#1-3:最悪の可能性
「引き続き、応援・お付き合いのほど、よろしくお願いいたします!」
【前話のあらすじ:魯国の斥候隊を滅し、龍牙関に辿り着いた志文と芳蘭の百人隊。王都からの援軍もなく、兵站が切られている龍牙関において、志文は兵士たちの"よりどころ"になろうとするのだが……】
軍議の間は、重苦しい空気を放っていた。
「で、どうするのだ?」
韓忠が志文に諦めたように尋ねる。
「今から考えます」
誰も驚きはしなかった。
そもそも、戦場に到着して、ものの数分も経っていないのだ。
策などあろうはずがなかった。
「おいッ!嘘を言ったのかッ!」
将校の一人が声を荒げる。
「ああ、そうだ」
当然のように答える。
愚問をする将は、愚かな将だと思ってしまう。
そもそも、自分たちより先に龍牙関に入っている将でさえ、なんの策も思いつかないのだ。
ものの数分前に到着した、ただの一兵卒が策を献じようものなら、それこそ疑われる。
だいたい、公孫穆のことすら、よく知らないのだ。
あの場で嘘をつく以外のことができただろうか。
「貴様ッ!よくもぬけぬけとッ!」
その将校は、志文に今にも掴みかかりそうな勢いだった。
韓忠は静観していた。
既に、猛攻に晒され続けてきた将校たちの不満をどこかで抜いてやる必要があった。
「うるせぇ!黙ってろッ!」
韓忠の隣の将が、声を荒げた。
陳豪。
それが、圧した将の名前だった。
韓忠の配下の百人将の一人。
「なっ!貴様ッ!私は貴様の上官なのだぞッ!」
陳豪は、そんな声を無視するかのように、志文に声を掛けた。
「もし、あんたがあそこで、ああでも言ってなけりゃ、そもそも三日も持たなかった。感謝するぜ」
志文は軽く会釈すると、龍牙関の地図をじっと見つめる。
公孫穆の布陣は完璧だった。
少なくとも、正面から崩すのは、今の時点では難しいように思えた。
第一に兵数の差。
衛国軍は五千に対し、魯国は五万。
加えて、衛国軍に援軍は来ない。
送れないわけではなく、送らないのだ。
そして、その事実すらも魯国に筒抜けなのだ。
でなければ、龍牙関など、とうに人海戦術で落とされている。
第二に士気の差。
辛うじて、道を示したとはいえ、具体的な策がない以上、軽率に動くのは危険だった。
「正面に布陣しているのは、本当に五万なのですか?」
それは、ふと湧いてきた疑問だった。
兵站が切られていることを知っているとはいえ、孤立させない公孫穆のやり方は少し軽率なように思えた。
あえて、隙を見せている。
確かにその可能性もあったが、兵站が切れているなら、包囲して待つ方がより確実なように思えた。
「そのはずだ」
韓忠は、少し間を置いて答えた。
「確認はしていないのですね?」
「ああ」
「しかし、仮に五万でなくとも、減ることはあり得ぬ。状況は変わらぬぞ……」
韓忠が誰に聞かせるでもなく呟く。
コンコン。
「りゅ、劉勇です……入ってもよろしいでしょうか?」
か弱そうな声だった。
「入れ」
韓忠の言葉で、一人の将が入ってくる。
「どうした?」
韓忠の穏やかな問いに、劉勇は口ごもった。
その様子は、気が小さいというより、どこか慎重であるように思えた。
「そ、その……」
「劉勇!もったいぶらずに言ってくれ!慎重なのはいいことだが、慎重すぎるのも考えものだぞッ!」
陳豪が声を荒げる。
臆病者。
そう罵る声が、先程から、あちこちで聞こえていた。
陳豪の一喝は、その声を静めるための一喝にもなった。
「わ、わかった」
息を大きく吐き出すと、劉勇は話し始めた。
「公孫穆軍の軍容が少し変わりました。右翼の兵が少し薄くなったかと……」
「かと……だと?」
将校の一人が劉勇に歩み寄る。
「貴様はそんな不確定で、些細な情報のために、この軍議を邪魔しに来たのかッ!!」
「ひッ!お許しをッ!」
劉勇が怯えたような声をあげる。
完全に怖気づいている。
臆病であるという判断もあながち嘘ではないのかもしれない。
「落ち着きましょう。先程、仰られたように、ここは軍議の場。声を荒げることもまた、控えるべきでは?」
将校は口を噤んで、自席に戻っていく。
「志文。そなたは、劉勇の情報をどう見る?私には、全くわからん。さほど、重要ではないように見えるが……」
周りの将校が、韓忠に同意するように、頷いている。
「少なくとも、私には、それを判断するのは、早急なように思われます。右翼の兵が薄くなったというのは、どの程度のものですか?」
劉勇は黙っていた。
答えを出すのに少し時間がかかった。
声を荒げる者はいなかった。
つい先ほど、志文に口を閉ざされた将を見たばかりだった。
同じ轍を踏む者は流石にいないようだった。
「五百騎ほどかと……体感で少し減った。そう思えるほどの数ですので……」
五万から五百騎が減った事を見抜ける将が果たして何人いるだろうか?
「そうですか……情報、感謝します」
「あ、はい!」
劉勇が頭をペコリと下げる。
たかが一兵卒に頭を下げる百人将。
「劉勇!お前は百人将なんだッ!その自覚を持てッ!」
陳豪の言葉に、劉勇はあたふたと、頭を下げる。
情けないとは思わない。
自分に自信がないのだろう。
「将軍。百人将の李 芳蘭の隊を借りてもよろしいですか?」
将校の間にどよめきが起こる。
一兵卒が、隊を率いる。
「構わぬ」
韓忠の言葉に、将校たちは口々に不満を口にした。
「なりませぬ!多少、頭がキレるのは認めますが、将となるのは反対です!」
「その通りです!将は……」
「そなたたちが何を言っても、この決断が変わることはない」
韓忠の決意は固いようだった。
「して、志文、そなたは何をするつもりだ?」
「少し、調べに」
それは、志文が考え得る可能性の中で、最も最悪の可能性を確かめに行くためであった。
「どういうことだ?」
韓忠の問いに志文が答えることはなかった。
確証がないことは言うべきではない。
特に、今回のような、戦自体が囮などという世迷言は。
「そうか……わかった」
韓忠は、訝しむ将校たちを前に、「行け」とでもいうように、右手を振った。
志文と芳蘭が退出すると、軍議の間は再び、重苦しい空気に包まれた。
「皆、策を練るぞ」
公孫穆を崩す策ではない。
三日間、兵士たちの命を預かると言った男が、この戦場から姿を消すのだ。
いつ戻ってくるかもわからない。
そして、戻ってきたとて、この戦を終わらせられるかもわからない。
誰も不満を口にしなかった。
それは、この戦の不気味さを各々が感じ取っていたからである。
公孫穆は何を考えているのか。
魯国の思惑は一体何なのか。
そのあてのない答えは、今や一人の一兵卒に託されたのであった。
【お読みいただきありがとうございます!】
次話は、「新たな仲間の登場」です!
ふっと二言:「今日はどこかで、新作を投稿できればと思っております……どうぞ、よろしくお願いいたします!」
~これからも、応援・お付き合い頂ければ、幸いです!~
—―—―—―—―【他作品もよろしければ!】
更新をお待ちいただく間に、こちらの作品もご一読いただけると幸いです!
―――
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