第十章&十一章
第十章 アリスの思い
「アリスっ…!」
エミルは校内を探し回った。
エミルの心に浮かぶのは
クールで冷静でみんなを思ってくれ、
…"ありがとう"と照れながら言ってくれた
アリスだけだった。
他には何も考えず、ただひたすらに
アリスの事だけを考えていた。
「アリス…アリス…」
そうつぶやきながら
一心不乱にアリスを探した。
だが探しても探してもアリスはいなかった。
エミルはフラフラになって
その場に座り込んだ。
「どこにいるのよ…」
誰にも聞こえないような小さな声で
エミルは言った。
そして目をつぶった。
すると涙が溢れ出てくる。
そんなとき、遠くから
音がしたような気がした。
聞き間違いかも知れないが
練習場から音がした。
「アリス…?」
エミルは立ち上がり、腕で雑に涙を拭くと
すぐ練習場に走り出した。
ガララララ
「…アリス?」
エミルはそこにいた人物に話しかけた。
「エ…ミルか…」
聞き覚えのあるクールな声。
間違いなくアリスだった。
見た感じ、ずっと練習していたようで
アリスの体はボロボロだった。
そしてアリスは倒れた。
「アリス!アリス!しっかりして!」
エミルはすぐ、側に駆け寄り
アリスに声を掛けた。
幸い意識は失っておらず、
エミルの声に応じた。
「探しに来たのか?」
「そうよ…あたしだけじゃない、みんなも」
「私が…私がもっと強くならなければ
皆を守れない…。」
「バカ!!
あたし達だって魔法使いなのよ!!」
「私はさっき、皆を守れなかった…。
仲間を守れないやつなんて最低だ…。」
「そしたら私たちはどんだけ最低なのよ!!
いい?よく聞いて。
アリスは独りじゃないよ…。
いつだって"仲間"がいる。そうでしょ?
だから独りで抱え込まないで…?
私たちも共に戦うから。
私たちもアリスの力になるから…!」
アリスは目をつぶり静かに涙を流した。
「すま…な…かっ…た…
私は…皆の気持ちも…考えずに…」
アリスはこの言葉の先を
涙が邪魔で言えなかった。
「もういいよ。もういいから…
今は身体を休めて…?」
「…ありがとう」
アリスは静かに眠りについた。
第十一章 アリスの秘密
アリスが目を開けたのは次の日の昼だった。
「あら、起きた?」
クローリー先生が優しく笑う。
その笑顔にアリスは自然と安心していた。
「みんなは?」
アリスが不安気に聞く。
「大丈夫、みんな練習場にいるわ」
アリスはクローリー先生の言葉を聞いて
ホッとしたように胸を撫で下ろした。
だがその後、飛び起きた。
「私だけ力がつかなくなるっ!」
アリスはそう言うと練習場に走り出した。
「あらあら、すっかり元気になったのね」
クローリー先生はクスクスと笑いながら
後を追いかけていった。
ガララララララ
アリスは思いっきりドアを開けた。
と同時に「風砲!」と叫んだ。
すると真ん前にいたアニィが
「うわぁっ!」と言ってしゃがんだため
後ろにいたエミルに直撃した。
「いったぁああ!!アリス!アンタねぇ…」
エミルが文句を言おうとすると
ナビがアリスに話しかけた。
「アリスちゃん!具合はもう大丈夫?」
「あぁ。おかげさまでな。
皆、本当にありがとう」
アリスは笑顔で言った。
「ねぇ…アリス。一つ聞いていい?」
メルバが聞いた。
「んぁ?何だ?」
アリスが適当に返事をする。
「あなたは一体何者なの?」
メルバはハッキリ言った。
アリスは少し考えてからこう言った。
「実は私は…魔法王の娘なんだ。」
「なっ!」
「え?」
「そんな!」
「うそっ!」
魔法使いの4人は驚きが隠せていない。
ガララララ
遅れてクローリー先生が入ってきた。
青ざめた4人とその側のアリスを見て
ビックリしている。
「先生、私は魔法王の娘なんだ。」
アリスが言った。
「魔法王…?」
クローリー先生は何がなんだか
分かっていない。
「魔法王…私の父上様は
魔法界をおさめている王なんだ。
そして私はその娘。つまりは…王女だ。」
アリスは丁寧に説明した。
「お…王女?」
クローリー先生が聞く。
「あぁ、そうだ。だから私の本名は
"メトロワ・アリス"ではないんだ。私は…
"ロワイヤル・ジャスティ・ノワール"だ。」
アリスは言った。
「ロワイヤル一家!?」
「ノワール王女様!?」
魔法使いたちからは大量の汗が出ている。
「だから嫌なんだ。」
アリスは言った。
「え…?」
みんな動きが止まった。
「私が王の子だから。私が王女だから。
簡単に近づいてはいけないって思われる。
そのせいで今まで仲良くしてきてくれた
人たちでさえも離れてゆく。
私には…それが耐えられないんだ」
声が震え、
アリスの目には涙が浮かんでいた。
その涙を見た5人は
普段通りに接しようと心に決めた。
「ごめん…アリス。」
そう言って5人は
アリスの横に静かに座った。