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「はー」
俺は自分の席で溜息をついた。有坂がさっきの数学で例のごとく大活躍してくれた後なので、相変わらず頭が痛い。
まあ泉水なんかの台詞をあてにしてるわけじゃないが、じきに夏休みが来る。学校が休みに入れば勉強はしなくてもいいし、なにより有坂を視界にいれずにすむようになるだろう。
(それは)
ダメだ、と思った。不意に。そうなれば楽になるだろうと思ったのに、反射的にその考えを打ち消そうとする自分が、いた。
何が? 何がダメなんだ?
「……」
自分の考えにへこみそうになった。いやいや、泉水に毒されすぎだろう俺。無意識に頭を振ってアホみたいな想像を打ち消す。
頭痛はたいてい数分で消える。なので頭痛薬の世話になるほどではないのだが、こうひんぱんに続けば実にうんざりだ。
この若さで脳梗塞やら卒中やらを疑いたくはないが、こういつもいいつも起きるなら一度きちんと検査をしてもらったほうが良いのだろうか。でもなんて医者に言うんだ。
クラスメートを視界に入れたり考えると頭痛がするので検査してほしいなどと頼んだらさぞかし対応に困るだろう。
腹立つことだが、たいていの医者が泉水と同じ診断をくだすに決まっている。だからこそずっと原因究明に二の足を踏んでいるのだが、どうなんだろうなあ。もう少し様子をみて大丈夫だろうか。
さっきの授業で突然教師に指名されたにもかかわらず国立大学の入試に出るという問題を鮮やかに解いてみせた有坂に、ちらりと視線を送ってみれば教えを請いたがっている女子たちに囲まれて苦笑しているようだ。
くそー。お前のせいだというのになんて優雅なんだ。八つ当たりとはわかっているが憤懣やるかたなく、ちりちりと静電気が走り始めるこめかみを押さえた。
なにも考えなければいいんだ。わかっているんだ。有坂のことも、他のことも。
記憶に蓋をして。
「うーん」
恋じゃないとすればなんなんだ? 考えるまいと決めたはしからまた考えはじめるのが俺の悪いところだな。
「眼精疲労……そんなバカな」
自分の呟きに即効突込みを入れる。夕べは親が寝た後、自分の部屋で三時までゲームをやっていたのは確かだ。寝不足なのも間違いない。学校が休みである土日は頭痛がしないのも事実だ。
しかし平日だって毎日毎晩寝不足なわけじゃあるまいし、他の日はどう説明がつけられるというんだ。
「亮ちゃん」
なんとか納得をつけようとあれこれ試行錯誤していた俺の後ろにいつのまにか泉水が来ていた。
「んあ?」
「どしたの?」
「いや……別に。つか呼んどいてどうしたのもへったくれもないだろ」
「なんか変な顔してたから」
泉水は失礼なことをさりげなく言った。
「ほっとけ生まれつきだ」
「それ以上に、だよ。それはともかく、安藤さんが呼んでるよ」
するっと小面憎いことを口にしておいて泉水は教室の前方のドアを指差した。
言われて視線を向けると、何故か安藤ちひろが仁王立ちになって立ちしっかりとこちらを見ていた。
思わず視線をそらしてしまう。有坂とは別の意味で目にしたくない人物がいるせいだ。
「本当に俺か?」
「うん、桐生呼んで来てって」
往生ぎわ悪く確認したが、泉水はそっけなく肩をすくめた。
長い髪をいつもポニーテールにしている安藤ちひろは、小麦色に引き締まった体を持つ一般的には美少女の部類に入る同じ学年の商業科の生徒だ。
けれど、泉水と同じ水色のセーラー服を着ていてもどこか威圧的な雰囲気をそなえていて、かわいい女子が呼んでいると言われても唯一喜ぶより恐怖が先立つ存在でもある。
怖いのだ。あのきりっとしたきつい目も、アルトの耳に優しい声音なのに容赦ない口調も、さっぱりを通り越した竹を割ったような性格も。すべてがどうにも俺をたじろがせるのだった。
「うー」
再度ドアへ顔を向けると、イラだったような目とモロにかちあう。おそるおそる自分を指差して見せると安藤はにこりともしないで頷いた。
「ね?」
泉水がさらに追いうちのダメ押しをする。ね? じゃねーよ、ね? じゃ。
しかしいまさら逃げようもなく、ぐずぐずしていたら怒りの炎にガソリンを注いでしまうのは明らかだ。重い上履きを引きずるように歩いて戸口まで近づいた。
「お・そ・い」
グズグスするなと開口一番叱り飛ばされた。
「どーも……。で、なんなんだわざわざ」
商業科と普通科は校舎が違う。うちの普通科A組は南校舎だが、安藤ちひろの商業科E組は新館である。それぞれ連絡通路で繋がってはいるが、通路のあるのは二階で俺のクラスは三階だ。
