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君のいる風景

おつきさまほしい

作者: 蒲公英

大学時代のサークル仲間からメールがあった。

―修也が結婚するらしい。ひやかしパーティーを開催する。

見なかったことにして、携帯を閉じる。


相手には会ったことがある。

仲間内の飲み会に、何回か顔を出していた。

とりたてて美人じゃないけど、とてもいいこ。

あのこが来た時は修也は二次会をパスして、家まで送っていくんだ。

いつもよりも優しい顔をして、あのこの肩をかばうように帰る。

あたしはいつも、グラス片手にそれを見送るだけ。


あたしと修也はとても話が合った。

音楽も映画も本も好きなものは全部一緒で、だからあたしと修也は

いつでも同じ方向を見ているものだと思っていたんだ。

大学を卒業しても、ずっと。


ご機嫌な時には子供みたいな顔をして笑う。

いいね、その笑顔がずっと見ていられるなんて。

照れた時にはぶっきらぼうになる。

いいね、その横顔を覗き込めるなんて。


ふざけて腕を組んだり、冗談めかして口説いたり、あたしにはそれが精一杯で

修也がいつか、やっぱり冗談のように応えてくれるんじゃないかと

子供みたいなご機嫌な笑顔で、こっちを向いてくれるんじゃないかと

口に出したら友達でもいられなくなるから。

もう、それを願うことも終わる。


裸の街路樹ごしに見上げると、枝が突き刺さってひび割れた満月。

手を差し伸べても、けして届かない凍てた月が白い。

おつきさまほしいと泣く子みたいに駄々をこねてみたい。


おつきさまほしい。

修也が欲しい。

おつきさまほしい。

修也が欲しい。


下を向いたらこぼれそうな涙が、目の上で凍ってしまえばいい。


おつきさまほしい。

修也が欲しい。


大きく深呼吸をして、肺に冷たい空気を満たす。

携帯のフラップを開けて、見なかったはずのメールを呼び出し、返信をする。

―もちろん、出席。シアワセな顔をみてやりましょう。

読んでくださって、ありがとうございます。

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