトした後、二人に集合場所が決まったら教えてとメッセージを送り、その日はさっさと寝た。
「私は…おばあちゃんに甘えてたのかな…」
おばあちゃんの善意に甘えて余計な事を考えた結果があれだ。甘えるのはやめようと決めていた途端にこの始末。自分のバカさ加減に涙が出てくる。タウロス君…。やっぱり私は変われないのかな…?
---------------------------------------------------------------
翌朝目が覚めて携帯を見ると、集合場所はギルドホールというメッセージが届いていた。この二日間私はギルドホールへ行った事がなかったのでGTで三十分前にログインすることにした。幸い、ギルドホールはすぐに見つかったため予定よりも十分以上も前に着くことができた。早く着いたからといって特にやることもないため、入口の階段の端っこに座って二人を待つことにした。
しかし、座って待っているだけなのに私に声をかけてくる人たちが何人かいた。「君一人なの?」「君かわいいねぇ」とかありふれた声をかけていたので、これがナンパかぁ~と思いつつスルーした。だが、何人かは諦めずにナンパを続けていた。流石にうっとおしくなってきたのでGMコールをしようかと思った瞬間別の声がかかった。
「お待たせ、アリス。待ったかしら~?」
「ううん。ちょっと前に来たところだよ、リン」
「ところで何かあったかしら~?」
リンがギロっとナンパしてた人たちを睨むとそそくさと逃げて行った。
「リンのアバターってあっちとあんまり変わらないんだね」
「あんまりいじるのも嫌だったからね~。瞳の色だけ赤にして髪も黒のままセミロングから少し伸ばした程度にしたわ。それに比べてアリスは銀髪に水色の瞳ってとっても綺麗ね~」
「ありがと」
「ショーゴもそろそろ来ると思うけど~…」
「おーい二人ともー」
噂をした途端、黒髪のトップ部分をオオカミのように立たせた、所謂ウルフカットという髪型をした長身の男が現れた。彼がショーゴで私たちが待ってた友人だ。
「ショーゴ遅い」
「わりぃわりぃ。PTメンツ連れてきたら遅れたわ」
「ショーゴ、そいつらが例の友人か?」
「あらあら美少女が二人もいるわねクルル」
「親父臭い発言はやめてくださいよレオーネさん…」
「でもまぁ確かに美人だな。この勝ち組め滅びろ」
男の人二人に女の人二人でショーゴ入れて合計五人のPTかな?
「ショーゴ、ちゃんと紹介しないとアリスが困っちゃうわよ~?」
「まぁ…そうだな…。ごほんっ。えーっとこの全身鎧の男がガウル、そっちの槍持ってる男がシュウだ。そんで親父臭い発言した残念お姉さんがレオーネで、いかにも魔女っ娘っぽい恰好したのがクルルだ」
「アリスです。ショーゴがお世話になってます」
「リンよ~。ショーゴがご迷惑してないですか~?」
まぁ紹介してもらったのでこちらも自己紹介をしておきましょうか。紹介された人たちも「よろしく頼む」「よろしくねー」「よろしくお願いします!」「よろしくな」とファーストコンタクトはぼちぼちなようだ。
「さて、全員揃った事だしダンジョンでも潜るか」
「あっ、ショーゴ。ちょっといい?」
「ん?」
ショーゴがダンジョンをするが、先におばあちゃんのところに行かないといけないのでその提案をする。
「実はダンジョンに行く前に行きたい…というか行かなきゃ行けないところがあるんだけど…いいかな…?」
「私は構わないわよ~アリス~」
「俺は構わないがガウルたちはどうだ?」
「構わんぞ」
「美女のお願いならお姉さん聞いちゃうわ~」
「私も構いません!」
「俺も構わないよ」
「というわけで満場一致ってことで大丈夫だぞ」
「皆…ありがと…」
皆が優しくてつい少しニコっとしてしまった。すると何故か数人が顔を赤くし顔を逸らしてしまった。レオーネさんがぼそっと「美女の微笑みやばいわね…」と言っていたが私には聞こえなかったため、首を傾げた。ともかく、皆が付いてきてくれるということなので皆でナンサおばあちゃんの家に向かった。
「アリス、ここか?」
「うん…」
おばあちゃんの家に着いた私は深呼吸をして扉を叩いた。
「おばあちゃん、アリスです」
「…友達と一緒に入ってきな」
扉の奥からおばあちゃんの声が聞こえた。
「リン…ショーゴ…。その…一緒に入ってもらっても…いい…?」
「えぇ、大丈夫よ」
「俺も構わねえぞ。ってことでわりぃがお前らは外で待っててくれ」
「流石に全員で押し入るわけにもいかんだろう。わかった」