まさか教科書の類を借りに来たような幸せな結末は、他校舎のましてや俺に借りたいとは思わないだろうから悲しいがありえない。
わざわざ南校舎まで遠征してくるほどの用が俺にあるとは思えないが、同時に一つだけ思い当たってますます暗くなる。詳細を聞きたくなかった。
「昼休みや放課後じゃなくて、あえて授業の合間に来るくらいだからよっぽど大事な用があるんだろうな?」
ビビッてばかりなのもなんなので、ムダな努力とはわかっていながらも軽く先手をとってプレッシャーをかけてみる。攻撃は最大の防御というからな。
安藤は俺の努力を、鼻先でせせら笑った。
「昼休みや放課後じゃ、あんたさっさと逃げちゃってつかまらないじゃない。それともなに? 用があるから待ってて誰かに伝えてもらっておいたらちゃんと残っててくれんの?」
「……」
余計なことを口にして言質をとられてしまわぬよう、俺は早々と貝になる。
「用があるのは今じゃなくて放課後だよ。掃除当番じゃないみたいだね。うちのホームルームが終わったら迎えに来るから、万一先に終わったとしても必ずここにいること」
俺がここまでやってくるまでにいろいろ調べはついているらしい。テキパキと指示を出して安藤はわかったかと念を押した。
「いやあ、今日は」
「あんたのお母さんは、亮一は夜中までゲームやってたからさっさと帰って来て昼寝するはずだって教えてくれたわよ」
「なっ、おまえっ」
逃げ道を探そうとする俺にいきなり豪速の右ストレートが決めてくる。思わぬ伏兵が安藤に味方をしていた。しかも身内。
「い、いつの間にうちの親とそんな話をつけてるんだよ」
「ふふふ」
嫌な汗を背中にかいてる俺に、安藤は花が咲くように可憐に微笑んだ。
「今朝、学校着いてから電話で確認しといたの」
可愛い顔をしているはずなのに、どうしてだろう何故か花は花でも毒の花という印象がある。
「もちろん、あんたのオトモダチにも放課後誘いをかけないようちゃんと言ってあるからね」
完全に退路を断ってから俺を呼んだようだ。
「なんなんだよ、一体」
脱力してよろよろとドアにもたれかかると、安藤はわずかに声のトーンを下げて俺をにらんだ。
「わかってんでしょ」
「……部会でもあんのか」
「わかってるんじゃん」
実は俺は陸上部に所属していたりする。んで、短距離をやっている。いや、やっていたかもしれない。
二年にあがってから一回くらいは練習に出たがそれだけだ。頭痛がするのも一因だがそれだけでもない。
とりあえずそれでも、陸上部に籍だけはそのままおいてある。はずだ。なくなってても別に全然気にならない、ということはないがしょうがないだろう。
一年の一学期こそわりと真面目に練習に参加していたが、夏休みに入ったあたりで週に二、三度になり、月イチになったあげく、三学期には安藤か部長あたりに呼び出されない限り出てない。
理由はたんに俺が怠惰だからだ。毎日毎日同じ地道な努力を続けるというのが、どうにも性にあわないのだった。自慢できることでは全然ないのはわかっているがどうしてもできないのだ。
安藤ちひろも同じく陸上部だが、こっちは棒高跳びの選手として日々練習にいそしんでいるし先月の競技会でも活躍したと風の噂に聞いている。
そういえばおめでとうと言ってなかったなと思い出したが、その競技会へ俺の出場をめぐってやいやいもめたこともセットで思い出した。
やぶへびをつつきそうな予感が嵐のように胸に吹き荒れたので、黙っておくことにする。
というかおめでとうを言いそびれる理由として、何かがあったような気もするんだが……。
「聞いてんの?」
「痛い、痛いいたいっつの!」
安藤に耳をねじられて俺はあわてて振りほどいた。
「暴力にすぐ訴えるな」
「最初からちゃんと聞いてれば問題ないでしょ。時間ないんだから」
「はあ……」
「いい加減ここらでしゃんとしてもらわないとさ。もうすぐ三年引退しちゃうんだから」
「……へー」
ねじりあげられてまだ痛む耳をおさえながら相槌を打つ。だからなんだ。
副部長の加藤さんには去年部活動の件で彼女の小柄な体にはかなり負担だったろうが、骨を折ってもらった覚えはある。
が、あとの誰かに俺が世話になったことがあったとでもいうのか。
「桐生」
安藤の切れ長の目がきつく俺をにらむ。ま、負けないぞ……と。
「世話になってないと思ってるあんたのおめでたさはこの際置いておくとしてね」
置いとくのか、どこにだ。
