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幼女になった落第聖女ですが、騎士団で女神と呼ばれています〜騎士公爵様がお探しの最愛はすぐ側に〜  作者: 海空里和
第三章 騎士団の小さな女神

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騎士団の小さな女神⑥

「みんな、お待たせ!」


 わたしは出来上がったジャムパンを抱えて救護室に戻った。


「あ~リーサちゃん!」

「もしかしてその手のものは……?」

「ジャムパンですよ!」


 ベッドに横たわる騎士たちは、弱いながらも歓声をあげて喜んでくれた。


「おう、リーサ、こいつらがまた無茶言ったんだって? 運ぶの大変だろうとテオを向かわせたが、ちょうど出来上がってたみたいだな」

「はい! リーサの仕事は早いですから!」


 パンを一緒に運んできたテオがニコニコと答える。わたしも口元をひくひくさせながら笑った。

 けっきょくテオは秘密を守ってくれるらしい。パンにジャムを詰めるのを手伝ってくれ、ここまで一緒に来た。


(いい人だけど……夢のために好きでもない子どもと婚約しようなんて……)


 テオの考えは理解できないけど、どのみちリーサは存在しない。


(このまま元の姿に戻れなかったら……)


 急に不安が襲う。この姿のまま、隠れて生きていくことになるのだろうか。ぶるりと身体を震わせていると、室内を陽気な声が飛び交った。


「う、うまあ~!」

「しみる~! これ、これだよ!」

「ああ、生きて帰ってこられて良かった!」


 クレイブさんとテオが騎士たちにパンを配ってくれたらしく、さっそく食べた騎士たちが涙を流して喜んでいる。


「みんな、無事に帰ってきてくれてありがとう」


 改めて命をかけて国のために戦う騎士たちに深謝する。


「それは俺たちの言葉だよ~」

「そうそう! リーサちゃんのおかげで力がみなぎるし!」


 大げさだと思うけど、そんなふうにわたしの作るもので喜んでくれる騎士たちの心が嬉しい。……って、あれ? 


「みんな! 急に起き上がって大丈夫なの?」


 気づけば騎士たちがベッドから身体を起こし、腰を掛ける姿勢でおかわりのパンを食べていた。


「え~? リーサちゃんのジャムパンが美味しすぎて元気になったかな?」

「ジャムがさっぱりしてて、いくらでも食べられるよな!」

「いやいやいやいや……」


 わたしのジャムパンにそんな効力はない。


「聖水がやっと効いてきたんじゃないか? 今回、大量に魔気を浴びたんだろ?」

「そ、そうですよね!」


 クレイブさんの言葉にわたしはうんうんと頷いた。あんなに辛そうだった騎士たちの顔が今は笑顔だ。


「そういえばライアンは?」


 落ち着いたところで救護室の中を見渡す。ライアン様は別のところにいるのだろうか?

 首を傾げるわたしに、騎士の一人が言い辛そうに答える。


「実は……今回、団長と副団長の隊で別れて討伐をしていたんです。団長の隊にいた俺たちの前に大型の魔物が現れて……」

「団長が応戦している間に副団長の隊を呼びに行って……それでなんとか倒したんです」

「ライアンも怪我をしたの!?」


 騎士たちの説明にわたしは前のめりで叫んだ。


「いや、団長は怪我をしていないです。でも誰よりも魔気を浴びたはずなのに……」

「そういえば団長はいつも涼しい顔をしているから気づかなかったが、誰よりも魔気を受けているよな」

「俺たちよりも前に出て戦う人だからな」

「団長……大丈夫かな?」


 騎士たちがしんみりしたところで、ルース様が部屋に入って来た。


「あれ? お前たちすっかり元気だな」

「ルース様!」


 驚いた顔で騎士たちの顔を見渡すルース様にわたしは駆け寄った。


「ライアンは!?」

「……団長なら報告書を作成するために執務室へ行ったよ」

「なーんだ! さすが団長! もうお仕事されていたんですね!」


 ニコッと笑ったルース様に騎士たちが安堵の顔を見せる。


(違う!)

「リーサちゃん!?」


 ライアン様はまた一人で苦しんでいるに違いない。気づけばわたしは執務室に向かって走り出していた。


(ライアン様は騎士たちのために呪いを隠していた。ルース様もその意を汲んで心配させまいとああ言ったんだわ!)




「ライアン!!」


 執務室の扉には鍵がかかっていた。わたしが使っている続き部屋から執務室へと続く扉を勢いよく開ければ、ライアン様はソファーに上半身を預けるように顔をうずめていた。


「ライアン!?」

「あ……あ……リーサ……か……心配……ない」

「喋らないで!」


 どうしてこんなときに限って笑ってみせるんだろう。

 普段は無表情なライアン様がわたしを心配させまいとしているのが伝わって涙が出てきた。


「聖水は!?」


 泣いている場合ではないとライアン様の背中をさする。


「しば……らく、こうして……だいじょう……」


 ライアン様はそう言うと身体を反転させ、ソファーにもたれかかった。前に見たときよりもライアン様は苦しそうだ。魔物の魔気にあてられても、しばらくすれば良くなると言っていたけど……。

 わたしはライアン様の詰襟を緩める。急いで走ってきたから、ハンカチを持っていない。


「ライアン、しっかりして」


 わたしは手袋をはずして折りたたむと、ライアン様の額の汗を拭った。


「てん……しゅ殿?」


 意識を朦朧とさせるライアン様が何か呟いた。でも苦しそうな息遣いにかき消されて聞き取れなかった。


(呪い……赤くなってる)


 前に見た黒い紋様は、赤く浮き上がっている。魔気を浴びたせいだろうか。


(これがライアン様を苦しめて……どうすれば治るの?)


