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宅配ボックス奇譚

作者: ゆうすけ
掲載日:2026/09/03

荷物が、一体どこに届けられたのかわからない。

そのせいでイライラすることがよくある。 


「配達が完了しました」と言うメールのどこを見てもどこに商品が届けられたのかわからない。


住人に手渡したのか?宅配ボックスに入れたのか?


母親は商品を受け取ったら自分の部屋の前に置いといてくれる。しかし部屋の前には何も置いてない。


つまり宅配ボックスに入っているのだろう。


わざわざマンションの1階まで降りて行って宅配ボックスを調べても荷物は届けられていない。


部屋に戻り母親に聞いても荷物は受け取っていないと言う。


玄関前にでも置かれてて盗まれたのか?


最終的には郵便受けの中に届けられていた。


別の荷物は、メールを見ると「不在だったため荷物を持ち帰りました」と書いてあった。


大きなため息が出た。宅配ボックスの中に入れておけば良いものを… なぜわざわざ持ち帰るのか?


コンビニに行って、マンションに帰ると配達人が荷物を持って帰るところだった。


女性の配達人の持っている荷物の宛先を見ると、うちに届く予定の荷物だった。


「ご不在だったので…」


「普段は母親がいるんだが、今日は出かけてたんだった、申し訳ない」


だが、と俺は相手をにらみつけて

「宅配ボックスの中に入れておけばいいだろう?」

と言った。


「苦手なんですよね、宅配ボックス」

悪びれもせず彼女は言った。


「苦手とかそういう問題じゃないだろう」俺は声を強めて彼女を責めた。


「宅配ボックスに閉じ込められて出られなくなったやつもいる、宅配ボックスに食べられて死んだ奴もいる、…かもしれない」彼女は大真面目な顔で語った。


「一人前の社会人とは言えない」と俺は彼女をこき下ろした。


「いい年して母親と同居している人間に言われたくないです」いたずらっぽく彼女は言う。こいつふざけてるのか?


「俺が母親と同居してるんじゃなくて母親が俺と同居してるんだ」ため息をついて俺は言った。


「父との関係が険悪になって、俺の家に母が転がり込んできた。俺が母の面倒を見てるんだ」


それにしても何故、そこまで宅配ボックスを避けるのか?

「一体、何があったんだ?お前と宅配ボックスの間に」


「長くなるけど、いいですか?」


俺はうなずくと部屋の中に彼女を案内した。



「まずは私と宅配ボックスとの出会いから始めましょう」彼女は語り始めた。


小さな頃、私はアパート住みで宅配ボックスはありませんでした。


宅配ボックスとの出会いはマンションに引っ越してからです。


私は宅配ボックスには、奇妙に惹かれるところがあり、用もないのに一日中眺めていることもありました。


気がつけば、ふらふらと宅配ボックスに近づき、その中に入ろうとしていた。


そうしようと思ったわけじゃないのに。


そんな自分に気づいて愕然としました。


おそらく中に入ってしまったら、もう出てくることはできなかった。


奇妙ですがそんな確信がありました。


すべての宅配ボックスに、そういう風に感じるわけではない。


宅配ボックスの中に、明らかにおかしいものがある。


宅配ボックスと言うのはいつの間にか日本中に広がりました。


マンションだけではなく駅前にもあったりする。


宅配ボックスの設置を義務付ける法律まで制定しようと言う動きがある。


だがはたしてそんなに必要なのでしょうか?


宅配ボックスは日々増殖している。


そこにとてつもない恐怖を感じる。


ただ単に私の頭がおかしいだけだと言うならそれでいいです。



彼女は宅配ボックスをめぐる話を終えた。


摩訶不思議に感じるかもしれないが、それが俺と彼女の出会いだった。


それ以来、俺も宅配ボックスに引きつけられ、それと同時に強く恐れるようになった。


マンションの入り口で宅配ボックスを眺めているとその1つに無性に入りたくなり、そんな自分に気がついて恐怖を感じたことがある。


俺は何とか宅配ボックスを避けて無事に過ごしていたが、とうとう宅配ボックスに食べられてしまう人が出た。


妻の元に夫から宅配ボックスに閉じ込められて出られなくなったと電話があった。


しかし宅配ボックスを開けても中には誰もいなかった。


夫が宅配ボックスに飲み込まれて消えてしまった、そんなふうに妻が訴えてもマンションの関係者は笑うだけだった。


しかし監視カメラの映像を見ると男が宅配ボックスの中に入っていく様子が映っていた。


妻が駆けつけて宅配ボックスを開くまで他に誰も来ていない。中からも出てきていない。


しかし宅配ボックスの中は空っぽだった。


全員が首をひねり途方に暮れるばかりだった。


男は宅配ボックスに食われて死んでしまったのか?

あるいは別の世界にでも運ばれたのか?


わからない。


確かなことはそれ以降、俺は決して宅配ボックスには近づかないと誓ったことである。


宅配ボックスが恐ろしいだけだったらまだいい。

本当に恐ろしいのは魅力的なことである。


宅配ボックスに入って消えてしまった男は、中に入る時、幸せだったに違いない。


宅配ボックスの恐ろしさと魅力。


そのことを話しても「はあ」と言って全く理解してくれない人も多い。


宅配ボックスと波長が合う人間とそうではない人間がいるのかもしれない。


自分は前者だった。


だったら自分の身は自分で守らなければいけない。


ちょうど母が父と和解して実家に帰ったので、事件以降、すぐマンションから引っ越した。


古い一軒家を借りてそこに住むことにした。


なぜならマンションだと、どこも宅配ボックスがあるからだ。


今はなかったとしてもやがて設置されてしまうかもしれない。


そう考えるとマンションには住めない。


荷物を受け取れない時は玄関の側に置いといてもらう。


盗まれてしまう可能性もあるが宅配ボックスを利用するよりはマシだ。


妻もそれで納得してくれている。


隣で眠る彼女を見る。


宅配ボックスに、唯一良いところがあるとしたら、彼女と出会うきっかけをくれたこと。


苦手なんですよね、宅配ボックス。 


そんなふうに彼女は言った。


今でもその時の彼女の姿を思い出す。


そんなふうに出会った相手が後に自分の妻になるとは不思議なものである。


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