「宮崎部長はあんたにトラックのリーダーと、次の部長をまかせたいって言ってる」
「はあ?」
さすがにその発言には驚いた。部長の意見もだが、それを素直に俺に伝えるこいつもこいつだ。
人選ミスにもほどがあるし、人を見る目もなさすぎる。それを承認する判断能力のなさもどうなってんだ。
「わたしも正直どうかなって思わなくもないけど、部長の言うこともわかるから」
「どっちなんだよ」
「だから両方だって言ってんでしょ」
安藤が溜息をついた時、ようやくチャイムが鳴った。
「あ、じゃあ後で迎えに来るから。一応念をおしとくけど、逃げたらひどいよ」
忘れずに俺にクギをさすと、安藤はこの暑い中廊下を走って自分の教室へと戻っていく。ポニーテールが規則正しく揺れている。
高跳びでも良い選手ではあるが、短距離をやらせてもいいところまでいくだろう綺麗なフォームだ。本人は高飛びしか興味がないらしいので、残念だ。
「どしたの」
「うお」
見送っててもしょうがないので自分の席に戻ろうと踵をかえしたら。真後ろに泉水が気配もなくいた。
「なんでお前はさっきから俺の背後にいつのまにかいるんだ」
「えー?」
そのまま八つ当たり気味に文句をつけようかと思ったが、割に真面目な目がこっちを見ていてやめた。
お前はこないだの昼休みにそういうツラして人の話を聞くことはできなかったのかと、どうにもならないことを口の中でぼやいてみる。
「いや……なんか部会に出てこいってさ」
「部会?」
俺が部活をサボり倒していることをよく知っている泉水は不思議そうに首をかしげて問い返してきたが、次の授業の教師が来たのでそれ以上説明してやることも出来ず俺たちはあわてて自分の席へ戻った。
織田が俺の机の上に置いていったと思われるマンガを急いでしまいながら、最近癖になっている溜息が自然にこぼれた。
あー、いろいろめんどくせええ。
うちのクラスのホームルームは、すばらしいことに長引かずにさっさと終わるのが常だ。そこだけはクラスの団結を感じる。
しかし悲しいかなE組にはかなわなかったらしく、最後の礼の途中でなにげなく開きっぱなしのドアへと視線を向けると廊下に安藤ちひろのポニーテールがちらりと視界に入った。
本当に真面目なヤツだよ、あいつは。
クラスメートはみんな、何かに解放されたかのように明るい声を出しカバンを持ってそれぞれに動き出したが俺は気がそがれて逆にまた椅子に座り直した。
織田たちも安藤に言い含められてるのか、こっちにちょっと視線を向けたものの見なかったフリをしてさっさと帰って行く。
薄情者たちめと恨みがましく背中をにらんだが、反対の立場なら俺もそうするだろうから内心で罵るだけにとどめておいてやるさ。
泉水が自分の席から心配そうに振り向いてこっちを見ているが、声をかけてやる気力は悪いがこれっぽっちもなかった。
「うっす」
そうこうしている間にずかずかとうちの教室に入って来た安藤が、俺の前にまた仁王立ちになっている。
「……おう」
「ちゃんと逃げなかったとは感心だわね」
にっこりと笑う安藤に、もはや観念するしかない。逃げなかったと言うか、逃げようがなかっただけだ。わかってはいるのだ。
俺は頭ひとつ分背の低い女子に首根っこをつかまれるようにして、グラウンドのすみにある運動部の部室棟まで引きずられていった。
しばらくぶりの部室にはいると、俺と同学年の連中はめずらしいヤツが来た好奇心を隠さず、一年生はみんな誰だコイツという顔をしている。まあ、予想通りの反応だ。
三年生はそれぞれ思うところはあるのだろうが、ほとんどが基本ポーカーフェイスで上手に本心をみせないのはさすがと言うべきか。
反面同じ三年でも喜びの色をあらわにして、安藤によく連れてきたとねぎらっているのは加藤副部長だった。加藤さんは安藤より背が低く小柄だが、粘り強い性格のせいか意外にも長距離の選手だったりする。
俺とは同じトラック競技ということで、一年の頃からいろいろ面倒をみてもらった。他の上級生と衝突した時もこの人はいつも割って入ってくれて、緩衝材にならんと努力をしてくれていたので頭があがらない存在だったりする。
その隣にいる宮崎部長も満足そうにしていた。身長が百八十を越えている部長は、その背丈を存分に生かして安藤と同じく棒高跳びの人だ。なのでトラックで幽霊部員の俺とはあんまり接点が多くない。
別に俺は陸上部が嫌いなわけではない。走るのは好きだから。
