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月の箱庭  作者: 悠月
3/9

第2夜:夢魔

暗い暗い迷路の中

足元を照らすのは心もとない月の光だけ

私は囚われたのだ永遠に


どれだけ時間が経ったのだろうか

もう時間の感覚など麻痺していて

何百年もぐるぐると歩き回っているようだ


確かなのは頭上の月は一度も欠けていないことだけ

道は増幅し渦を巻き縮小して張り詰める

どれほど大きなものに掴まってしまったのかも見当がつかない


ここを支配するのは

薄暗闇と静寂と狂気と・・・


私はもう抜け出せない


それにすら心地よさを感じてしまうのだから

暗闇は安堵を生み

静寂は安寧を生む

すでに出口などどうでもよいのだ

男は迷路の一部なのだ

そこは男にとって安らかな世界だった


しかし静寂をゆっくりと揺らすものがある

この世界には似つかわしくない不協和音

その音は静かに男の中に響き渡る

その音は暗闇を振動させて黒色を濁らせる




「君はダレ?」





久しぶりに声を出した気がした

男は久しぶりに己を認識したのだ

自分は迷路そのものではないのだと

常に侵蝕され拡大していく世界に置き去りにされたモノなのだと




目の前に現れたのは姿見だ

男は己の姿を垣間見た

忘れたはずの半身を

頬を伝うのは血と同じ温度の透明は雫

月の光を一身にうけてきらりと光る




どうか止めてくれ




この世界を揺らさないで






やっと手に入れた安らぎなのだから









さらに強く音が響く

それは歌のようだ

それに世界を壊される恐怖を感じるのに同じくらい懐かしさがこみ上げる



どうかこの音を止めて




壊れてしまう

世界が

ああ

呼ばないで

その光りに縋ってしまうから


「縋ればいいじゃないか」


声を出したのは歪んだ鏡の中の自分だろうか


「もう私には光りなどいらないのだ」


「本当に?」


「・・・ああ」


光りを求めた結果がこの世界なのだから


「ならば、なぜ光りなど作ったの?」


「え?」



なぜ真の暗闇の世界を創らなかったのだ。

絶望だけで彩るのなら月の光など必要ないではないか。

あれは常闇を照らす光り。


「未だ呑み込まれてなどいないのだろう」


囚われたのなら牢獄で十分なのだ。

迷路など必要ではない。

増幅し、光りまで届く道など求めなくてもいい。



「わたしは・・・」




ああ

わたしは出口をずっと求めていたのか

あの光りに続く道を



「この迷路から抜け出そうとしていたのか・・・」


「そうだよ」




足掻いて足掻いて疲れ果てて眠るまで。

歌が響く。

ゆっくりと優しく漣をたてながら。










「君はダレ・・・?」







どうしてわたしのために歌ってくれているのだろう。

暗闇を包む殻に皹を入れて、淡い光りが差し込んでくる。

一度も欠けたことのない月がかけていき、夜明けがやってくる。


「知っているだろう?」


そこにいるのは自分ではなかった。

鏡に中で不適に笑うのは赤い髪の少年だった。






『岸辺を金色が照らしていく

全てを光りに染め上げて

あなたは言ったわ

明けない夜はないって

おはようと言って

もう一度手を繋ぎましょう』


「そうだね。知っているよ」


あの優しい声の主を自分はよく知っているはずだ


「ああ、はやく起きなくてはいけないね」


寝坊をすると怒られてしまう


「そうだ。早く起きろ」


迷路が開ける。

絡まった道は解れて一本の道になる。

まっすぐに夜明けに続く道へ。

大きな一枚の扉の前にたどり着く。

夢の終わり。

もう一度振り返ってもそこには少年の姿は無い。


「ありがとう」


それだけ告げて扉を開ける。

あまりの眩しさに目を閉じた。





「さぁ起きて

また新しい日がやってくるから」


歌が鮮明に聞こえる。

うすく目をあけると、そこは白い部屋だった。

窓辺には歌声の主がいる。

朝日を浴びた髪が金色に光っている。


「また、おはようと

「おはよう」


少女が振り返る。

顔面を驚きと歓喜で彩って


「シャーナ!」


暖かいものが飛びついてくる。

あの世界には無かった物。

音も熱も匂いも。


「おはよう」


「寝坊のし過ぎよ!どれだけ眠っていたと思っているの」


頭をなでてやると強くしがみ付いてくる。

事故の後、一週間近くも意識不明のまま眠り続けたのだと少女は涙ながらに語ってくれた。


「何をしていたのよ!わたしはこんなにも心配しているのに」


「夢を・・・」


不思議な世界を思い出す。

いつもは曖昧に消えていく夢はハッキリと脳裏に焼きついてはなれることはなかった。


「夢を見ていたよ。とても不思議なね」


けれども誰と会話していたのかは曖昧で、次第に霧のように溶けていった。



















「ボクはね極上の夢を食べる夢魔なんだよ。悪夢を見せて喜ぶような低俗なやからではないのでね。」


歪んだ鏡の中で少年が笑った。


「夢に巣くうなんて愚かしい事だよ。ここは僕たちの境域なのだからね。」


鏡は砕け曖昧な世界は崩壊した。







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