プロローグ
プロローグなので飛ばされても本編には影響はありませんが、こういう感じで進めていきますのでよろしくお願いいたします。初っぱなから残酷な描写が入ってますので苦手な方はご注意してください。
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木々が生い茂る深い森の中、四匹の熊が餌を求め徘徊している。しばらくすると森の中を彷徨う一人の少女の姿を見つける。
四匹の熊は餌が見つかったことに歓喜し、ゆっくりと近づいていく。しかし、その内の一匹が我慢できず、勢いよく飛び出し少女に襲いかかる。
少女も近づいてくる熊に気付いたのか、熊が向かってくる方向へ身体を向ける。しかし、向かってくる熊との距離は既に10メートルを切っていた。
熊は少女の眼前で止まり、移動のための四足歩行から襲い掛かる為、立ち上がった。少女は恐怖したのか、はたまた混乱しているのかその場を動こうとしない。
熊はその自慢の爪で少女を切り裂こうと右腕を振り上げた。熊の右腕が振り下ろされる数秒後には熊によって切り裂かれる少女の姿が映し出される。熊はその右腕を振り降ろし、少女を切り裂いた。はずだった。
しかし、右腕を振り降ろした先に少女の姿はなく、右腕は空を切った。それと同時に、カチャッという音が小さく響いた。
熊はその音がなんなのかわからず、辺りを見回すがその音の元凶を見つけることができなかった。すると熊の視界に異常が現れた。次第に視界が下へと下がっていった。
視界が下がる原因がはっきりした。熊は頭が無くなった自分の身体を逆さから見上げ、その身体の横に立っている少女を見た。そこで自分は『狩られた』ということに気が付いたのである。そして自分を『狩った』のは『少女』ではなく『狩人』ということを。
熊は少女が餌ではなく、自分たちが獲物だったということを改めて理解し襲い掛かる対象を誤ったことを後悔した。しかし、そのようなことを悔いる時間もなく、熊の意識は闇に沈んだ。
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「まずは一匹っと…」
少女は獲物を狩った事に対する喜びを上げることなく、残りの三匹の熊に目を移した。
「んー…少し警戒してるかな…?」
少女はこちらを警戒するように取り囲む残り三匹の熊を見つめながら、腰に差している脇差の柄に手を掛け深呼吸を行う。
「――【集中】スキル発動……目標、周囲のエアストベアー三匹…」
スキルを発動した瞬間、彼女は三匹の中で他の二匹と離れていたエアストベアーに襲い掛かった。
エアストベアーもただではやられない。しかし、向かってくる彼女に向かって右腕を振るが彼女は動きが早く、最初に襲い掛かったエアストベアーと同様に右腕は空を切る。一瞬で狩られた同胞の姿を思い浮かべたのか、エアストベアーは次第に攻撃が大振りとなっていった。
大振りになっていったため、エアストベアーの態勢が崩れ一瞬動きが止まった。その瞬間を彼女を見逃さず、攻撃に移った。
エアストベアーはこっちに来るなと言わんばかりに左腕を振るが、彼女には当たらなかった。攻撃を外したのもつかの間、態勢を崩したエアストベアーも彼女によって首を刎ねられた。
首を刎ねられたエアストベアーは重力に逆らわず、そのまま首から血を吹き出しながら大きな音を立てて倒れ込んだ。残った二匹のエアストベアーの目には、彼女によって狩られた同胞が一撃で首を狩られたように見えた。あの少女はやばい、と本能が危険信号を発し、この場から逃げようとした瞬間、同胞を狩った少女が何かを口ずさんだ。
『ハートの女王、タルトつくった…♪』
何かの歌だろうか、エアストベアーは後ろに下がりながらゆっくり近づいてくる彼女をじっと見つめていた。
『夏の日、一日中かけて…♪』
次第に近づいてくる彼女の口元がゆっくりと口の端を歪ませていく姿を見て、二匹のエアストベアーは後ろを向き全速力で逃げ始めた。
「『ハートのジャック、タルト盗んだ…タルトを全部もってった…♪』」
エアストベアーが後ろを向いて逃げ出した瞬間、彼女も歌いながら全速力で二匹を追いかけた。彼らにとっては、彼女は自分たちの首を刎ねる死神に見えているだろう。攻撃も当らず、たった一撃で自分たちを死に追いやる無慈悲な死神。
