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幼女になった落第聖女ですが、騎士団で女神と呼ばれています〜騎士公爵様がお探しの最愛はすぐ側に〜  作者: 海空里和
第二章 騎士団潜入

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騎士団潜入⑥

「なんで今日はバターなんだー!」

「ジャムが食べたいよー!」

「昨日のジャムパンが忘れられないよー!」


 クレイブさんと食堂へ行くと、本当に騎士たちが料理人たちにブーブー文句を言いながら詰め寄っていた。


(食へのこだわりが強すぎる……!)


 騎士たちは常日頃から魔物と戦い、命をかけているのだ。魔力が淀めば身体も辛いと聞く。そんな騎士たちの、ジャムが食べたいというお願いくらい可愛いものかもしれない。特に朝食は一日の始まり。もしかしたら最後の食事になりうるかもしれないもの。

 それがわかっているからこそ、料理人たちも何も言えないのだろう。謝りながら騎士たちを宥めている。


(うーん、人手不足なのもわかるかも)


 騎士団の厨房ならお給金も良いはず。でも、クレイブさんのようにこの仕事が好きじゃないと続かないのかも。


「わ~、料理長早く来てください~」


 先ほどクレイブさんと言い合っていた料理人が泣きそうな声で叫ぶ。

 緑色の髪とお揃いの瞳がまだあどけなく、わたしと同じ歳くらいに見える。


「待たせたな!」


 ばばーんと効果音が聞こえてきそうな口調で、クレイブさんが颯爽と食堂へ足を踏み入れた。

 料理人一同が安心したかのようにクレイブさんを振り返る。文句を言っていた騎士たちも一斉に黙る。


(あら? クレイブさんには騎士たちも文句を言えないのね)

「お前たち……」


 クレイブさんが腕組みして料理人を背に騎士たちに立ちはだかると、騎士たちからは溜息がもれる。


「ごめんよ、クレイブさん。俺たち稽古で腹が空き過ぎて気が立っていたんだ」

「そうそう、この前朝食の女神の差し入れなんてあったから、それが忘れられなくてさ~」

「まったく、毎朝毎朝じゃれあいやがって」


 クレイブさんと騎士たちのやり取りにぽかんとする。

 どうやら騎士たちも料理人たちへ敬意は払っているらしい。そのうえで朝食の食堂は戦場なのだ。


「そんなお前たちに朗報だ! ほら、ジャムを持ってきたぞ!」


 ばばーんとまた効果音が聞こえそうな口調で、クレイブさんが鍋を騎士たちに見せる。瞬間、騎士たちからは歓声がおこり、みんないっせいに席についた。……ジャム効果すごすぎるでしょう。


「え? 料理長が作ったんですか? いつの間に……」


 先ほどの料理人がクレイブさんにひそひそ話す。


「その話はあとだ。早くジャムを配れ」

「はあ……あれ? その子どうしたんです?」

「いいから早く配れ」


 料理人がわたしにきょとんと視線を向けるも、クレイブさんの指示に急いでジャムを配り始める。わたしも鍋から皿に一人分ずつ取り分けるのを手伝った。

 そうして全員にジャムが行き渡ると、盛大な合掌がこだまする。


「いただきまーす!」


 今日の朝食メニューは、食パンにわたしが作った桃ジャム、新鮮なサラダにオムレツとベーコンを焼いたもの。

 騎士たちはまずパンにジャムをたっぷりと塗り、かじりつく。その様子をクレイブさんと並んで見守る。ちなみに料理人たちは騎士たちが食べ終わったあとに朝食をとって、まとめて片付けるのだとか。


「う、うまあ!?」

「パンはいつものだけど、ジャムが桁違いに美味い!!」


 パンにかじりついた騎士たちが口々に叫ぶ。


「えっ? 騎士たちが手放しで褒めるなんて……料理長、どんな魔法を使ったんです?」


 料理人がクレイブさんに耳打ちする。というかジャムに関しては騎士たちも厳しいらしい。ブルーベルベーカリーのパンのせいで騎士たちの舌が肥えてしまったというクレイブさんの話は本当だったらしい。


