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幼女になった落第聖女ですが、騎士団で女神と呼ばれています〜騎士公爵様がお探しの最愛はすぐ側に〜  作者: 海空里和
第三章 騎士団の小さな女神

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騎士団の小さな女神③

「みんなー! お疲れ様ー!」


 稽古の休み時間。騎士たちが剣を下ろしたタイミングで、わたしは野外にある稽古場に向かって叫んだ。


「リーサちゃんだ!」

「うおー! おやつタイムだー!」


 騎士たちから歓声があがる。わたしはくすくす笑いながらワゴンを押して近付いていく。

 あのクレープを振る舞った日から、からわたしは騎士たちからおやつの差し入れもお願いされるようになった。


『リーサ、仕事を増やしてすまん。でもリーサのジャムのおかげで騎士たちの表情も明るくなってるんだ。おやつの時間も頼まれてくれないか? その代わり夕食の仕込みは手伝わなくていいからさ』


 クレイブさんにそう頼み込まれて、わたしも笑顔で了承した。

 ジャムを作る量が増えようが、わたしには問題ない。果実に触れれば一瞬で作れてしまうのだから。


「リーサ、今日も騎士たちのためにありがとう」


 わたしのところまで駆けつけたライアン様が、ワゴンを押すのを変わってくれる。

 ライアン様の表情は相変わらず変わらないけど、口元が優しく上がるようになったと思う。そんな些細な変化にわたしも気づけるようになって嬉しい。


「わたしの作るジャムでみんなを笑顔にできているなら嬉しいです」


 ライアン様にそう言えば、いつものように優しく頭を撫でてくれた。


「うめ――!」

「くうー染みわたる~!」


 休憩に入った騎士たちは、緑のある場所に腰を下ろし、思い思いに今日のおやつを食べている。


 今日のおやつはパイナップルケーキだ。固めに焼いたパウンドケーキに、果肉感を残したパイナップルジャムをふんだんに詰め込んでいる。


「じゃあ俺たちもいただくか」


 ライアン様とルース様は木陰に敷物を引くと、座って地図を広げ始めた。この二人は休憩中でも仕事をしていると差し入れをするようになってから知った。


「リーサ、おいで」

「……はい」


 手招きするライアン様にわたしはうっと躊躇い、観念して靴を脱ぐ。敷物の上に足を踏み入れれば、あっという間にライアン様の膝の上だ。

 朝食と夕食時はさすがにやめてもらったけど、このおやつの時間の間だけはライアン様のお膝の上がわたしの定位置になってしまった。


「今日も美味いな。ありがとう」


 ライアン様はわたしの頭を撫でると、また地図に視線を戻した。ルース様がニコニコこちらを見ていて、いたたまれない。


(うう……慣れない。でもライアン様を安心させるためだもの)


 熱い顔を横に振り、わたしもパイナップルケーキにかぶりつく。ライアン様とルース様は次の魔物討伐について地図を見ながら話しているようだ。


(いくら子どもとはいえ、軍事機密をこんな近くで話してくれるのって、信頼されてるからだよね)


 木陰のためさわさわと通り抜けていく風が涼しくて心地いい。


(あ~、平和だなあ……)


 ここに来て二週間が経ったが、いまだ何も起こらない。ライアン様も呪いで苦しんでいる様子はない。


(このまま何も起きなければいいのに)


 騎士団での生活も楽しくて、すっかりリーサとして馴染んでいる。何より、ライアン様の側が心地よくて、離れがたくなってしまっている。


(だめよ……わたしは本当は十八で……優しくしてくれるのは子どもだからなんだから)


 それでも、あの日わたしを助けてくれたライアン様が、アップルパイを美味しいと言って食べてくれた優しい彼が、今でもわたしの心を占めている。


(わたし、ライアン様のことを……?)


 ライアン様の近くで過ごし、彼を知れば知るほど惹かれていくのは当然だと思う。


「――サ」


 耳障りのいい声が聴こえる。ああ、わたしは彼を守り切れるのだろうか。ライアン様に何かあったら――。


「リーサ」


 パチッと目を開く。わたしの顔の上には、覗き込むライアン様の顔が。


(あれ……わたし!?)


「すまない、このまま寝かせてやりたかったが、外は暑い。リーサも片付けで厨房に戻るだろう?」

「――っ! お邪魔してすみません!!」


 どうやらわたしはライアン様のお膝を枕にして眠ってしまっていたようだ。がばっと慌てて起き上がれば、ライアン様の腕にすっぽり身体を収められてしまった。


「――!?」

「リーサ、急に起き上がったら危ない。立ち眩みでも起こしたらどうするんだ」

「あり、ありがとうございます!?」


 ライアン様は真面目に心配してくれているだけなのに、わたしは過剰に反応し、慌てふためいてしまった。


「そこのほのぼの夫妻、休憩を終了していいですか?」

「ふっ!?」


 ルース様がとんでもないことを言ってきたので、わたしは固まってしまった。


「……リーサをからかうな、ルース。こんな純真な子どもになんてことを言うんだ」


 ライアン様がわたしの頭を撫でながらルース様を睨む。


「ええ? 団長もリーサちゃんなら問題ないんじゃないですか?」

「問題大ありだ!」


 ルース様の軽口に怒りながらもライアン様が片づけをしてくれるので、わたしも慌てて手伝う。


「じゃあ本当に誰とも結婚する気はないと? 気になる女の子といえばリーサちゃんくらいでしょう」

「気になる……」


 ライアン様は少し考え込むと、手を止めてしまった。


「えっ……団長、まさかいるんですか!? 気になる女性が?」

「そんなものは……いない」


 そう言うと、ライアン様はまた片付ける手を動かし始めた。明らかに考え込んでいるその表情に、ルース様もからかうのをやめた。


(ライアン様、気になる人がいたんだ……)


 自覚してしまったわたしの淡い初恋はあっさりと砕け散ってしまった。


(そうだよね……女性嫌いでも特別な人は別だよね)

「リーサ? やはり暑さにやられたか?」


 沈んだわたしをライアン様が心配そうに覗き込む。やっぱり優しい。でもそれはわたしだけにじゃない。


(特別な人にはどんな表情をみせるんだろう?)


 そう考えると胸が痛んだ。

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