事実、彼らのステータスには【恐怖】というバッドステータスが出ている。そのため、二匹の内一匹の動きが鈍り、少し離れてしまう。
その離れたエアストベアーに狙いを定めたのか、周辺の木を蹴って加速した彼女の蹴りが遅れを取ったエアストベアーの背中に直撃する。彼女の蹴りを食らったエアストベアーは地面に倒れ込む形で動けずにいた。彼女はそんな哀れな獲物の背に乗り、首に脇差を構え歌を続けた。
「『Off with his head(この者の首を刎ねろ)…♪. Off with his head(この者の首を刎ねろ)…♪』」
歌を歌い切ったのか、彼女は倒れ込んだエアストベアーの首を刎ねた。刎ねられたエアストベアーの表情はどこか、恐怖しているようにも見えた。
「…出ておいで…レヴィ」
彼女が何かを呼ぶと、服の中から一匹の小さな蛇が出てきた。小さな蛇は彼女から降り、倒れ込んだエアストベアーに近づいた。
「逃げたもう一匹追いかけるから、戻ってくるまで処理はお願いね?」
彼女は拘束用の縄をいくつかアイテムボックスから取り出し地面に置いた。小さな蛇は彼女の言うことを理解したのか、小さく頷き彼女を見上げた。その様子を確認した後、彼女は残る一匹を追いかけた。
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残ったエアストベアーは必死に逃げた。ただ闇雲に森の中を駆けた。あの死神から逃げるため、狩られないために。同胞すら置いてただひたすらに逃げた。
しかし、どこまで逃げればあの死神から逃げ切れるだろうか、そんなことを考えていると後ろの方からあの死神の声が小さく響いた。
「『かーごめかーごめ…♪』」
エアストベアーはまだ逃げ切れてないと悟り、全速力で森を駆け抜ける。
「『籠の中の鳥は…♪』」
しかし、死神の声は遠くなるどころか次第に近づいてくる。後ろなど振り向きもせず、必死に駆ける。
「『いーつーいーつー出ーやる…♪』」
この瞬間、後ろから聞こえていた声が右の方から聞こえ始め、咄嗟に左に方向転換した。
「『夜明けの晩に鶴と亀がすーべったー…♪』」
しかし、今度は左の方から声が聞こえた。そしてつい、恐怖から足を止めてしまった。その瞬間。
「『後ろの正面だぁーれ…♪?』」
真後ろから声が聞こえ、つい後ろを振り返ってしまうが、そこには誰もいなかった。そして、そのままエアストベアーの頭と胴は離れ離れとなった。
そんな件の彼女はエアストベアーの正面に立っていた。そして彼女は最後にこう口ずさんだ。
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「『あぁ残念、もう狩る首がない…♪』」
彼女は発動したスキルの停止のキーワードを言い、刃に付いた血を拭き取り武器を仕舞った。
「さてと。まずはレヴィのところに戻りながら血を抜かないといけないから…よっと!」
彼女はエアストベアーの頭をアイテムボックスに入れ、全長2メートルを越すエアストベアーを軽々と逆さにして持ち上げる。逆さにしたことにより、首から血がより零れ落ちていく。彼女はその様子を見て「よしっ」と頷き、置いてきたレヴィの元へと戻る。
レヴィの元に戻ると、先に狩った三匹のエアストベアーが縄で木に固定され逆さ吊りにされている姿が見えた。
「レヴィ、血抜きと洗浄は終わった?」
「キュゥゥ」
「これからやるのね?じゃあこっちも吊るしちゃおうか」
彼女はレヴィが首を振っているのを見て、これからやるのだろうと考え、先程狩った残りの一匹を同様に縄で木に固定し逆さ吊りにした。エアストベアー四匹が全てが固定されたのを確認し、レヴィは口から水を勢いよく吐き出し、吊るされたエアストベアーを洗っていく。しばらく洗浄し血抜きもできたなと考え、彼女は吊るしたエアストベアーをアイテムボックスの中に収納した。
「じゃあレヴィ、取り分は私たちでそれぞれ一で残りは売っちゃうってことでいいよね?」
「キュゥ!」
「じゃあ街に戻ろうか。今日のごはんはどうしようかね?熊鍋?焼肉?どうしよっか?」
レヴィは彼女に飛び乗り、今日狩ったエアストベアーの調理をどうしようかと彼女と相談しながら帰路に就いた。
これは、VRMMORPG-Nostalgia world online-において【首狩り姫】と呼ばれる少女の物語である。
1話目はプロローグと一緒に投稿します。頑張って1日1投稿がんばります。