第12話:フ号作戦開始
久方ぶりの投稿です。テスト期間が終わってもしばらく遊びほうけてしまって作成していなかったのが原因です。すみません。
1942年 日本海軍第3機動艦隊。
旗艦を”天城”とする空母3隻を中心に軽巡と駆逐艦11隻が見事な円陣形を作り上げ、堂々とした様子でこの海を航海している第4機動艦隊の任務はフィリピンに拠点を置く、米アジア艦隊を殲滅することだった。今の米アジア艦隊は先ほどのハワイ海戦の時の太平洋艦隊と比べると戦力は少なかった。だが、第3機動艦隊司令官、”田中 博”中将は油断などしていなかった。
「そういえば、第1機動艦隊の様子はどうだった?」田中がすぐ隣にいた参謀に質問した。彼の声は妙に落ち着いていた。
「予定よりも早いペースで進んでいるとの報告です。おそらく合流が予定よりも早まる可能性があります。」参謀は田中の問に淡々と答えた。
「・・・・わかった。」田中は何か考えるような顔つきになったが、決して声には出さなかった。彼自身、予定よりも早く合流することに考えがあった。作戦になにかしら影響が出るのではないかなどいろいろ考えたが、早くなるといっても1日や1週間じゃなくて、数時間程度だから問題ないと彼は判断した。
「全艦、速度少し上げ。」田中は第1機動艦隊にペースを合わせようと巡航速度をやや上げた。
しばらく長い航海が続き陽は落ち、あたりは月明かりがわずかに海を照らす薄暗くも綺麗な世界であった。航海自体は悪くない、いや、意外とよかった。これから戦争をしに行かなければなお良かったかもしれない。田中は誰にも気づかれないようにため息をした。彼は対米戦争反対派だったのだが、戦争が回避できないとわかった時は山本五十六と同じく開戦を決意した。しかし、彼自身にはまだ何とも言えない不安が心底残っていた。
そんなことを思っていると見張り員から味方艦隊を発見したとの報告があった。予定よりもやや早く第3機動艦隊は第1機動艦隊と合流した。この2つの艦隊は”遊撃艦隊”と名前を変え、指揮権を第1機動艦隊旗艦”須佐之男”に搭乗している”吉高 健心”に移った。明日の明朝に遊撃艦隊はアジア艦隊に奇襲攻撃を仕掛ける。今回の作戦に大型水上艦は高千穂型巡洋戦艦のみであった。これは艦隊決戦ではなく航空攻撃を仕掛けるという表れでもあった。現在この遊撃艦隊は巡洋戦艦1隻、空母6隻、軽巡2隻、駆逐艦9隻で構成されている。これより米アジア艦隊殲滅作戦、”フ号作戦”の開始だ。
同時刻:日本帝国 呉造船場
ここ広島県呉市では日本最大の造船場がある。あの大和型や須佐之男型もここで作られ、そして、また新たな艦船が作られていた。その船には飛行甲鈑があり、その形は須佐之男と同じアングルデッキであった。それもそのはずである。この船は須佐之男型2番艦”神楽”である。
「ふむ、建造は順調みたいだな。」
「ええ。おかげさまで。」”神楽”の建造光景をたかもの見物のように見ているのは、帝国海軍技術大佐”松田 敏行”と帝国海軍大佐”吉田 実である。”神楽”の建造に携わっている松田はわかるが、なぜ、一般の海軍軍人である吉田がいるのか。それには理由があった。
「どうですか?日に日に完成していく”自分の鑑”は?」そう、彼はこの”神楽”の次期艦長だった。神楽自体は全体の8割以上が完成していて年末には完成する予定である。
「まったく、上層部も気が早い気がするよ。まだ完成もしていない艦の艦長を今決めることはないのに。」
「きっと今のうちに決めておかないと行けなかった理由でもあったんでしょう。」と吉田の皮肉を松田は答えた。
「理由ねぇ・・・」吉田は少し考えたが、やはり上層部は何を考えているのかわからないものだと思い考えるのをやめた。
南洋諸島 戦艦紀伊
”紀伊”はハワイ沖海戦で有一被害が少なかった戦艦(砲撃の目標が戦艦だったからほかの戦艦は少なくとも近弾などの衝撃で多少の被害が出ていた)で、現在は激戦のあとの少ない休暇を取っていた。フィリピン攻略作戦、通称”フ号作戦”に参加しなかった紀伊はドックで堂々とした存在感を出していた。
そしてここは”南洋鎮守府”。ここでは第4艦隊の今後の予定について会議が行われていた。そこには第4艦隊司令官である石川の他に内地から来た海軍のお偉いさん方がいた。
「え~、”紀伊”と”尾張”についてだが、今後の計画のために、改修を行う予定でいます。」
「改修・・・ですか?」内地から派遣されてきた帝国海軍参謀である”木戸 雅人”が独特のゆっくりとした口調で今後の第4艦隊の計画を言っていった。
「なあに、機銃や対空砲の増設などの簡単な改修だ。そう長くはかかるまい。」木戸は得意げな顔で言った。しかし、そこに反論する者が現れた。それはもちろん石川中将であった。
「木戸さん、簡単な改修とは言いますが。今は戦時中ですよ。我ら第4艦隊の主力艦を少しでも離しておくのは危険ではないでしょうか。」敬語で話しているが、強い口調で石川は言った。それほど、この計画に不満でもあるのであろう。
「落ち着きたまえ、石川中将。」と木戸は石川をなだめるように言うが、あまり効果はない、むしろ木戸の口調のせいか、石川を余計に熱くさせてしまった。
「いいですか。ここ南洋諸島ではかなりの頻度で米国の潜水艦が目撃されているのですよ。それにここは米国海軍の中継拠点であるドラック島やミッドウェイ島とも近いんです。これが何を指しているかわかりますよね。」石川は一文一文を強調して言った。今の石川はかなりの迫力があり、さすがの木戸も少し引き越しになったが、隣にいた木戸の同僚である”池島 静”はこう言い返した。
「まぁまぁ、落ち着け石川中将よ。いくら我が国の数倍の国力を持っているアメリカでも拠点を破壊されて、すぐに復旧して、我々に大反攻作戦を実施するとは考えにくい。それに本当に簡単な改修なのでおそらく1ヶ月で終わると思います。」木戸とは対照的に少し早口な口調で彼は石川を落ち着かせるように言った。これを聞いてか、石川も少し熱が下がったみたいだが、彼らに一言言った。
「では・・改修期間を予定よりもできるだけ早く終わらせてください。」熱を押さえ込んだ声で石川は言った。これを聞く感じには、紀伊型の改修に納得しただしい。
「わかりました。こちらもなるべく努力するように心がけます。」池島はふと木戸の方を見た。木戸は”よくやった”とアイコンタクトをした。それを見た池島はやれやれと一瞬呆れたような顔つきになった。