部室の真ん中のテーブルのすみっこに、苦虫噛みつぶしような渋い顔でそっぽ向いたまま現トラックリーダーである福島先輩がいても、一緒につるしあげに参加してくれた先輩方がいても、だ。
ついでに別にこの人らのことも嫌いってわけじゃないけどな。決してお世辞にも好きだとは言えないが。
向こうはこっちをめちゃくちゃ嫌いみたいだが、だからってお返しに嫌わなければならない理由もないし、なんというかどうでもいいとしか思わない。そういう態度がよけいイラっとさせるのかもしれないが、それは向こうの勝手だ。
正直、あっちが俺を嫌うのも認めたくは無いがわからないわけじゃないという感じだった。
福島先輩も、短距離の選手だ。そして短距離は百、二百、四百と距離がそれぞれわかれている。
短距離は長距離とは別の意味で過酷な競技だ。
運が悪いというか星のめぐりあわせが悪かったとしか言いようがないが、百、二百、四百とわかれているというのに福島先輩は俺と同じ四百の選手だった。もちろんお互いにとって悪いことに、だ。
今も外野は俺らに勝手に一触即発の空気を期待して微妙にいやーな雰囲気を作ってくれているが、そんなもんに乗ってやる気はこれっぽっちもない。
宮崎部長が、そろそろはじめようかと切り出してテーブルの一番奥、いつもの定位置についた。せまい部室だが、それでも三々五々好き勝手に散っていた部員たちがぞろぞろと集まる。
辞めてるやつがいなければ今年は男女あわせて総勢十八名だと聞いたはずだが、この密集具合から今日は全員そろっているらしい。
人口密度が高いせいか空気が濃い割りに酸素がなんとなく薄いような気がする。気のせいだろうが。
とりあえず今日はそんなに暑くなく扇風機が強風フル回転で働き、ドアと窓を全開にしてなんとかしのげる程度の気温なので助かったなと思った。
田舎の公立高校のわりに意外と部員数が多いのは野球部が強豪のおかげでグラウンドが整っているうえに、それなりにスポーツ用の設備がそろっているせいだ。
俺は普段部に参加してない自分の立場をわきまえて真ん中のテーブルではなく、一年たちに混ざって壁際のベンチシートに腰をおろした。
「桐生、こっちにおいでよ」
にこにこと気配り屋の加藤さんが、俺に手をさしのべる。彼女の場合は好意百パーなのがわかってはいても、こういうときには困ったとしか思えない。
本当にほっといてもらうのが一番なんですが。俺は手を振って固辞したがそれはそれでなんだかまわりの空気がゆがんだ気がする。これも俺の気のせいなら実にありがたいんだが。
「もうさっさとしなよ」
安藤がすばやく立ち上がると俺をテーブルの加藤さんの隣に座らせる。そして自分も俺の反対側に腰をおろした。もうすべてをこいつに任せよう、と俺は腹をくくった。
「全員そろうのはひさしぶりだなー。いつ以来だ」
宮崎部長が場にそぐわないほどのんきな明るい声を出した。一部からくすくすと笑い声があがる。
なにごともなければ本来はいまごろ、織田の家にこないだのゲームの続きをやりに行っていただろう。今日はこないだと違ってそんなに日差しも強くないから、チャリで海岸通りを走ればさぞかし爽快だったろうにえらい違いだ。
安藤の横顔をうらめしく見ていると、部長が再び話しはじめた。
「じゃあ本題にはいるとしまして。あと十日ばかりで俺たち三年も引退となります。今日は各チームそれぞれの次期リーダーと、役付きを決めておこうかなということでみんなに集まってもらったわけです」
部長がなごやかな空気を全身から発して室内を中和しようとしている。加藤さんと安藤が、ちらりと俺の方に視線を送って来た。マジで勘弁して欲しいが、とりあえず逃げ出すこともできないので知らんフリをした。
「じゃあ、まず投擲から」
うちの部は大まかに、トラックほとんど全般、障害走、投擲、跳躍と四つにわけている。障害走だけトラックの中でも別枠にしている理由は、昔は部員数がどうたらこうたらのなごりだったとかなんとか。ようするに聞いたかもしれんが全然覚えてない。
投擲から跳躍とそれぞれ各グループの現リーダーが後任を指名していった。元々部会が始まる前に根回しがすんでいるのだろう。
あがる名前も普段部活に出てない別グループの俺でも納得のいく人選だったし、誰の反対もなく本人の拒否もない。
指名されると部員たちが拍手をし、当人が立ち上がって短い挨拶をして、それはまあスムーズに川が流れるごとくすすんでいく。
ますます俺の気が重くなった。というか俺のところには安藤に知らされるまで根回しがほとんど皆無というか、寝耳に水というか騙し討ちというかなんだがどういうことだ?
