恋って何だっけ
「皆さん。今日から一緒にお勉強をさせて頂きます。ラン・フォーリーウッドです。よろしく」
教室の黒板の前で女性教師ランがステッキを持って、トントンと黒板を軽く叩いた。
すると黒板にチョークで白い文字が書かれる。
「文字を書く魔法なんて珍しい。コントロールが難しいだろうに」
アンディが、黒板を見て言う。
黒板に、ラン先生のフルネームが書かれていた。
「本日は入学式に参加したら、解散になります。なお明日からは授業が始まりますので準備して来てくださいね」
先生は続けて、今日の予定を話していた。
「セレナどうしたの?顔が赤いわよ?」
私は、俯いているセレナに声をかける。
「ベルはアンディくんとどんな関係なの?」
チラリとセレナは私の目を見て様子を伺っている。
「え?幼馴染だけど」
「…そっか」
力なくセレナは頷く。
何々?一体どういう事なの?
「「みなさーん。では講堂に移動しますよ」」
先生の声が教室内に響いた。
質問の意味を問いただしたかったが、入学式があって場所を移動するようなので詳しい話が聞き出せなかった。
先生の指示に従い、クラスの人たちと一緒に廊下を移動していると。
ザワザワと話し声が聞こえてくる。
視線は、アンディに向けられているようだった。
数人の女子が、アンディを見てコソコソ話している。
「同じクラスになれて良かったよ」
「もう、びっくりしたわ。ここに来るなら言ってくれれば良かったのに。貴方の家に行ってもいなかったから、手紙書いて置いて来ちゃったんだからね」
「そうだったんだ。ごめんね。会って驚かせたかったんだよ」
二人で話していると、何処かから視線を感じた。
私、睨まれているような気がするんだけど、何か悪い事したっけ?
「あっ、あのう…一緒に行きませんか?」
金髪の長髪で、クルクルと縦に髪が巻かれている女子がアンディに話しかけていた。
ふわりと広がった白いドレスは、いかにも貴族のお嬢様らしい。
「何で俺が、アンタと一緒に行かないといけないの?」
「えっ…」
彼は冷たく言い返す。
金髪クルクル女子は固まっている。
多分、彼と仲良くなりたいと思って声をかけたのだろう。
「アンディ…もっと優しい言い方があるでしょうに。女の子震えてるよ?」
流石に言い方がきつすぎるわ。
あれ?私、彼女に睨まれてない?
「俺は、ベルにしか興味ないからな」
私の隣を歩いていた彼に、左手をぎゅっと掴まれた。
「手を繋いでいれば、はぐれないだろう?」
同じクラスで移動しているのだから、見失う事も無いと思うのだけど。
私が驚いた顔をしていると、彼は微笑んで見せた。
入学式が終わり、教室では生徒がそれぞれ帰り始めている。
初日は、授業が無くて式で終わりらしい。
私は、セレナと教室で話していた。
時々、彼が何を考えているのかよく分からない。
「ベルは…アンディくんの事どう思っているのさ」
「アンディ?どうって、友達だけど?」
「じゃあ、あたいがアンディくんと仲良くなっても良いよね?あたい、アンディくんの事が好きなんだ」
「す、好き?今日会ったばかりなのに??」
「うん。握手してもらった時、めっちゃドキドキした」
*
私は、寮の自室に帰りベッドで寝転んでいた。
部屋は広くないけど、一人部屋としては十分な広さだろう。
学生寮らしく、机と椅子が置かれていて空の本棚も置いてあった。
好きって…そんなに簡単に人を好きになるものだっけ?
私はずっと、道也の事ばかり考えていたから…そんな感情はとっくに忘れてしまった。
彼の事を思い出すと…悲しくなる。
楽しい思い出が、沢山あったはずなのに。
恋ってなんだろう?
「俺は、ベルにしか興味ないからな」
私は、アンディが言った言葉を思い出して、左手を眺めていた。