〜女子高校生デビュー〜
校長先生の長ったらしいお祝いの言葉があった入学式も終わり、母さんと写真撮影もした。
今は割り振られた教室に向かう途中だった。
「1ーCはっと……ここか」
事前に貰っていた学校の地図的なパンフレットを見ながら教室に辿り着いた。
教室の中には既に到着している生徒が自己紹介をし合ったり、同じクラスになれて喜びを分かち合う生徒もいた。
俺も教室に入ると、黒板に座席表が貼ってあったため自分の席を探す。
とりあえずは名前の順で座るみたいだ。
朝比奈だから探すといってもすぐに見つかる。
一番前だよ。
まぁそういうのには慣れてきたけど、出席番号が一番なのは嫌だ。
嫌だと言っても順番は順番なので一番前の廊下側に座る。
ふと周りを見渡すとクラスのほとんどの生徒がこちらを見ている。
何かあるのか? と俺も後ろを振り向くが壁しかない。
まさか俺に何か付いてるのか? と自分や身の回りを見渡したが何もない。
まぁ気にしないでおこう。
まだ視線は感じるものの先程の賑やかさが戻ってきた。
担任の先生が来ていくつか説明をする。
今日は学校内を説明しながら案内をする予定のようだ。
それが終わり次第解散という流れ。
入学式が終わったらすぐに帰してくれればいいものを。
「では、これから校内を案内するぞ。出席番号順で二列になりなさい」
先生が言うとみんな席を立ち言われた通りにする。
その後校内をあちこち周り、また教室に戻り解散となった。
「やっと終わった」
なんだかものすごく疲れた。
階段とか登る時にスカートの中が見えるのではないかとか、幾人か話し掛けて来たが女の子っぽさを意識して話したりと何かと気を使った。
早く帰ろう。
そう思い席から立ち、教室から出ようとしたが
「あの〜……朝比奈さん?」
急に俺の名前を呼ばれたため立ち止まり声がした方へと振り返る。
「ん?」
確かこの子は黒川 雫さんだ。
身長は俺より低い160㎝くらいかな?
女の子にしてそこそこ高い方か。
「あの〜もし良かったらこの後って時間ある?」
時間……。
あると言えばあるが、今は早く帰りこの緊張感から解放されたい。
しかし、こらからクラスメイトとなる人の誘いを断り関係を始めから険悪になるのも嫌だ。
ここは安全圏をとって後者といこう。
「うん。大丈夫だけど、何かあるの?」
するとその子はパァっと笑顔になり
「良かった! これから部活動を見学しに行こうと思ってたんだけど、一緒にどうかなって」
「部活動かぁ」
今日は他の学年も入学式とあって一年生と同じ時間帯に学校が終わっていた。
なので部活がある生徒は部活動に励んでいる。
だが、はっきり言って今は興味がない。
何の部活があるのかさえ知らない。
「そう! 朝比奈さん背が高いからバスケ部とかどうかなって思って!」
バスケねぇ〜やったことないしルール知らないしなぁ〜。
かといって断るのも悪い気がするから見学だけならいいか。
「私バスケはちょっと苦手で……。でも一緒に行こうか」
「そうだったんだ。なんかごめんね」
「ううん、いいのいいの」
歩きながらバスケ部が活動しているであろう体育館を目指す。
「私中学からずっとバスケやってて、高校になってもバスケやろうと思っててね」
「そうなんだ。私なんか帰宅部だったよ」
「えーもったいなーい。その身長がもったいない!」
ぶすーっと両頬を膨らまし怒ってますよっと表現する。
なんて可愛いんだ。
「ごめんね帰宅部で。まぁいろいろ事情があってね」
「そっかー。それじゃあ仕方ないねぇ。そうだ、私のことは雫でいいからね」
う……。
女の子を下の名前で呼び捨てとかかなりハードル高くないか?
てか女の子同士なら当たり前なのか?
確かに男同士も下の名前で呼び合ってたが、男子が女子に下の名前で呼ぶのはちょい抵抗が……。
って俺はもう女の子なのだから抵抗もクソもないのか?
「朝比奈さん?」
「あぁーごめん。し、雫……ね! わかった! これからは雫って呼ぶね!」
「うん! じゃあ私も愛ちゃんって呼ぶね!」
何故俺が雫と呼び捨てなのに、雫は俺のことをちゃん付けなのだろうか。
よくわからない。
体育館に着いて中に入ると熱気が立ち込めていた。
今は試合形式みたいな練習でもしている感じだ。
「バスケって初めて見たけど、結構ハードなスポーツなんだね」
「そうだね。体力がないとちょっと厳しいかな」
そんな話をしながらバスケ部を見学し、雫は女子バスケ部顧問の先生の所へ行って何か話をしている。
俺はというと特にバスケ部には用はないので体育館の隅の方で立って雫を待っていた。
「ねぇ、君一年生だよね?バスケ部の見学に来たの?」
と男子バスケ部が複数人来て、そのうちの一人が話し掛けてきた。
「あっいえ、友達が見学に来たいと言っていたので、その付き添いです」
あーとても面倒な感じだ。
先輩達が俺を囲うようにして立つ。
「そうなんだ。でも良かったらうちにおいでよ」
「それにしても君可愛いね。名前なんていうの?」
「スタイルめっちゃいいじゃん! モデルとかやってたの?」
とかとか質問攻めにされる。
そんな話を嗅ぎつけた野次馬が次々に俺のところへ来ては俺を一目見ようと群がる。
中には「脚がキレイ」や「胸デカくね?」とか「俺あの子狙うわ」とか野次馬から聞こえるが、聞こえなかったことにしよう。
やっと解放されたのはバスケ部顧問の笛の音。
その音の合図で群がっていた男共はさっと笛の音が発せられた所へ集まっていく。
「またね」や「また遊びに来てよ」など言い残し先輩達は去っていく。
仕方なく愛想笑いをし胸の前で軽く手を振る。
ほとぼりが冷めた頃に雫が戻ってきた。
「愛ちゃん先輩達に囲まれてたね!」
「いろいろ聞かれたけど、ああいうのは苦手なんだよね」
「愛ちゃん美人だからねぇ」
俺的には今目の前にいる雫の方が断然可愛い。
体育館から出るともうお昼がとっくに過ぎていた。
雫とは体育館で別れたため今は一人だ。
俺も早く帰ろうと思ったが視界に校庭でサッカーをしている人を捉えた。
「葵?」
七瀬 葵は俺が男だった時の親友で幼馴染み。
昔から女子受けは良くイケメンの部類に入ると思う。
家族間の交流もありかなり親しい仲だった。
入院してからは会ってなく連絡もとっていなかった。
まぁ親同士は連絡し合ってたんだろうけど。
だから会うのは二年ぶりとなる。
葵もこの高校だったのか。
久しぶりに会ってみようと思ったが、俺が女の子だって知らないんだよなぁ。
「とりあえず見るだけ見るか」
そう思いグラウンドへ足を運んだ。