障害走の新リーダーに任命された女子が、爽やかに挨拶をするとそれを引き取って加藤さんがついに口を開いた。
「じゃあラストのトラックだけど」
加藤さんは怜悧な目をあげて全員を見渡す。一瞬みんな静かになった。嫌な間だ。
俺はとりあえず自分の手元に視線を落として、そんな雰囲気にまるでなんにも気がつかないかのように振る舞う。KYだと思われる方が断然マシだ。
「トラックからは桐生君を推そうということになったんだけど。どうかな?」
ついに言われてしまった。加藤さんの視線を受けて俺はしかたなく顔を上げた。なんで俺だけ質問形式なんだ。
「どう、と言われても」
どうしても歯切れ悪い返事をしてしまう。やなこったと言ってしまえるならどれだけ楽だろうか。
見渡す部員のほぼ全員が、成り行きを興味本位で見守っている顔をしている。福島先輩は相変わらずこっちを見ないが。
「話を先回りさせてしまえば、ついでに部長にも任命したいところ」
どんなついでか、やわらかな笑顔で宮崎部長が口をはさんだ。安藤から前もって聞いていたとはいえ胃のあたりにズシンと重く響く。勘弁してくれ。
「拒否権あるんですか? 参考までに質問ですけど」
「まあ部活だからねえ。強制は誰にもできないよね」
宮崎部長は相変わらずにこにこしている。有坂といいこういうキャラは俺には鬼門な気がしてきた。
「強制じゃないけどね」
加藤さんも優しい声で言う。俺の反対側の隣から刺すような鋭い視線を感じる……。
これで強制じゃないなら、強制だとどんな目にあわされるんだろうか。部室監禁の末に承諾するまで縛りつけられるとか?
「えーと」
バカな想像をしている場合ではない。俺の返事待ちをされていた。
「俺じゃ適任じゃないでしょ、やっぱ」
「なんで?」
加藤さんは首をかしげる。ショートボブの髪がゆれた。
なんでって、わかってて何を言ってるんですか。俺は言葉を探してまた黙る。
副部長とはいえ現トラックリーダーじゃなくて、あえてあなたが俺を任命したあたりに答えは出てはいませんか。しかしそこまではっきり口に出す度胸はない。
「逆に俺がなんで俺って聞きたいくらいです」
結局別のアプローチを検討してみた。
「そりゃお前一人が県大会で必ず表彰台に乗るレベルだからだろ」
俺は表情が動かないよう努力した。ほめられて嬉しかったわけでもあてこすられて悔しかったわけでもない。そもそもほめられてはないだろう。
ついに福島先輩が口を開いたからだ。相変わらずこっちを見ないまま、ぼそりと吐き捨てるように。
乾いた声だったが、意外に怒りをおさえているという風でもなかった。
「えーっと」
少し言葉をまとめるために再び間をとった。脳が洗濯機並みにぐるぐる回転しているようだ。たまにぐるりと逆回転。
「そういうのはなんか違う気がします。成績の良し悪しでリーダー就任かどうかなんて変だ。ちゃんとグループをまとめていけるヤツがやるべきですよ」
「桐生がそれをやればいい」
宮崎部長は柳のようにしなやかだが、けっして折れない。意見も全く変える気がないらしい。
「いや、だから俺は」
「結局やりたくない言い訳探して並べてるだけでしょ」
真横からついにばっさりと切り込まれた。安藤は冷ややかに俺を見ている。いろんな意味で俺はこの場に一人孤立だ。孤独だ。
「俺、正直一年なんて誰も知らねえよ。リーダーがこれから名前覚えるからよろしくな、ってありえないだろ。てか、向こうだって誰だお前って思ってんだろ」
「いやー、割と有名人ですよー。先輩」
退屈そうに壁際のベンチに雁首そろえてる一年生たちのなかで上背の高いひょろりとしたメガネが口をはさんだ。また部室内に笑いが起きる。
同じグループのヤツなのか、そもそもこいつと初対面なのか以前に顔合わせたことがあるのかもわからない。こいつに限ったことじゃないが。
見た感じ背丈だけは跳躍やってそうな体格だが、実際のところは知らない。
そしてなんだかよく知らない一年にバカにされたように思わなくもないが、今だけは気にしないことにしよう。精神がもたないからな。
「じゃあ代案出せよ」
ずっとそっぽを向いていた福島先輩が、今日はじめて俺を視界に入れた。というか真っ向から見すえてきた。
いつだったか忘れたが、俺に呼び出しかけてきたあの時以来の椿事じゃなかろうか。だからと言ってやっぱ嬉しくはないが。
「いやだやりたくないって延々ごねてたってはじまらないだろ。ガキじゃあるまいし。オマエがあげた問題点はこっちだって十分わかってんだ。わかっててそれでオマエを推すことに短中は全員一致で決定したんだよ。いまさら蒸し返したところで意味がねえんだよ」
今度は表情を変えないことに成功したかどうかはわからない。意外すぎて心底びっくりしたからだ。全員一致、ってのを額面どおりにとっていいのかどうかわからなかった。
まさかその全員に福島先輩が入っているとはとうてい思えない。多数決の間違いじゃないの。
ちらりと視線をあげると、俺の動揺を肯定するようにお加藤さんが小さくうなずく。
なんで急に俺を認めようって気分になったんだか。よりにもよってこの場面で。初志貫徹するところだろうが。
とはいえ、返事を待たれているので俺はフタが開いて中身が飛び出しそうになっている脳内洗濯機にガンバレとはげまして、必死に思考する。が、性能が低すぎてどうにもならん!
