〜はじまり〜
「久しぶりだなぁ」
俺は生まれ育った夕焼け色に染まる町の風景を眺めながら一人歩いていた。
とある理由で住んでいたところから離れて暮らしていたが、二年振りに帰ってきたのだ。
久々に見る自分が育った家を目の前にして、一瞬入るのを躊躇ってしまう。
でもいつまでも外に立っているわけにもいかないため玄関のドアを開けた。
「ただいま〜」
ドアを開け靴を脱ぐという一連の動作をしているとリビングのドアが勢い良く開けられ
「お姉ちゃんお帰りなさい!」
と我が妹の朝比奈 楓が抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと! いきなり」
俺は少しよろけながらも体勢を整える。
「お前なぁ人が靴脱いで上がろうとしてるところに飛びつくなよ」
「えへへ、だってお姉ちゃんに会えるの楽しみにしてたんだもん」
楓を俺の身体から引き剥がしリビングに向かう。
リビングには母さん 朝比奈 美月が待ってましたと言わんばかりの笑顔を見せ
「あらあら、愛ちゃんお帰りなさい」
「ただいま」
「荷物は愛ちゃんの部屋に運んであるからね」
「ん、わかった」
俺からまだ離れたくない楓を無視して二階に上がり荷物の整理をし始めた。
あらかた母さんが荷解きしてあるみたいでそんなに大きな荷物は残ってなさそうだ。
「はぁぁ……」
ため息と共に自分のベッドに仰向けに倒れ天井を見上げる。
最初に『とある理由で』と言ったがそれは俺が元は男だったということだ。
だったというのには少し語弊がある。
遺伝子的には俺は女の子なのだから、男だったと言うと男装していたのではと思われる。
二年前友達とふざけて遊んでいた時に木から落ちて怪我をしてしまった。
腰など強く打ってしまったため病院で精密検査をしたところ、仮性半陰陽という病気らしく簡単に言うと遺伝子的には女の子なのに外見は男の子っていうわけ。
13年間も男の子として生きてきた俺には急に女の子だと言われても実感が湧かなかった。
手術をして外見も中身も女の子となり、元々男の子の名前だった雅を改名して今の名前になった。
退院後は同じ学校には戻りたくないということと、雅は死んだことになり、俺は遠い親戚の所で暮らしていた。
高校に入学するにあたり親がそろそろ帰ってきてほしいと言ってきたので仕方なく地元に帰ってきた。
「高校か……気が重いなぁ」
クローゼットにかかっている制服の主にスカートに目がいく。
その後何回ため息を吐いたか自分でもわからなかった。
荷物を整理し終えた時には外は暗くなっていた。
階段を降りリビングに行き、帰ってきていた父さん 朝比奈 十四郎がビールを飲んでいた。
「愛ちゃんお腹すいたでしょ?ごはん出来たからみんなで食べましょう」
「母さんの手料理なんて久しぶりだな」
「今日は腕によりをかけて作っちゃったからね」
久々の一家団欒を過ごし二年振りの我が家を俺は楽しんだ。