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幼女になった落第聖女ですが、騎士団で女神と呼ばれています〜騎士公爵様がお探しの最愛はすぐ側に〜  作者: 海空里和
第三章 騎士団の小さな女神

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騎士団の小さな女神④

「リーサのジャム、食事にも使えそうじゃない?」

「食事に?」


 今日もライアン様と朝食を終えたわたしは、厨房で皿洗いをしている。

 隣で皿を拭くテオが楽しそうに話す。ちなみにライアン様とクレイブさんの約束により、テオは必要以上にわたしに近付くことはなく、距離を保っている。


「そう。リーサのお菓子を見ていたら、ジャムの粘度まで調節できるんだろ? あの量を夜のうちに一人で作っちゃうなんてすごいよ!」

「あはは、ありがとう」


 果実に触れるだけで一瞬にしてジャムにしているとは言えない。下処理必要なし、火加減必要なし。考えてみれば、便利なスキルよね、うん。


「それでさ、肉料理に果実のソースを使ったりするだろう?」

「ベリーとかオレンジとかね!」


 ピンときたわたしに、テオがにかっと笑う。


「そう! さっすがリーサ! 夕食の肉料理にリーサのソースを添えたら騎士たちも喜ぶと思ってさ!」

「それいいわね! 今日はおやつの時間もないし」


 今日は魔物退治の日だった。そんな日でも騎士たちは変わらず笑顔で朝食を平らげ、出かけて行った。

 ライアン様も「また夕食の時間にな」とわたしの頭を撫でていってくれた。

 今日は王都から近い山林区域の討伐のため、夕方には帰ってこられるらしい。魔法省専用の汽車があるからあっという間だ。


「リーサが夕食も手伝ってくれるならありがたいな!」


 拭き上がった皿を運ぶためにクレイブさんがやって来て、がははと笑う。


「あ、でも……ソース作りは……」

「ああ。ブルーベルの領外秘だもんな。仕込み時間の前を厨房立ち入り禁止にするから、その間に作ってくれるか? リーサはいつも仕事が早いから助かるよ」

「ありがとうございます」


 わたしもあははとクレイブさんに笑顔を向けた。


(ソースを作るには粘度を緩くすればいいだけだから……あとは味ね)


 果実を変化させるのはあっという間だ。あとは果実の甘さや酸味のコントロール。必要があればスパイスだって加える。そうして作ってきたジャムは製菓のためのもので、料理に使うのは初めてだ。

 わたしはジャムスキルの新しい可能性にわくわくした。


 片づけを終え、わたしは食堂でクレイブさんに夕食の肉料理について話を聞いた。


「今日は討伐帰りの騎士たちを労うためにもチキンステーキだ! 仕入れたチキンはジューシーで脂がのっているからな。さっぱりとしたソースで仕上げたい」

「さっぱりですか。オレンジが合いそうですけど、手に入りますか?」


 紙にペンを走らせ、クレイブさんが料理の絵を描いてくれる。

 それは絵だけでも美味しそうで、クレイブさんの別の才能にわたしは驚かされた。


「オレンジか……ギリギリ城下町には出回ってるだろうな。よし、仕入れてくるから待ってろ!」

「クレイブさんが直接行くんですか!?」


 ぎょっとするわたしにクレイブさんがにかっと笑う。


「おうよ! 人手不足になる前はよく朝市に出て自らの目で見てたもんよ! まあ今は信頼する業者に頼んであるが、たまには見に行かないとな! リーサも来るか?」

「わたしは……」


 王都の街は人が多くて苦手だ。しかも今はこんな小さな身体だし、万が一にもセシリア様やジョセフに見つかるリスクは避けたい。

 考え込んでいると、クレイブさんはわたしの頭に手を置いてにかっと笑った。


「団長の許可なく連れ出したら、おれが怒られるな」

「すみません……」

「謝るな、謝るな! 手間をかけさせているのはおれたちなんだから!」


 ライアン様とはまた違ったゴツゴツした大きな手。お父様と同じ職人の手だ。その手の温かさに胸がほわんとなる。


「ありがとうございます」


 わたしがお礼を告げると、クレイブさんは親指を立ててにかっと笑った。それから話を終えたグレイブさんは、城下町へと出かけていった。


 ♢ ♢ ♢


「できた……!」


 いつもなら騎士たちにおやつを運ぶ時間。わたしは夕食用のオレンジソースを完成させた。

 鍋で煮込んだように見せるため、オレンジは鍋の中でトロトロのジャムに変化させた。果実感はチキンの触感を邪魔しないよう、ほんの少しだけ。塩こしょうで少しピリッとさせつつも、爽やかな味に仕上がった。


「あとはクレイブさんに味見をしてもらって……」


 小皿にソースを取り分けようとしたそのとき、厨房の外から怒号が聞こえた。


「おい! 早く聖水を持って来い!」


 厨房は今立ち入り禁止のため、こんなときでも誰も入ってこない。わたしは何事かと厨房を飛び出した。


 厨房を出て食堂を通り過ぎれば、料理人たちがバタバタと走って来る。


「ねえ、どうしたの?」

「あ、ちょうど良かった、リーサ! 聖水を運ぶのを手伝ってくれ!」

「騎士たちがもう帰ってきたの? 予定より早くない?」


 ただごとではない雰囲気に、わたしも息を呑む。


「報告になかった大型の魔獣が出没したらしい! 同行した治癒魔法の使い手に怪我の治療はしてもらっているが、魔気を大量に受けたらしいから、ストック分の聖水も解放しないと!」

「わかった。手伝うわ!」


 初めてここに来たときのことを思い出して、わたしは震えた。あのときよりも酷い状況ということだろうか。


 倉庫に着くと、大量の聖水が木箱に保管されていた。


(聖水ってセシリア様が作っているんだよね……)


 毒を作るような聖女が騎士たちの聖水を担っているなんて不安だ。


(でもセシリア様の狙いはライアン様で、さすがに騎士団全員に手を出すことはことはないはず……。あんなに足が付くことを懸念していたのだから)


 わたしが騎士団に滞在してからも騎士たちは魔物討伐に出かけ、聖水を口にしている。問題は見られなかった。


「よし、運ぶぞ!」


 聖水の数を確認し終えた料理人の声で我に返る。


 今は一刻も早く聖水を騎士たちに届けなければ。

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