「ええええっと」
またしてもうなりつつも、俺は同じ二年の溝口へ視線を向けた。中距離をやっていて成績も顔も人望もそこそこのヤツだ。
溝口は迷惑そうに顔をしかめると目をそらした。薄情にもほどがある。
溝口は二年になってからスランプとやらで成績が伸び悩んでおり自分のことで手一杯なのだ、と加藤さんが説明してくれた。それはすまんかった。
「じゃあ武田とか。相原さんとか」
代案を出したら安藤ににらまられた。が、この際無視だ。
だが武田はいつのまにか走り幅跳びへ転向しており、相原さんは学業と部活の兼ね合いとやらで無理だという。それを言うなら俺の方が相原さんより断然学業に力をいれなければいけないはずなんだが、自慢できることでもないので口にはしなかった。
「で?」
白々と安藤が俺に冷たい目を向ける。いや、俺も無理だから絶対。
結局そのままトラックリーダーは決まらず一時保留となり、部会はお開きとなった。
後日また改めて話し合うらしい。後十日ほどで引退だというのに悠長だ。かといってとことん詰めてこられても困ってしまうのは確かだが。
というかなにをそんなに話し合うことがあるんだ、なにを。
「そうね、桐生は執行猶予だと思って、まずは一年の顔と名前を一致させるところからやれば?」
「なんの刑だっつーの」
「部活をサボり倒した罪に決まってんでしょ」
イヤミたらしく言い捨てて帰って行く安藤の背中に、なにか一太刀くらいあびせてやりたいのだが微妙に反論できない内容で歯噛みしている間にいなくなってしまった。
他の部員たちもさっさと解散して帰って行く。福島先輩もとっくに消えていた。
「安藤が副部長になるから頼りにしていいぞ」
俺をはげまそうとしたのか単にダメ押しをしたかったのは謎だが、宮崎部長は明るく俺の肩を叩く。
「期待してるからね」
まだ何も決まってないはずなのに加藤さんは何に期待を寄せているのだろうか……。
外堀を埋められていっている感がひしひしとする。というかまだ内堀は残ってんのか? 季節的にも夏の陣だった気がしないでもないと大阪城気分にひたりつつ、やけにくたびれてのろのろと部室を出た。
ダッシュを十本やったってこんなに疲れてないだろう。自転車置き場へ直行したいところだが、なんの準備もないまま安藤に引っ張られて連行されたので教室にカバンを残したままだ。
死ぬほど面倒だが、南校舎の三階にある自クラスまで戻らなければならない。
非常階段からグラウンドを見ると、帰宅する生徒の影ももうまばらで練習をしている運動部の姿もなかった。
ひっそりと息を殺しているような人気のない廊下は窓はとっくに閉ざされ西日が当たって、無茶苦茶暑い。
そんな中、A組の前には悠長に立ち話なんかしている人影があった。水色のセーラー服と男子の黒いスラックス。
チリチリとこめかみに静電気のような痛みが走る。そろそろ慣れてきた感覚。
有坂と泉水だった。別に俺がヤキモチをやいているという意味ではない。もちろんどちらにもだ。念のため。
俺が戻ってきたのに気がついた泉水がパタパタと軽い足音をたててこちらに走ってくる。
なんだかでかい本を片手に持っているがそれとは全く関係のない理由で泉水はいかにも足の遅いヤツの走り方をしている。が、それを指摘するといつも怒る。
フォームを直せば現状よりもうちょっとばかりは早くなるだろうとの親心なのに、向上心がないのかなんなのかわからないが、「亮ちゃんにはわからない」とふてくされるのであった。
「よっ」
俺の目の前でブレーキをかけると空いてる片手をあげてみせた。
「よう……」
こっちは全然そんな浮かれた気分にはなりえないが、とりあえず挨拶くらいは返してみる。
「部会終了?」
「一応な」
「一応?」
「なにやってんだよ」
泉水は首をかしげたが、説明してやらず逆に質問してやった。部活もやってないし今期は委員会なんかもこいつにはないはずだ。こんな時間まで風通しの悪い老化で立ち話しているくらいなら、とっとと下校して駅近辺の店で涼めばいいのに。
「ふふ」
軽く笑って泉水は持っていた本を俺の鼻先にかかげてみせる。
「漬物百科……? なんじゃそら」
「有坂君に借りちゃった」
タイトルを読んで絶句しかける俺に、泉水はどういう理由か胸をはる。
「意外とおもしろいよー? 地方によって特色があったりして。亮ちゃんも借りて読んでみる?」
「俺にそんな厚い本が読めるか。うまい漬物がつかったらうちに持ってきてくれ」
「レシピ本じゃないってばー」
どっちでもいいわい。