ガウルたちも外で待っててくれることを了承してくれたため、私とリンとショーゴの三人で家の中に入った。
「そいつらがお前さんの友達かい」
「はい…」
「リンです」
「ショーゴです」
二人も空気が重いことを悟ったのか、キリっとした顔つきになった。
「何でアリスにお前さんらを呼ばせたかわかるか?」
「いえ…俺には心当りがありません…」
「正直なところ私にはわかりません」
「だろうな。それとお前さんら、ポーションが足りなくなっているんじゃないかい?」
「「!?」」
おばあちゃんはさっそく本題を切り出した。私はじっと正座をして三人の話を聞く。
「確かに私たちはポーションの供給が足りなくて困っています」
「それが俺たちが呼ばれた事に何の関係が?」
「それはそこのアリスがあんたたちの分のポーションを作ってくれとあたしにお願いしたからだよ」
「「アリスが!?」」
二人は驚いて私の方を向いた。私は小さく頷いて答えた。
「あたしはお前さんたち異邦人に怪我をさせられた。そこをこの子が助けてくれたんだよ。わかるかい? お前さんたちがこの街の住人たちに悪態ついてる間にこの子はその住人を助けてたんだよ。お前さんたちが自分を鍛えている間にこの子は街の人のために動いてくれたんだよ」
「「……」」
「言っとくが私だけが助けられたわけじゃないよ。迷子の子供の親を探したり荷物運びも手伝ってたんだよ。お前さんたちは街の住人に何かしたかい?」
「いえ…俺はダンジョンに籠っては売り買いを繰り返してただけです…」
「私も…返す言葉がありません…」
「確かに一部の異邦人の中にはあの子と同じことをしてるのもいる。だがね、あたしたちは人形じゃないんだよ! 一方的な事を突き付けられて従ってると思うんじゃないよ! そこんところをいい加減わかりな!」
「はい…」
「申し訳…ありません…」
二人がおばあちゃんに叱られている姿を見て、連れてこない方がよかったんじゃないかと感じ、私は涙が出ていた。この後二人になんて謝ればいいのか。二人に嫌われてしまったらどうすればいいのだろうかと、そんな事ばかり考えてしまう。
「お前さんたちだけが悪いってわけじゃない。だからお前さんたちだけを叱るのもそれは違うと思ってる。なら何故怒られているのかって思うだろう?」
「いえ…そのような事は…」
「あたしも一昨日あの子を叱りつけたよ。何もしてもらってないお前さんたちの分のポーションを作るのは違うんじゃないのかいってな」
「アリス…」
「だから昨日返信が…」
「この調子で異邦人たちが街の住人に対しての態度を変えないようなら、きっと住人達は異邦人に対して何もしないだろうね。取引や食事すらも出してもらえないだろうね。それで一番悲しむ事になるのは誰だと思う? 住人と仲良くしようとしてる異邦人たちだよ。だからあたしはそんな事になる前に、お前さんたちに注意勧告をしてもらいたいんだ」
「なんで俺たちに…?」
「アリスじゃ駄目なんですか…?」
「あの子は優しい子だ。自分一人で押し込めるだろう。実際、今回の事も何も聞かなかっただろう? それに今も自分ではなくお前さんらが叱られてるのに泣いておるしの」
「「アリス!?」」
「っ!?」
私は咄嗟に顔を逸らした。でもリンはこちらに寄ってきて私のことを抱きしめた。
「アリス…なんで言ってくれなかったの…?」
「だって…私が勝手に言った事で…二人に迷惑が…」
「アリスは私たちのことを思って言ったんでしょ…?」
「そうだけど…」
「アリス…ごめんなさい…。あなただけに負担をかけて…」
「うっ…うわぁぁぁぁぁん!」
私はリンに抱きしめられたのに加え、謝られたことでついに決壊してリンの胸で泣き叫んでしまった。
「…わかりました。必ず皆に伝えます」
「あの子を…よろしくお願いします…」
おばあちゃんはショーゴとリンに対して頭を下げた。その姿は大切な孫を預ける祖母のようだった。その時、私はタウロス君の言葉を思い出した。
『あなたが我々プロエレスフィの民の事を思って行うことは、きちんと皆に伝わるはずです。ですから、どうか怖がらずに、この世界を楽しんでください』
うん…伝わってたんだね…タウロス君…。
―ステータス―
SP:1
【刀剣Lv12】【ATK上昇Lv9】【AGI上昇Lv11】【DEX上昇Lv8】【察知Lv5】【採取Lv8】【鑑定Lv7】【収納Lv4】【解体Lv4】【切断Lv3】
特殊スキル
【狩人】
控え
【料理Lv1】【忍び足Lv2】
次は7/10の08:00に投稿予定です。
2016/7/9 誤字を修正しました。




