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幼女になった落第聖女ですが、騎士団で女神と呼ばれています〜騎士公爵様がお探しの最愛はすぐ側に〜  作者: 海空里和@電子書籍2冊発売中!
第一章 出会いのジャムパン

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出会いのジャムパン③

 入口に立つ騎士様はシルバーの髪と、金色の切れ長の瞳が冷たい印象を与える。整った鼻筋に形の良い唇は、美形という言葉が当てはまるだろう。小さな店の中で存在感を醸し出す長身の彼は、何ともこの場に似つかわしくない。


「あの……申し訳ございません。今日は完売いたしました」

「そうか……」


 胸ぐらを掴まれたまま答えれば、彼の視線は動かないまま、こちらにまっすぐ向かって来た。


「ひっ! く、黒騎士――」


 騎士様は有名な方なのだろうか。領地に引きこもる情弱なわたしは、目の前で怯えるヘーゼル伯爵家の使いをぽかんと見る。


「……ヘーゼル伯爵家のところの文官か。貴族が他領の民に危害を加えるとはいただけないな」

「わ、私はただ――……それに、こいつは……ひっ!」


 わたしを掴んでいた男性の腕を騎士様がギリギリと掴む。すごい力なのか、男性の顔が瞬く間に苦悶で歪み、わたしの服から手が離された。


「このこと、報告させてもらうぞ」

「ひっ! それだけはご勘弁を!」

「では、二度とこの店に近付くな」

「は、はいっ~」


 青ざめた男性は騎士様にへこへこ頭を下げると、勢いよく店を飛び出していった。

 ぽかんとガラガラ鳴る扉を見つめる。


「あっ! あの、ありがとうございました!」


 我に返ったわたしは、目の前の騎士様に慌てておじぎをした。


「いや……貴族だからとその権力をむやみに民に振り回していいものではない。気にするな」


 ぶっきらぼうにそう告げる騎士様は、冷たそうに見えるが良い人に違いない。わたしをブルーベル領民として尊重してくれている。


(ヘーゼル伯爵家に意見できるなんて、位の高い家門の方かしら?)


 社交の場に出ないわたしには、騎士様がどこの家の方なのかもわからない。それと同時に、騎士様がわたしを知らないのも当然だ。


「……では」

「え!? 待ってください!」


 早々に立ち去ろうとする騎士様を慌てて呼び止める。


「なにか?」


 騎士様は無表情のまま振り返った。優しいのに表情が乏しい人だなと思いながら続ける。


「パンを買いに来られたのですよね? お礼にプレゼントさせてください」

「いや、いい」


 騎士様はわたしの謝意をあっさりと断った。


「え……でも、わざわざ王都から来られたんですよね?」

「ああ……騎士たちが美味いと言っているから、一度買って来いと……」

(おつかい!? 偉い人じゃないの!?)


 少し拗ねたように騎士様が言うので、わたしは思わず可愛いなと笑ってしまった。


「なら、なおさら持っていってください」

「……いいのか?」

「はい」


 くすくす笑うわたしに、騎士様はバツが悪そうに頷いた。


「それでは……お言葉に甘えよう」

「はい! わたしはこのパン屋の店主ですので遠慮なさらないでください、騎士様」

「そうか。ありがとう、店主殿。俺は騎士団所属のライアンだ」

「ライアン様」


 ほんわかとした空気がわたしたちの間に流れる。

 この人いいな、なんて思ったのは内緒だ。ライアン様は紙袋に詰めたジャムパンを受け取ると、会釈をして店を出ていった。


「アリッサ様! 大丈夫でしたか?」


 瞬間、従業員たちがわっとわたしを囲む。


「大丈夫よ。騎士様が助けてくださったから」

「見た目冷たそうで怖いけど、イケメンでしたね!」

「ロマンス始まりそうですか?」

「もう、なに言ってるの! ほら、配達分作るわよ」


 きゃっきゃっと盛り上がる女子たちに手を叩く。みんな「はーい」と言いながら厨房に戻っていった。


(騎士様かあ……また来てくれるかな?)


 聖女だったならば、彼と出会う機会がまたあったかもしれない。でもわたしはパン屋を営むただの小娘で。彼がまた買いに来てくれなければ、関わることもない人だ。

 ぶっきらぼうで優しいライアン様の姿を思い浮かべて、わたしは大きく溜息をついた。


 ♢ ♢ ♢


 十年前、わたしは王都の神殿で聖女の鑑定を受けた。

 聖女を母に持つわたしは期待されており、当然聖力を持つものだと思われていた。しかし、わたしに聖力はなかった。偉大過ぎる両親を持つのに落ちこぼれだと周囲からは言われた。

 そしてたまたま神殿に供えられていた果実に触れてしまい、それらをジャムにしてしまったのだ。わたしのへんてこなスキルに神官たちは戸惑った。当時、すでに聖女認定を受けていたセシリア様には「気持ち悪い」と軽蔑の目で見られた。


 八歳だったわたしにはそのことが耐えられず、領地にこもるようになった。デビュタントも行っていないし、社交の場にももちろん出ていない。両親のおかげでそれが許されたし、二人も何も言わなかった。


 領民みんなのおかげで今はこの力を働くことに活かせて、好きになれた。でもやっぱり悪意に晒されれば、あのときの気持ちがよみがえってしまう。


 聖女は魔気を払う存在として、この国になくてはならない存在だ。

 魔物が放つ魔気は、人体に影響を与える。特に魔法騎士を要する騎士団は、魔物と戦うことで魔力が淀んでしまう。聖女の聖力だけがそれを払える。国を守る騎士を支える聖女は、この国の宝なのだ。


 その宝である元聖女のお母さまの娘なのだから、期待されるのはわかる。しかし、がっかりしたからと無能だとまで言わなくてもいいではないか。


「アリッサ様、ストップ! ストップ!」


 回想で腹を立てていたわたしを従業員の一人が止める。


「あ……」


 わたしはジャムに変わった手元のフルーツを見て苦笑した。ドロドロになっている。


「これは他のものに使ってください」

「ごめん……」


 わたしは意図しようがしまいが、フルーツを触っただけでジャムにできる。今ではその粘度までもコントロールできるのだが、怒りに任せてやってしまった。ジャムパン用のジャムには使えないほどドロドロになってしまっている。


(材料を無駄にしちゃった……)


 反省していると、店の扉が鐘を鳴らした。


「アリッサ、今日の仕事は終わったかい?」

「お父様? どうしたんですか?」


 突然の領主の登場にみんな慌てふためいているが、わたしは厨房を出てお父様の元に駆け寄った。


「ああ。ハリソンから君に手紙が届いたんだ。至急のお願いがあるらしい」

「お兄様が?」


 最近は領地に顔を見せないお兄様の突然の知らせに、わたしは何事かとすぐに手紙を受け取った。

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