「じゃあ、僕はお先に」
それまで黙って俺らのやり取りを父兄参観の親のように見守っていた有坂が、足元のカバンを持ち直して声をかけてきた。いつもの微笑が目に入って俺の心臓がぐにゃりとゆがむ。
「あ、ありがとねいろいろと」
「どういたしまして。桐生もまたね」
ワイシャツの上から胸をおさえてしかめ面している俺に、事情がわからないだろうに嫌な顔一つせず有坂は愛想よく帰っていく。
見送らなくてもあいつが遠ざかっていくのを感じる。痛みが少しずつ消えていくからだ。もはや暗示の域なのかもしれなかったが。
どっちでも同じだ。俺には確かに存在する痛みで、確かに実感する感覚なのだから。
「で、安藤さんの用なんだったの? 陸上部でなんかあったの?」
泉水が再び話し始める。なんとなく教室の中に入った。どこの窓もしっかり施錠されているので暑さは変わらない。
「んー」
とりあえず一番前の窓を開きにいった。瀬戸内の夏の夕方に風を求める方が無理なことはわかっているが少し新鮮な酸素が欲しい。
言い淀んだのは別にもったいぶったわけでもなければ、話したくないわけでもない。ただどう説明したらいいのかよくわからなかっただけだ。窓を開けたまま俺は自分の席まで戻った。
「部活でさあ」
机に腰かけるようにして、言葉を選びながら部会で起きたできごとを説明すると泉水も隣の織田の机にもたれるように座って人なつこい猫みたいにじっと聞いていた。
「やればいいじゃん」
泉水は即答した。
「またお前は」
そういうヤツだよと呆れたが、泉水は不満そうに口をとがらせた。
「えー、てきとうに答えたんじゃないよー。亮ちゃんが部長やったらいいじゃんと思ったからそう言っただけ」
「嫌だね」
「なんで?」
「なんでも」
「なんでもじゃ、わからないよー」
少し笑って泉水は逆に俺を諭すように目を上げてじっとこっちをみつめてくる。
「そうやってちゃんとあたしにさえ説明できないから、押し切られちゃうんでしょ」
「う」
痛いところを突かれたかもしれない。
「亮ちゃん、なんで嫌なの?」
重ねて問われて、俺はあいまいに爪先に視線を落とす。
「だって、おかしいだろ」
「なにが」
「なにがって。部会でも言ったけど、部長だとかリーダーだとかそういうのは普段からちゃんと練習出ててリーダーシップがとれるヤツがやるべきだろ」
「どうして?」
泉水はきょとんとしている。
「どうしてってお前な」
呆れてしまって途中で言葉が嘆息に変わった。
「なんでどうしてってお前は子供か」
「あはは、だってわかんないんだもん」
朗らかに泉水は笑うが、イチからまた説明しなければならないのかと思えば忘れていた徒労感がどっと戻ってきた。
うんざりしながら口を開きかけた俺を無視して泉水は話を続ける。
「実際にこの学校で一番早いの亮ちゃんじゃない」
「だーかーらー」
「それだけで決めるのがおかしいなら、亮ちゃんがちゃんと部活に出れば解決」
「……するかよ」
「するよ」
どんな確信があるのか知らないが、泉水は自信満々に胸を張る。
「……いまさらかよ」
「いまさらですよ?」
泉水は軽く笑って首をかたむける。
「別にこれからだって全然まにあうじゃないの。亮ちゃんが引退するわけじゃなし。高校生活は少なくともまだ後一年半は残ってるよ、亮ちゃんには。のびる可能性もあるけど」
さりげなく不安になるようなことを言いやがった。
「むー」
「一番の人が前にいるのがいいよ。そのほうがきっとみんなついていきやすいよ、多分。みんな一番になるために毎日練習がんばってるんでしょ?」
「そうは言ってもなあ」
「やりなよ。亮ちゃんならできるよ。亮ちゃんにできないことは安藤さんが助けてくれるよ。それでも足りなかったら他の人たちがいるじゃないの」
「安藤に助けてもらったら後が怖いだろ」
「あはは、だいじょぶだいじょぶ。本気の人ならちゃんと助けてくれるよ」
他人事だと思って気楽に言いやがって。まさかこいつも安藤包囲網の一環なんじゃなかろうかと半分本気で疑わしくなってきた。
「わっかんねえなあ」
もちろん安藤のことや泉水が安藤の手先かどうかのことではない。
「部長になったら部活サボれないからとか思ってんでしょ?」
「いや、まあ、そういうだけのことではないと言っている」
「そういう不純な理由がバレバレだから、どれだけ反論したって誰一人納得しないんだよ」
ズバリと指摘されて俺は黙った。
「残り一年、部活ちゃんとやってみるのもいいじゃない。遊びに行くのは亮ちゃんのこれから先卒業した後でもできるよ。でも、部活はなかなかできないよ? 今しかできないことをしっかりやってみたらいいんじゃないかな」