 ぎゅっと唇を結び、わたしはライアン様の呪いに触れた。


「うっ」

「きゃっ!」


 ――瞬間、あのときとは比にならないほどの痛みが手に走った。バチバチっと火花が散ったような衝撃に思わず手を離す。


「リーサ……?」

「ライアン! 大丈夫!?」


 覚醒したライアン様と目が合い、わたしは彼を覗き込んだ。


「あ、ああ……」


 大きく目を見開いたライアン様は、まだ呆然としているようだが、汗は引いている。どうやら呪いが落ち着いたようだ。


「良かった……」

「リーサは俺の呪いのこと、ハリソンに聞いていたんだな」


 涙ぐむわたしにライアン様が頭を撫でてくれる。


「う、うん」


 わたしは咄嗟に話を合わせる。アリッサのときに偶然知ってしまったとは言えない。


「聖水は飲んだの?」

「はは、リーサは小さなルースみたいだな」


 それって日頃からルース様が言わないと聖水を飲まないのかしら? ぷうっとわたしが頬を膨らませてライアン様を見れば、彼はわたしの頭を撫でながら苦笑した。


「飲んでおくよ。リーサに心配はかけられない」


 そう言ってライアン様は立ち上がると、本棚まで歩いていった。


(あれ? でもさっきまで身体を動かすのも辛そうだったのに、本当に時間が経てばやり過ごせるんだ)


 それでもセシリア様が呪いでライアン様を殺そうとしていたのは明白だ。


(呪いだとじわじわ奪うしかないから、毒で殺そうとしたのね……お兄様もセシリア様が焦っているようだと言っていたし……)

「ああ、あった」


 わたしが考え込んでいるうちに、ライアン様は本棚の隅に置いてあった瓶を取り出した。わたしはその瓶を見てぎょっとした。


「ライアン!? それっ!?」

「ああ。神殿から団長である俺に与えられたものだ。なんでも、聖女殿が時間をかけて聖力をこめた聖水らしい。今日は魔気を受け過ぎた。呪いは落ち着いたが、魔力がまだ淀んでいる。ありがたくいただこう」

「待って!!」

「リーサ?」


 わたしは慌ててライアン様を止めた。だって、そのオーロラ色に輝く瓶をわたしは知っていたから。


(まさかもうライアン様の手に渡っていたなんて……!)


 セシリア様から神殿へ、神殿から騎士団長の手に渡るのなんて容易なことだろう。だからこそお兄様はわたしにライアン様の側にいろと言ったのだ。


(守られるんじゃなくて、わたしがライアン様を守るのよ!)


「どうした?」


 屈んで視線を合わせてくれるライアン様に、わたしは懇願する。


「ライアン、それ飲まないで」

「……リーサが飲めと言ったんじゃないか」

「それ、聖水じゃない!」

「……リーサは聖水を見たことがないだろう?」


 子どものわがままをあやすように、ライアン様がわたしの頭を撫でる。


(どうしよう……毒かもしれないのに)


 国で唯一無二の聖女が作った聖水、王家の庇護下にある神殿。子どものわたしが言う言葉と天秤にかければ重さが違う。それを瞬時に理解して、わたしは黙ってしまった。ライアン様は王家に忠誠を誓う公爵で、騎士団の団長だ。神殿を、聖女を疑うなどできないだろう。


 ここにきてお兄様が側にいろと言っていた意味を理解する。


「リーサ、ちょっと待っていろ。一緒に食堂へ行こう。今日はリーサお手製のソースを使った料理だと料理長が言っていた。楽しみだ」

「あ……」


 すっかり忘れていた。わたしも、みんなやライアン様に食べてもらえるのを楽しみにしていた。けど。

 ライアン様が瓶の蓋をきゅぽんと取り外す。わたしの目の前でそれを口まで運ぶライアン様を見て、思わず手を伸ばした。


「リーサ!?」

「飲んじゃダメです!!」


 わたしはライアン様から瓶を奪うと、抱え込んで叫んだ。


「リーサ、返すんだ」


 じりじりと幼い子に言い聞かせるように、ライアン様の手がわたしに伸びる。

 わたしはぎゅっと目をつぶると、瓶の口を唇に付けた。


「何しているんだ、リーサ!」

「これを飲んだら、ライアンが死んじゃう!」


 わたしは涙目でライアンを見上げると、瓶の中身を一気に飲み干した。


「うぐっ……」


 喉が、胸が焼けるように熱い。あのときと同じ毒だ。


「リーサ!」


 その場で崩れ落ちたわたしを、ライアン様の逞しい腕が抱きとめる。


「飲まないで……」

「わかった! わかったから……しっかりするんだ、リーサ!」


 必死に訴えるわたしは、そのまま意識を失っていった。めずらしく声を荒げるライアン様の呼びかけだけが、いつまでも耳に残っていた。

沢山のお話の中からお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じていただけたら、↓評価☆☆☆☆☆を押して応援していただけると励みになりますm(_ _)m

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