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幼女になった落第聖女ですが、騎士団で女神と呼ばれています〜騎士公爵様がお探しの最愛はすぐ側に〜  作者: 海空里和
第二章 騎士団潜入

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騎士団潜入⑦

「リーサは本当にパン作りが上手だったんだな」

「今日はジャムだけですけどね」


 あれからわたしは、ライアン様と朝食をとることになった。

 クレイブさんからの要望を受けて明日からジャムパン作りを許可してもらったが、朝食は毎日ライアン様と食べる約束になったからだ。


(たぶんできるだけわたしと一緒にいることで守ろうとしてくれているんだよね?)


 優しいライアン様に胸の奥に光が灯ったよう。


「団長が優しい顔をしている……」

「女の子と朝食を食べてる……」


 わたしとライアン様のテーブルを、さきほどから騎士たちがチラチラと遠巻きに見ている。


(優しい顔……?)


 ライアン様が優しいのは確かだけど、わたしには無表情に見える。


「リーサ、本当に良かったのか?」


 もぐもぐと朝食を頬張るわたしに、ライアン様が躊躇いがちに尋ねる。首を傾げると、ライアン様は続けた。


「君はハリソンが迎えに来るまでのんびりしていればいいんだ。何も働かなくとも……」


 ああ、とわたしは頷く。やっぱりライアン様は優しい。


「大丈夫です! 腕がなまると困りますし……パンを作るのが好きなので」

「……義姉の死を乗り越えようと頑張っているんだな。偉いな」


 ライアン様はそう言ってわたしの頭を撫でてくれた。

 違うんだけどな、と思いつつ、そういうことにしておいたほうがいいのだろう。どこまでも優しいライアン様にわたしの胸は痛んだ。


(だましていることになるんだよね……。せめてパンを作ることで役に立たなくちゃ)


 フォークを持ったまま俯いたわたしに、ライアン様が言いにくそうに続ける。


「あの、それで、リーサ……。君はブルーベルベーカリーで働いていたんだよな?」

「はい」


 頷きながらわたしはライアン様の次の言葉を待つ。

 お兄様が中途半端に伝えたせいで、逆に驚かせてしまったみたいだ。まさかこんな子ども(本当は十八歳だけど)がパン屋で働いていたとは思わないだろうから。


(でも、クレイブさんもテオさんも納得してたんだよね。この国は能力主義だから、料理の世界でもそうなのかも。テオさんも副料理長だって言っていたし)


 聖女の素質がなかったわたしでも、ジャムパンでは認められているのだとわかり、この力が誇らしくさえ思えてきていた。


「その……リーサは……」


 考え込んでいたわたしに、ライアン様が言い淀む。


(どうしたんだろう?)


 ライアン様は何かを言おうとして、またわたしの頭を撫でた。


「いや……。すごいな、君は……」

「ありがとうございます」


 ライアン様に褒められたのが嬉しい。

 聖女になれなかったわたしでも騎士様の役に立てることがあるのだとわかって、わたしは笑顔になった。

 そんなわたしを撫で終え、ライアン様がジャムを付けたパンをかじる。


「……美味いな」

「えへへ」


 ジャムを食べたライアン様が口元を綻ばせて言うので、わたしはますますニコニコになった。


「なんだ、あの空間……」

「寡黙で冷酷な団長が……」


 ほのぼのとしたわたしたちのテーブルを見ながら騎士たちがおののいていたことは、わたしもライアン様も気づいていなかった。


「まあ、団長の親戚の子らしいから? 君たちも扱いには気をつけるんだね」


 副団長のルース様が騎士たちに説明をすると、騎士たちは顔を青くしていたようだった。


 ♢ ♢ ♢


「うん! できた!」


 その夜、わたしは明日の朝食用のジャムを作っていた。

 ジャムのレシピは企業秘密ということにして、わたしはクレイブさんに夜間の厨房を使わせてもらうことにした。

 立ち入り禁止の看板がある間は誰も入ってこない。もしこれが破られた場合、ただちにわたしがジャム作りから手を引くことになっている。そうなったら困ると、騎士団全員が厨房には近寄らないように誓いを立て合ったのだとか。


(わたしのジャムパンをそんなに好きでいてくれて嬉しいな)


 明日はアプリコットのジャムだ。甘く、コクのある香りが厨房内に広がる。わたしは手袋をすると、作ったジャムを瓶に移していく。


(でも、作り方を見られたら気持ち悪いって思われるよね……)


 ブルーベル領のみんなはわたしの力を受け入れてくれたけど、王都では違うのだ。それに、この能力はアリッサのものだから、絶対にばれてはいけない。

 明日はみんなと一緒にパンを作る。絶対に果実に触れるというミスをしてはダメだ。


 ふとお母様によく怒られていたことを思い出し、寂しくなった。

 

(お父様とお母様は、今回のことをどう思ったかしら?)


 大変なことに巻き込まれて、多大な迷惑をかけているのは明らかだ。だからせめて、お兄様の言う通りにライアン様を守らなくては。決意を固めたところで、ジャムを詰め終わる。


(みんなと作っていた頃が遠い日みたいだなあ)


 わたしが元の姿に戻れる日は来るのだろうか。

 早くブルーベル領の日常に戻りたい。そう願いながら、わたしは部屋へと戻っていった。



「リーサ、ジャム作りは終わったのか?」

「はい!」


 執務室から出て来たライアン様と鉢合わせる。ライアン様は箱を手にわたしの前でしゃがんだ。


「ちょうど良かった。ハリソンからだ」


 箱の中身を見れば、料理用の使い捨て手袋が入っている。


(お兄様……わたしが本当にパンを作ると思って送ってくれたのね)


 手袋があれば厨房の中でうっかり果実に触れてしまっても大丈夫だ。ほっと息をついて、わたしは箱をライアン様から受け取る。


「ありがとうございます」

「騎士団の厨房で扱う小麦は良質なブルーベル産だから、パンも作りやすいと思う」


 そう言ってライアン様が頭を撫でてくれる。子どもにするそれなのに、この優しい手にやみつきになってしまいそうだ。


「その……リーサ」


 わたしの頭を撫でていた手をどけると、ライアンさまは意を決したようにわたしを見た。


「はい」


 そういえば朝食のときも何か聞きたそうだったなとわたしはライアン様を見る。


「その……今回、ハリソンの使いで君の義姉と一緒に、騎士団へパンを届けてくれた女性がいるのだが……知っているか? 君と一緒に働いていたはずだ」

「ああ! はい」


 それはわたしだ。思わず返事をすれば、ライアン様の瞳が揺れた気がした。


「その人はブルーベル領に帰ってしまったのだろうか?」

「そうだと思います」


 ここにいます、なんてもちろん言えない。わたしは目を泳がせながら答えた。

 ライアン様は、どうしてそんなことを聞くのだろうか?


「やはりそうか……。いや、君が大変なときに変なことを聞いてすまない。その……彼女の名前を教えてもらえないだろうか?」

「どうして……ですか?」


 ドクン、と心臓が大きな音をたてる。


「俺は、彼女を探しているんだ」


 ライアン様の真剣な瞳にわたしはそこから動けなくなってしまった。


「彼女は入ったばかりの新人で……わたしもまだ名前を知らないんです」


 次の瞬間、わたしはライアン様に嘘をついていた。ドキドキと心臓がうるさく音を立てる。


「……そうか。立ち入ったことを聞いてすまなかった」


 ライアン様は少し寂しそうに笑うと、わたしの頭を撫でた。


 どうして彼がわたしを探しているのかはわからない。でも、ライアン様のその表情がわたしの心臓をぎゅっとさせた。

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