騎士団潜入④
「ここが食堂だ。後で一緒に食事をとろう。迎えに行くからそれまでは部屋にいてくれ」
あの後、ライアン様に騎士団内を案内してもらうことになった。お仕事もあるのに、わたしによくしてくれるライアン様は、やっぱり良い人だと思う。でも、先ほどからすれ違う騎士たちはライアン様とすれ違うたびに緊張した様子で敬礼をしていた。わたしのことも触れずに、ただ驚いた顔で見ていた。
「団長、みんなが気にしてますよ。どうしたんですか、その子?」
髪の色と同じグレーの瞳が優しそうな騎士が、ライアン様に声をかけてきた。
「……親戚の子だ。預かっている」
「へえ、アスター公爵家の?」
さすがにブルーベル家に婚外子がいたことは口外できないと、ライアン様がそういうことにしてくれた。こういうところも含めて、お兄様は信頼してるんだなとしみじみ思う。ライアン様に投げすぎな気がするけども。
騎士はじっとわたしに視線を向けている。それから逃れるように、わたしは思わずライアン様の後ろに隠れた。
「リーサ、こいつは副団長のルースだ。怖がることはない」
わたしを安心させるように、ライアン様が頭をなでてくれる。子どもにするそれだというのに、心地よく感じてしまうのはなんでだろう。
「へえ……女性に優しい団長なんて初めて見ました」
「子どもに何を言っている」
ルース様が笑みを浮かべると、ライアン様は眉を寄せて顔をしかめた。
そんなライアン様から視線を逸らし、ルース様がわたしに微笑む。
「初めまして、リーサちゃん。おれは副団長のルース・サハラです」
サハラといえば、侯爵家だ。わたしはスカートの端を持って会釈する。
「初めまして、リーサです。今日から騎士団でお世話になります」
「……驚いた。もう立派な淑女だね」
(ええ。それはもう)
驚くルース様に、子どもらしくなかったかなと心配になる。
「さすがだな」
しかし、無表情のままわたしの頭を撫でるライアン様の優しい声に、誇らしくなった。
その言葉に含まれる意味が、「さすがハリソンの妹だ」だとわかったから。
えへへと笑えば、ライアン様の口元も少し緩んだ気がした。
「へえ」
ルース様がなぜか嬉しそうに笑う。
「これからよろしく、リーサちゃん。団長をよろしくね?」
笑顔で去っていくルース様に、わたしは目を瞬いた。
(よろしくお願いするのはわたしのほうでは?)
一通り騎士団内を案内してもらったところで、わたしは一つの部屋に通された。
「好きに使ってくれ」
先ほど訪れた団長室と同じフロアにあるその部屋は、黒を基調にしたシンプルな部屋だ。ベッドと、小さな丸テーブル、椅子が置かれている。
「俺の仮眠室だ。執務室と繋がっている。もちろん内鍵をかけられる」
淡々と指示を飛ばすように部屋の説明をしていくライアン様にぽかんとしていると、彼がわたしの前にしゃがみこむ。
「常にとはいかないが、隣に俺がいる。辛かったらいつでも訪ねて来ていい」
(あ……)
無表情だが、労わるようにわたしの頭を優しくなでる。ライアン様は、義姉を失った幼いわたしを気遣ってくれているのだ。
「ありがとうございます。でも騎士団長様のベッドを奪うわけには……」
「最近は執務室のソファーを使っているから問題ない。ハリソンから預かったからには、俺が君を守る」
すごく大げさな言い方だなあと思えば、笑みがこぼれた。
「ふふっ、ありがとうございます、騎士団長様」
「笑ったな」
ふわりとライアン様の表情が柔らかくなる。
(わ、笑った……)
笑ったのはあなたのほうでは? と心の中で突っ込みながら驚いた。
(ライアン様も笑うんだ……)
ドキドキと胸が高鳴る。
この人はこんなにも柔らかく、優しく笑う人なのかと、まるで宝物を見つけたかのようにわたしの心が弾んでうるさい。
「俺のことはライアンでいい。親戚ということにしてあるしな」
「ライアン様?」
「様もいらない」
わたしの頭をなでてから、ライアン様が立ちあがる。
「……ライアン?」
「なんだ? リーサ」
「!!!!」
窺うように呼べば、ふわりと優しい微笑みが返ってきた。ドッとわたしの心臓が空高く飛び出た気がした。
(こ、これは兄妹のやり取りみたいなものよ! そう! お兄様と接するのと一緒!!)
心臓を落ち着かせるように、わたしは自分に言い聞かせる。
「じゃあ俺は仕事に戻るから、しっかり休め」
「!?」
ライアン様はわたしを抱き上げると、ベッドまで運んでいった。
されるがままのわたしは、ただ呆然とするだけ。
ライアン様はわたしをベッドへ下ろすと、仕事へと戻っていった。
「~~~っっ!」
ライアン様を見送ったわたしは、顔を真っ赤にさせると、ベットの上に倒れ込んだ。
「ライアン様、ご兄妹が多いのかしら!? 小さい子の扱いに慣れているし、優しすぎない!?」
わたしは独り言を叫んで、天井を仰ぎ見る。
ライアン様から見たらわたしは八歳の子どもだ。しかも親友から預かった妹で。ライアン様に他意はない。
「それはわかってるんだけどお……」
わたしは中身十八歳なのだ。男性とあの距離で接っするのは、お父様とお兄様だけ。
「わたし、ここでやっていけるのかしら?」
セシリア様の監視と身を潜めるためとはいえ、心臓が持ちこたえる自身がない。
大きく溜息をつけば、瞼が重くなってくる。今日は王都にやって来て、殺されそうになって……いろいろあった。
今日の出来事をすべて思い返す前に、わたしは夢の中へと誘われていくのだった。




