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月の箱庭  作者: 悠月
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第3夜:賢人と影

老いとは何ぞや

体に刻まれた皴は老いか?

幾年の風雪に耐えた瞳の奥の黒い光りは老いによるものか?

怖れるものがなくなったのは老いたからか?


ああ


だが


我が身一人残されるのはなんと辛いことか




死ななずとは何ぞや

体を両断されても意識があることか?

水に沈んでも思考することか?

不死とは

それは生きているのか?

死が無いものに生はあろうか?



私は


私とは何ぞや

人か?

魔物か?

分からぬ

誰かから見ればそうかも知れぬ

生物か?

それすら私は知らぬのだ


沈殿していく思考

どこで物事を考えているのかもあやふやで

浮上することなど思いもしない

陸に上がれば

月の光の重さに圧倒されて縮み上がってしまう

肺が崩壊し

虚しく口を開閉する



全能とは何ぞや

多くのものが私を知恵と呼ぶが

私は己すら分からないのだ

全能の木とは何ぞや

この数多の智と呼ばれるものに圧迫され硬くなっていく我が身か

この世の全てを知ろうとも

私は人の思考の一つに辿りつけないのだ

『不死の身になりたい』

ああ

なんて贅沢な望みなのだろう

どれほど願っても

私は沈黙しそこにあり続けるというのに

いくら声を張り上げようとも

どれほどの者に届くだろう

過ぎ去ったものに

敬意と共に嫉妬に似た感情を抱く事を

誰が知ろうか



ああ


こんなものなど分からぬほど愚かになりたい


ああ


ソレすらも凌駕するほどに賢くなりたい



それとも


だれかこの身を滅ぼしてくれやしないか


それとも


だれか答えをくれやしないか




私は何者なのか




その言葉を聞き取った君は薄く嗤う

そんなにも愚かしいか

そんなにも哀れか

暗い思考に忍び笑いが響く


『馬鹿だねぇ』


オマエガヒトカダッテ?


マモノ?


『魔物は老いも死も考えやしないよ。』


ソンナコトドウデモイイノダカラ


『破滅を望むのはヒトだけさ』



『愚かしいほど純粋にね』


君は願わないのか?


『私が願うのはワタシの快楽だけさ』


快楽?


『そうとも』





ダケド


イマハ


チットモ楽ナイ



ダカラ






『その身体をよこせ!』







室内を満たしていた闇が突如質量を持った。

人型を取った闇が襲いくる。

長い腕は老人を捕らえ床に叩きつけた。

背中が悲鳴をあげ、開いた口から悲鳴が漏れでる


『そんなに其処にいるのが嫌なのならば、ワタシと同じように冷たい地面を這うがいい』


開いた口から鼻から耳から暗い闇が入ってくる



何ヲスルノダ!




もう悲鳴すらあげられない


『いつも、いつも、いつも付き従ってやっているのに』


ヤメテクレ


『そんなにも厭うならば堕ちてしまえ』


老人の身体が闇色に変化するにしたがって、目の前の人型は色彩を帯びる


『嘆く事も悔やむ事も生きることもいらぬ』




アア







アレハ







ワタシデハナイカ




『今日からお前がワタシの影だ』




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