「いいんじゃないかなって言われてもなあ」
自画自賛するようでなんだが、それなりのレベルでの走ることに対して才能だかなんだかというものが俺にはあると思う。
けれど競技の世界……だけじゃないだろうがそれなりのレベルはそれなりでしかない。そこから先へ行かなければ意味が無い。
だが、そこへ到達どころかただ目標に向かって進むこと自体が濁流を逆行するくらいの日々の努力が必要だ。そしてその血のにじむような努力が報われる率なんて、たかが知れている。
けれどそれがわかっていて突き進むことを選ばないと、たどり着かないのだ。それこそ遡上する鮭のようなものだ。
それを選んで日々研鑽する連中の中で、俺はひどく中途半端で根性も無い。
だから福島先輩が俺を嫌いでもしょうがないとは、思っている。
「そういう努力をバカバカしいって思ってるわけでもないでしょ?」
「まあ、楽しい、時もある」
俺は少し言葉を選びながら返事をした。
オレンジ色に染まってきた西日のあたる教室は風がなく死ぬほど蒸し暑い。
「……後からやっとけばよかったーって後悔するのはものすごくつらいことだよ」
妙にしみじみと泉水が言う。
「…………」
何か言おうとしたのに口を開いた瞬間にド忘れしてしまった。この暑さのせいだ、きっと。
「汗と涙が青春ですよ!」
泉水は腰かけていた机から降りると、一人で拳を握って熱く力説している。
「青春ねえ」
いつの時代の生まれだお前は。溜息をつきながら俺ももたれていた机から体を起こした。
「まあ、お前らしいといえばお前らしい結論だ。ってことでいつまでもここで言い合っててもしゃーないし、腹も減ったし帰るか」
今日は死ぬほど疲れたし、飯食って風呂入ってさっさとベッドにもぐりこみたい。カバンを肩にかけて戸口へ向かったが、泉水は後をついてこなかった。
俺が開けっ放しにしたままの窓を閉めてくれている。そしてゆっくりとこちらを振り向いた。笑っているのかもしれない。後ろの夕焼けがまぶしくて、けれど表情は影になってよくわからない。
「亮ちゃんは走ってる時だけはすっごくかっこいいから」
「は?」
「だから、ほんとにやるといいと思うよ。部長もリーダーも」
唐突に何を言い出すのかと毒気を抜かれて何も言えないでいる俺に、泉水はバイバイと手を振った。
「気をつけて帰ってね」
すぐ近所に住んでいるのだからばらばらに帰るのも不自然だし当然のように一緒に帰るつもりだったのはこちらだけのようで、変に気も抜けた。
当然ながら泉水は俺を待っていたわけでもなく、有坂と話し込んで遅くなったわけでもなく、単に仲のいい由井央子が補習居残りのために現在進行形で遅くなっているだけだそうだ。
「あっそ。って俺の話は暇つぶしかい」
「あははー、違うよー。でも、ごめんね」
「別にいいけどな!」
一緒に帰りたかったわけじゃねえし、と続けようとしてけれどそれが負け惜しみのように聞こえるのが嫌で口をつぐんだ。
そしたら何故か突然不思議なことに一緒に帰りたかったような気分になった。
一緒に帰った方が良かったのに。
……なんじゃそら。
「じゃあ、また明日ね」
ふわりと柔らかい声が背中に聞こえた。俺は手だけ振って教室をそのまま出る。
予定よりすっかり遅くなってしまったので、寄り道もせず真っ直ぐ自転車を飛ばして家に帰った。
うちまで自転車ぶっ飛ばせば、普段なら二十分ちょいで着く。今は家の近所で工事中のため、ちと回り道をしなければならないが。
学校が駅の裏の山の上にあるので一気に下まで滑り降り、駅を越えたら後は信号がほとんどないので止まる必要もほとんどない。いろいろ不便な田舎だが、こういう点では利便性はあるのだ。
家のすぐ側を流れる沼田川の土手まで戻ってきて沼田大橋を渡る頃には、空は夕暮れを越えて藍色に沈んで山のふちをあいまいにさせていた。
(あれ)
沼田大橋は名にふさわしく橋の長さが百メートルばかりある。うちの方へ渡ったそのたもとには花の季節を終えてこの暑さに立ち枯れた紫陽花のしげみが以前からあった。
その影に、うちの学校の制服を見た気がした。近所に同じ学校の奴なんて誰かいたっけ。
もっとも男子の制服だったので、女子の水色セーラー服と違ってどこにでもあるデザインは一瞬だし見間違えてる可能性は非常に高いが。
さっきまでおさまっていたはずの頭痛がちりちりと泡立つようにこめかみに戻ってきたような、そんな感覚があった。