「ふっ、ふっ、ふ。このジャムはだなあ」


 クレイブさんが種明かしをしようとしたそのときだった。一人の騎士が叫ぶ。


「このジャムの味は……! ブルーベルベーカリーのものだ!」


 その叫びで他の騎士たちもざわついた。


「ん? 言われてみれば……?」

「だからうまいのか!」

「ちっ、ブルーベルベーカリーのオタクがいたんだったな」

「オタク……?」


 悔しそうに舌打ちするクレイブさんに、わたしは目を瞬く。


「ああ。あいつはな、休みのたびに前日の夜からブルーベル領に前乗りして、太陽が昇る前から店に並ぶらしい」

「ええ……!?」


 確かにわたしたちがお店に入る前から並んでいる人がいることはある。

 まさかそんなに早く並んでいる人がいるなんて。驚愕の事実に、わたしは自分のパン屋の人気さを実感する。


「まあそれで、ブルーベルベーカリーと契約して騎士団でもジャムパンを出してほしいと言い出したのはあいつだ。それから騎士たちの間でもブルーベルのジャムパンが話題になってな。食べたいと騒ぐ騎士たちを落ち着かせようと団長がわざわざ買いに行ったというわけだ」

「それでもジャムパン熱は冷めなかったというわけですね……」

「さすが朝食の女神だ」


 ぽかーんとするわたしにクレイブさんが真面目に答える。その二つ名は恥ずかしいからやめてほしいのだけど。


「あの味は唯一無二だからな……。見破られるか。はあ」


 溜息をついたクレイブさんがわたしに向き直る。


「リーサ、正式に俺の厨房に入ってくれないか? 団長にも話を通すから」

「それは、わたしが朝食のジャムを作っても良いということですか?」

「良いも何も、こちらからお願いしているんだ。もしかしてリーサはパンも作れるんじゃないか?」

「はい。パンもお作りしましょうか?」

「助かる!」


 わたしの言葉にクレイブさんが頭を下げる。


「えっ、料理長、どういうことですか!? この子があのジャムを作ったんですか!?」

「ああ。リーサはブルーベルベーカリーの職人だそうだ。リーサ、こいつは副料理長のテオだ。若くて口うるさいが、腕はいいぞ」


 がははと笑うクレイブさんにテオさんが口を尖らせる。


「なんすか、その雑な紹介……えっと、リーサちゃん? その年であのベーカリーに認められるなんてすごいよ。一緒に働けて光栄だ」

「あはは……よろしくお願いします」


 本当は十八歳であのパン屋の主人で、恥ずかしい二つ名の本人なんだけどね。わたしは苦笑しながらテオさんと握手した。すると、いつの間にか食堂内がシンとしているのに気づく。騎士たちが一斉にこちらを見ているではないか。


「まじ!?」

「えっ!? あのブルーベルベーカリーの職人を本当に引き抜けたってこと!?」


 わっと騎士たちがわたしを囲む。


「おい、落ち着け、お前ら!」


 叫ぶクレイブさんが騎士たちの波で遠くに追いやられていく。騎士たちは目をらんらんとさせ、矢継ぎ早に話していく。その中でも先ほどのうちの店のオタク騎士さんがわたしに詰め寄る。


「君は朝食の女神と働いているの!? どのジャムが一番好き? 俺はねえ……」

「ちょ、ちょちょ!」


 騎士たちにもみくちゃにされ、子どもの身体のわたしは埋もれそうになる。そこをひょいっと誰かに持ち上げられた。


「お前たち何をしているんだ」

「ライアン!」


 わたしを助けてくれたのはライアン様だった。その後ろではルース様がニコニコしながら立っている。

 ライアン様を見た騎士たちは固まり、同時に驚いて声をあげた。


「「「ライアン???」」」

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