〜即席カップル?〜
周りを見渡せば待ち合わせをしている者、読書をしている者、スマホを片手で操作している者と様々だ。
ここは待ち合わせ場所として良く利用されてる駅の目の前にある噴水だ。
綺麗な噴水で時間で決められているのか噴水の噴き出し方が変わる。
夜にはライトアップされて幻想的な感じになる。
俺はその大勢いる待ち合わせ者の中の一人だ。
時計は10時15分。
待ち合わせ時間は30分だから早過ぎでも遅過ぎでもない感じか。
今日は雫達と遊ぶ約束を昨日交わし、噴水前で待ち合わせすることとなった。
それを帰ってから楓に会話の流れでバレてしまい、今朝コーディネートされた。
普通にジーンズで行こうとしたが、楓に却下された。
スカートはなんとか回避すべきと思い楓との交渉の結果、仕方なくデニムのショートパンツで手を打った。
ニーハイソックスを履こうとしたが、楓が
「お姉ちゃん! 足綺麗なんだから生足で行かないと! 生足!」
とこれまた仕方なくデニムショートパンツにスニーカーを合わせ、ボーダーのTシャツに白のジャケットを羽織った。
楓との戦いで疲労し、やっとのことで出掛けようとした時に母さんから呼び止められ
「愛ちゃんお化粧は?」
「軽くしたから別にいいでしょ」
親戚の家に居た頃におばさんに女の子なんだからという理由でいろいろ仕込まれた。
そのうちの一つが化粧だ。
いつもは面倒だから何もしてないが、出掛ける時には軽くしている。
身だしなみの一つとかなんとかって言われた気がしたから仕方なくやってるのと、やらないとやり方を忘れそうだから。
「愛ちゃん可愛いんだから、ちゃんとお化粧はしないと! こっち座って」
と強制的に鏡の前に座らせられ、母さんは手際良く化粧をしていく。
あっという間に別人になった。
「やっぱり愛ちゃんは美人さんねぇ〜」
「……。」
女の子ってこうやって化けるんだなぁと思った。
そんなことを思い出しつつ、俺は腕時計を見ながら噴水の淵に座りみんなを待つ。
「ねぇ! 君一人?」
誰かが声を掛けてきたため反射的に振り返る。
するとそこには男が2人いたが知らない奴だ。
「おっ! めっちゃ美人じゃん!」
「一人ならさ、俺らとどっかに遊びに行かない?」
俗に言うナンパってやつか。
面倒だなぁ。
時間は…….10時20分。
そろそろみんな来る頃だなぁ。
「いえ、友達と待ち合わせしてますので」
「じゃあさ、その友達も一緒に遊ぼうよ!」
「お! いいね〜それ!」
「こ、困ります」
困りますとか自分で言っておいてなんだけど、恥ずかしいわ。
でも困るのは事実だしなぁ。
そんなやり取りをしていると
「みや……愛?」
そこには葵がいた。
なぜ葵がそこにいるかはわからないが、これはこの男共を撒くチャンスだ。
「あ! 遅〜い! なにやってたの?」
「え?」
俺は葵の腕にしがみつき甘えた声でカップルを装おうとする。
「今日はどこに連れて行ってくれるの?」
「え? えぇー!?」
「なんだよ〜彼氏持ちかよぉ〜」
「ちぇ、行こうぜ」
葵を彼氏だと思ったらしくあっさり引き下がってくれた。
作戦成功だ。
「あ、愛? どどどうしたの?」
「ナンパされてたから即席カップルになって追い払ったんだよ」
「そうなんだ。でも急に来られたらビックリするじゃないか」
「だって相談はできないだろ? 昔からの仲だから伝わるかな〜と思ってさ」
葵は突然俺が腕にしがみついて来たせいか、顔を真っ赤にさせて視線は泳いでいる。
てかそろそろみんな来る頃だけど……
辺りを見回すが気配がしない。
時間はっと……10時28分。
遅れてくるのかな?
「あら? 葵?」
その声に二人とも振り向く。
「母さん!?」
「葵はスポーツショップに行くんじゃなかったの?」
と言いながら俺の方へ視線を向ける。
すると仁美さんはパァっと顔が明るくなりとても嬉しそうにニマニマしだす。
「葵、誰なのあの子は。もう、スポーツショップに行くとか嘘ついて実はこんな美人さんとデートだなんて」
「ち、違うよ! 母さんこいつは」
「あら、女の子にこいつはないでしょ? そうだ! 今日うちに連れてきなさいよ」
「いや、だから」
「いい? わかったわね?」
と言い残し仁美さんは去って行った。
「まだ仁美さん俺の顔知らないからなぁ」
「まったく、母さんには困ったよ」
「とりあえず今日呼ばれたからには行くか」
「えぇ!? 本当に来るの?」
「せっかくのご好意だし! まぁ勝手に行くから葵は先に帰っててよ。買い物に行く途中でしょ? 行ってらっしゃい」
葵は仕方ないという感じで渋々俺が来ることを了解し人混みに消えていった。
時間はというと10時35分。
「やっほぉ〜」
「遅れてごめんね。愛ちゃん待ったでしょ」
「美樹があそこで隠れむぐ!」
三人が一緒になって来たが、優里が何かを言いかけたが美樹の手によって口が塞がれた。
「大丈夫だよ。どうかしたの?」
「いやいやいやいや、何でもないよ〜ん。ねっ優里ちん?」
「……そ〜ですね〜」
何か怪しい気もするがまぁ気にしないでおこう。
四人揃ったので噴水広場から離れ、駅方面へ歩いて行く。
「とりあえずは〜ブラブラとウィンドウショッピングでもしますか! 最近新しく出来たアウトレットも近くにあるしさ!」
「いいね! 優里ちゃん、愛ちゃん行こっ!」
そしてウィンドウショッピングという名の地獄が待っていることを俺はこの時知りもしなかった。